「誰もが“解像度”を高く持てるような仕組みを築く」アンドパッド コーポレート本部長 金子 洋一郎氏が組織づくりで大事にしている軸とは?
昨今、海外VCや機関投資家による投資などスタートアップ界隈を賑わせるBtoB SaaSの勃興。その中でも国内トップクラスの成長性を示すアンドパッド。“課題先進国”日本ならではの少子高齢化によって、人手不足が喫緊の課題となっている建設業界のDXを推進する同社の組織成長を執行役員コーポレート本部長兼社長室長として支える金子 洋一郎(Yoichiro Kaneko)氏のキャリア形成および仕事の軸に迫ります。
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“ニューエリートをスタートアップへ誘うメディア” EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。for Startups, Inc.のヒューマンキャピタリスト安室朝常と申します。
私たちが所属するfor Startups, Inc.では累計170名以上*のCXO・経営幹部層のご支援を始めとして、多種多様なエリートをスタートアップへご支援した実績がございます。*記事公開時点
EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
「幸せを築く人を、幸せに。」を掲げ、”現場”の負を解決するアンドパッドの事業
-- まずはアンドパッドの事業について教えていただけますか。
当社は、建設プロジェクト管理SaaS「ANDPAD」を展開しています。現場の効率化から経営改善までを一元管理することを志向したプロダクトです。
私たちは、「幸せを築く人を、幸せに。」というミッションのもと、現場の声を反映し使い勝手にこだわった開発と、「圧倒的な顧客体験」を目指すカスタマーサポートを目指して事業展開を進めています。
具体的には、現場監督様・職人様・協力会社様といった現場関係者間でのプロジェクト管理ツールとしての「施工管理」機能をベースに、施工管理周辺業務を支援する「検査」・「図面」などの機能や、オンラインでの受発注を可能とする「ANDPAD受発注」、原価管理・営業管理を包括的に支援するERP機能など、提供サービスの幅を順次広げています。
また、提供先のドメインも、住宅業界に加え、商業建築や専門工事業界の領域まで広げています。
2021年7月時点では、利用企業数10万社、累計ユーザー数26万人の方々にご利用いただいています。建築/建設業界の大きな負を解決するカテゴリーリーダー・プラットフォーマーとなるべく、新しい挑戦を次々に仕掛けているところです。
-- その中で、金子さんの役割を教えてください。
アンドパッドの成長を支える、人事・財務経理・総務・情報システムなどのコーポレート系業務と、組織横断で取り組むプロジェクトの推進を管轄しています。
実現したいミッションや世界観に突き進む働き方に憧れた学生時代
-- いつからスタートアップへの関心を抱いていたのでしょうか?
大学では化学の基礎研究を専攻しており、将来的に研究職に就くつもりでいたのですが、“ベンチャー論”を教える講義を受けたことがきっかけで、スタートアップという世界があることを知り、その世界に惹かれたことを記憶しています。
-- スタートアップに惹かれたポイントを教えてください。
ミッションの実現に向かって、メンバーが集い、それぞれの想いや才能、そして専門性を結集して、コトを成し遂げる一体感が素敵だと感じたことです。定量定性の目標に向かって仕事を単にするのではなく、大前提として実現したい明確なミッションや世界観があり、そのミッションや世界観を実現するべく仕事をしている姿が、魅力的に感じました。
-- 大学の授業がきっかけで、目指す先が研究者ではなく、スタートアップに変わったのですね。そこから公認会計士資格取得に向けて歩み始めたのは、どのような理由からでしょうか?
スタートアップの世界に飛び込みたいと考えたときに、自分が専攻していた領域とは大きなギャップがありました。当時は、公認会計士がそのギャップを埋めるために必要な専門スキルを得られると考えたこと、企業全体を俯瞰して見ることができ、経営者とも近い距離で仕事ができることに面白みを感じて、資格を取得しました。
大手監査法人の中で、あえてスタートアップな環境に飛び込み、仕事の軸を見つける
-- 新卒で有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)札幌事務所を選ばれたのは、なぜでしょうか?
将来的にスタートアップで活躍するためには、一つの道のスペシャリストになるよりも、幅広く経験していることの方が重要と考えました。そのため、セグメントやファンクション別に部署が分かれている東京拠点ではなく、携われる業務の幅が広く、個の力がより問われる地方拠点での勤務を選択しました。その中で監査だけではなく、多様なサービスを提供していたトーマツの札幌拠点を選びました。
-- 実際に少人数の事務所に飛び込んでみて、いかがでしたか?
経験の幅を広げる機会に恵まれました。例えば、札幌のメンバーだけでは対応しきれない大規模な案件や複雑な案件にあたる場合には、東京からその分野のエキスパートが来て、チームを組成します。その道のエキスパートたちと一緒に働くことで、そのノウハウを実務のなかで学ぶことができ、非常に恵まれた環境でしたね。
-- 幅広い案件に携わることができる札幌の事務所であったからこそ、様々な領域のエキスパートと仕事できて、そのノウハウを吸収できる環境だったのですね。監査法人時代に、仕事を進める上で大事にされていた考えはありましたか?
現場の解像度を高めることを大事にしていました。特に複雑な案件になると、クライアントから情報をもらい、事務所で資料を見て考えるだけでは、経営者に正しく意思決定いただくための本質的な課題を捉えた提案に辿り着きません。そのため、実際に現場に足を運び、そこにどんな人がいるのか、どのように物が動いているのかなど、現場の解像度を高め、本質を見極められるように実際に現場に入り込むようにしていました。
-- そこから、スタートアップ支援に特化しているデロイト トーマツ ベンチャーサポート(以下、DTVS)も兼任されていますね。どのようなきっかけだったのでしょうか?
私がスタートアップへ関心を持っていることを所長が知っていてくれて、DTVSの地方拠点立ち上げの話をつないでいただいたことがきっかけです。
-- 深くスタートアップと関わっていく機会だったと思いますが、いかがでしたか?
本当に「なんでも屋」という感じで動いてました。自分自身が十分に価値貢献できるほど実力がなかったこともありますが、資金調達の計画やピッチをブラッシュアップしたり、投資家と引き合わせたり、時にはスカウトを打って採用面接も行ったり、できることはなんでもしました。支援先が投資家から資金調達できたり、一人のキーマンの採用で支援先の景色がふっと変わる瞬間があったりしたときにやりがいを感じましたね。
目の前の忙しさに流されないように、視座を戻す・高める機会や仕組みを意図的に創る
-- その後、DTVSからagtechスタートアップにジョインしてますが、当事者として参画した実感はいかがでしたか?
実際にスタートアップに当事者として参画して感じたことは、「組織のメンバー全員でミッションやビジョンを追い求め続け、視座を上げ続けること」の難しさです。それまでは、「頑張っていればビジョンに向かって事業や組織が進むもの。」と漠然と考えていた自分に気付かされ、考えが甘かったことを痛感しました。
-- 目先の忙しさにとらわれず、視座を上げ続けるための工夫が必要ということですね。
まさにです。スタートアップの場合、経営者であろうとマネジメントであろうと現場の業務や目先の課題が数多く発生します。目先の現場業務だけにとらわれると、どうしても視座は下がっていき、ともすればビジョン実現に向かうスピード感や推進力は落ちかねません。そのため定期的に視座を戻す・高める機会や仕組みを意図的に組織やコミュニケーションの中に組み込むことが大事であることを学びました。
“コト”に向き合うアンドパッドの価値観に共感し、組織の成長を支える役割を担う
-- アンドパッドとの出会いを教えてください。
フォースタートアップスの執行役員兼タレントエージェンシー本部GMの六丸直樹さんに転職活動をサポートしていただく中で、「金子さんの価値観と合うスタートアップがあります」とアンドパッドを紹介してもらいました。
私自身、正しい議論をするという価値観を大事にしています。正しい議論というのは、”コト(事象)”に本質的にフォーカスして議論する事を指しています。特に、スタートアップにおいては、リソースも時間も限られている中、正しい議論のもと意思決定を積み上げていくことが重要であると考えています。
実際に、代表の稲田に会ってみると、“コト”にフォーカスする、本質がどこにあるのかをぶらさずに考える人でした。当時は社員数が50名程度でしたが、既に成長率、ユニットエコノミクスも素晴らしく、その背景には、建築/建設業界のリアルに向き合い、顧客を中心に議論を突き詰めていたことにポイントがあることがわかり、アンドパッドにジョインしました。
-- 建設業界のDXを推進するアンドパッドは、それまでのキャリアとは異なった領域だと思いますが、抵抗感などはなかったのでしょうか?
特にありませんでした。解像度は取りに行けば良いと考えていたのと、トーマツに在籍していた際に工務店やハウスメーカーの業務改善コンサルを担当しており、業界や現場のペインを肌感持って仕事をした経験があったからです。
その際に感じていた課題は、建設業の経営数値に大きな影響を与えるのは現場でありながら、経営と現場をつなぐのが少数の現場監督とアナログな手段のため、現場が見えにくいということでした。アンドパッドは、いわば経営と現場のコミュニケーションに強みをもったプロダクトを志向しており、現場の方々にも喜ばれる機能を実装することで、現場から情報が入ってくる流れを作ろうとしている点に強く共感し、そこに一緒に挑戦したいと思ったこともジョインした動機の一つです。
-- 当時から現在にかけて、組織も急成長をされているかと思いますが、コーポレート本部の立場から意識されていることを教えてください。
アンドパッドは2021年9月時点で500名の組織になっており、私が入社した当時の10倍の規模になっていますが、本当にあっという間にここまで来た印象です(笑)。
組織が急拡大すると制度や仕組みが追いつかずカオスに陥るケースもあります。そのため、制度や仕組みをどんどん形作って積み上げていき、事業やオペレーションに再現性を出していくことが重要だと考えています。アンドパッドもまだまだ改善の余地がありますが、日々新しくジョインする仲間と仕事を進める中で、組織として再現性が出てきたり、強くなっていることを実感しています。また、再現性が出て、業務が安定することで、より新しいことにチャレンジができるといった好循環にもつながっていくと考えています。
多くの仲間が活躍できる仕組みを築いていくことがコーポレートの役割
-- 今後、取り組んで行きたいテーマはありますか?
誰もが“解像度”を高く持てるような仕組みを作っていきたいと考えています。組織が大きくなると、現場の解像度やコトの本質にたどり着けず、その人が本来持っている力を発揮できないというケースが出てきてしまいます。それは非常にもったいないことだと感じていて、解像度を高めたり、情報を正しく取りに行ける環境を提供して、アンドパッドの仲間1人1人がバリューを発揮できるような仕組みをコーポレートとして進めていきたいと考えています。
-- 解像度を高めることで本質を見極めて、より大きな価値を業界に提供していきたい、ということでしょうか?
はい。アンドパッドでは、創業期から現場に“寄り添う”、“向き合う”ことを大切にしています。
その姿勢を徹底的に突き詰めることで、真に現場の課題を解決できる良いプロダクトが生まれ、現場で使いこんでいただけるようになります。現場で使い込んでいただくことで、さらに正しい良質なデータが溜まるという流れができ、このデータアセットが建設業界のプラットフォーマーとして成長し、業界に貢献していくうえでのベースになると考えています。このように現場に“寄り添う”、“向き合う”ことがすべての始まりであり、「幸せを築く人を、幸せに。」というミッションの実現に向け、事業がポジティブに循環していく源泉になると考えています。
-- 最後に一緒に働きたい人物像を教えて下さい。
組織拡大に応じて、多様化が進む中で、コーポレートとしては求められる役割はどんどん変わっていくと思います。その中で、やるべき定常業務を進めることと同時に、新しい仕組みを作っていくことや改善していくことに意欲的な人と一緒に働きたいと考えています。
また、リモートワーク化でのコミュニケーション設計だとか、新入社員のオンボーディングだとか、コーポレートが仕組みを作っていく役割は多くありますが、そういったノウハウはIT業界・スタートアップに限った話ではなく、私たちが向き合う顧客や業界にもシェアできるノウハウだと考えています。
コーポレートも新しい挑戦をしていって、得られたノウハウを顧客や業界に還元し、プロダクト以外でも建設業界に対する価値貢献ができる、そのような姿が業界特化で事業を展開するスタートアップの一つの形なのではないかと考えています。そこに価値を感じてくれる人ともぜひ一緒に働きたいと思います。
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金子氏をご支援したヒューマンキャピタリスト
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