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ヨーロッパ的なるもの:小話23 仕事は煙突掃除です

【仕事は煙突掃除です】
英国人から「仕事は煙突掃除です」と言われたらどんな気がするでしょうか?「煙突掃除って? あの煙突掃除?」とメリーポピンズの一場面を思い浮かべた人は、ミュージカル映画ファンかある年齢以上の人かのどちらかかもしれません。そう、「あの煙突掃除」の仕事は、実は21世紀の英国でも健在なのです。
 
 再開発地区を除き、英国には古い建物が多く残っています。19世紀のヴィクトリア朝時代の建物は当たり前で、ロンドンでは18世紀のジョージ王朝時代の建物も健在で、オフィスやフラット(アパートのこと)に使われていたりします。
 
 そんな建物の屋根には煙突がニョキニョキと並び、英国の町のスカイラインの一部になっています。建物のてっぺんには煙突があるのが当たり前なので、新しい建物を見るとそこにあるべきものが無く、つまらなく感じます。しかしそれってまだ使っているのでしょうか?
 
 原則として、21世紀の現代でも英国では暖炉の使用は禁止されていません。ただ各都市や地域の規制で実質的に使えないところはあります。ロンドンはスモークレス・ゾーンに指定されているので、屋内で木や石炭を燃やすことはできません。しかし地方では店や自宅に暖炉や木を燃やすストーブがあるのは珍しいことではありません。
 
 となると煙突掃除の仕事は当然成立つことになりますし、必要です。英国政府の英国内の職種を紹介するウェブサイトには、ちゃんと”Chimney sweep”というページがあって、仕事の内容やどうすればなれるかの説明が記述されています。
 
しかしそれはどのぐらいの収入になるのでしょうか? 業界団体の資料によると:
 ・見習い:年収£11,000(税込み)程度(200万円程度)
 ・資格取得後の新人:年収£21,000(税込み)程度(400万円程度)
 ・雇用者平均:年収£44,000(税込み)程度(840万円程度)
 ・独立した場合:年収£53,000(税込み)程度(1,000万円程度)
労働時間は、週に40時間程度(英国政府サイト)
 
となっています。煙突自身だけでなく、その他の煙路からスムースに煙が外に出るようにすることは、室内の空気環境や火災防止、健康維持の上では極めて重要ですから、いい加減にできる仕事ではありません。煙突掃除になるには、英国ではいくつかある業界団体でコースを受講するか、昔ながらにどこかの親方に弟子入りさせてもらい、2年間ほどの修行が必要です。そして業界団体の発行する資格を得て、独立するか雇われることなります。
 
 しかし、「こんな古い仕事が残っているのは、何でも古臭い英国だけじゃないの?」という声も聞こえますが、実はそうではありません。ドイツには現在約8,000人の煙突掃除がいます。ルールに厳しいドイツでは、煙突掃除になるには3年間または3年半の教育が必要で、それを終えるとDQRというドイツの資格制度のレベル4の職業資格が授与されます。
 
ドイツには「煙突掃除のススが顔にかかったら幸運」(*)言う迷信があります。この迷信は、21世紀の現代でも立派に生きていることになります。
 
  *:拙著「ヨーロッパ ちょっと楽しい迷信とことわざ」参照
 
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