ヨーロッパ的なるもの:小話9 直して永く使おう
【直して永く使おう】
ヨーロッパにはアンティークやヴィンテージものを単に陳列や室内装飾のためだけでなく、日常生活でごく普通に使う文化が根付いています。街中のショップやマーケットで小さな家具や食器、花瓶、道具等々が、リーズナブルな価格で手に入ります。
これは修理文化とつながっています。アンティークやヴィンテージものは古いままのものもありますが、修理され、家具はニスも塗りなおし、味と輝きを取り戻して並ぶものも少なくありません。有名なリペア・カフェもこの修理の伝統の流れの中にあると言って良いでしょう。オランダの環境活動家マルチン・ポストマが、動かなくなった家電製品などが捨てられてしまうのを防ごうと、2009年にアムステルダムで始めました。リペア・カフェでは、持ち込んだものをボランティアの専門家のアドバイスを得て、道具を借りて自分で直します。
リペア・カフェの活動が盛んな御三家は、オランダ、英国、フランスです。2023年にはオランダの68ヶ所で開かれ、修理した数は約1万3000個に上りました。英国では50ヶ所で、やはり1万3000個を修理。フランスでは36ヶ所、約3300個。修理成功率はだいたい6割です。持ち込まれるものは、オランダが、1位のコーヒーメーカーに掃除機、ミシンが続きます。コーヒー好きの文化を反映し、またオランダ人は自分で衣服を直し、そのためのミシンも壊れたら直すのでしょう。英国は1位剪定ばさみに時計、掃除機。ガーデニング好きの英国文化が現れています。フランスが、コーヒーメーカー、掃除機、トースターの順。
英国のBBCに「ザ・リペアショップ」という番組があります。人々が深い思い出を持つボロボロになった人形や革製品、動かなくなったおもちゃ、道具、時計などを持ち込み、超一流の専門家たちがそれらを見事に再生して見せます。その技術力には感嘆せずにはいられません。クライマックスは、依頼者が修理なったものを引き取りに来る場面です。ほぼ例外なく絶句し、多くが涙ぐみます。2022年、番組になんとチャールズ国王が登場しました。館から持ってきたものを直してもらったのです。環境保護に熱心な国王は、この番組が好きで良く見ているようです。
英国ではオランダ発のリペア・カフェ以外にも、各地で地方自治体やファンドからの支援を受けて似た取り組みが広がっています。やはりボランティアの専門家と一緒に修理し、簡単な電気製品ならば成功率9割、ラップトップPCで6割程度とも言われます。
教会に限らず、建物はいったん建てたら、数百年は使い続けようとするヨーロッパです。そのことがヨーロッパの落ち着いた風景の要になっています。道具も、愛用品を長らく使い続けられるならば、自分のアイデンティティの一部となって心の安定にも寄与するかもしれません。
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