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ヨーロッパ的なるもの:小話11 ディスカウントありがとう

【ディスカウントありがとう】
 本来、価格というのは売り手と買い手が合意したところに成立するもの。とはいっても、スーパーマーケッやデパートの商品にはみな値札が付いていて、客がそれらを価格交渉なしに買って行くのは、ヨーロッパも例外ではありません。
 
 それではヨーロッパで物を買う時は、いつも定価かと言うと意外にそうではないことがあります。言い方を変えれば、値切れる時と場所がある。それは人と人の触れ合いが前面に出てくる場合です。その典型は、アンティーク・マーケットや蚤の市でしょう。アンティーク・マーケットで、値札通りで買うのは買い物の楽しみ半減とも言えるほどです。
 
 まずは、その価値を自分なりに決めるために、それは何なのか、いつの時代の物なのか、不具合は無いのかなどと、店主や店員と会話をはじめます。その話ぶりから、値切ると不機嫌になりそうかどうかも感じ取る。その物にも人にも問題なさそうで、それが手に入れたいのならば、値札があっても気づかないふりをして、まずは聞いてみる。店主が言う。おもむろに、こっちの言い値を返してみる。
 
 これで相手がそっぽをむけば、潔くかつ礼儀正しく退散する。もし相手がカウンターを返して来たら交渉の始まりです。その瞬間に、値札より安く買えることが決まったことになります。そこからはゲームです。シーソーのように楽しみながら何度かやり取りがあって、どこかに着地。ポイントは、険悪な雰囲気ではなく会話を楽しみながら交渉することです。
 
 ヨーロッパの様々な国や地域は、それぞれ異なった文化を持っています。決まりごと重視で、値切り交渉を始めたら冷たい目線が返って来る地域もあれば、商売人マインドが旺盛で、価格交渉は当たり前と考えているところもある。同じイタリアでも、ミラノでは嫌がられるが、南イタリアでは当然とも言われます。
 
 その中で、意外に価格がフレキシブルなのがロンドンです。モノづくりというよりも、金融や海運、その他のビジネスで発展してきた商売人の街です。そんなロンドンの中古品店では、価格交渉をしても馬鹿にされるあまりないでしょう。筆者は中古のカメラや携帯電話もそうして手に入れました。
 
 それどころか、ディスカウント店でも中古品店でもない普通の店でも値札以下で買えることがあります。英国では接客をする店員が値引き権限を与えられていることがあるためです。話をしている内に、私の権限で〇%引いてあげるからどう?と言われたことが幾度もあります。
 
 それどころか、「店員は店側よりも客側に立っている?」と感じる時さえあります。以前、英国で冬のセールの前にコートを買いに行ったら、「今、買うな。何日後のセールでこれはいくらになるから、その時に俺を訪ねて来い」と言われたことがありました。ベルギーで、安いヴィンテージの動物の置物を買ったとき。同じものが幾つか並んでいて「どれにする?」と店主。「あなたはどれが良いと思う?」と当方。「これは目がおかしい、これは色がずれている。私はこれが良いと思う」「それもらいます。ありがとう!」
 
 ロンドンで本を買ったとき。見当たらないので相談したら英国中のチェーン店の在庫を調べてくれました。しかし絶版で、どの店にもない。なんとか遠方に一冊だけ見つかったが、電話で聞くと長く書棚にあったので少し傷んでいるとのこと。それでも欲しいというと、何も言わないのに当然のように値引き。また別のあるとき、アムステルダムで英語の本の探しもの。見当たらないので店員に相談したら、一生懸命探してくれて見つかった。喜んで一緒にレジに行ったら、おもむろに「〇%引いてあげる」と。「?」これは古い本ではありませんでした。理由は不明。相手の気が変わらぬうちに、満面の笑みを返して感謝!
 
 ベルギーで、ホテルを延泊しなければならなくなりました。金曜にレセプションに頼みに行くと「私の権限で5%は引いてあげられるけれど、月曜にマネージャーが来るから、彼女ならもっとディスカウントできるかも」と。もちろん月曜に再チャレンジ。「金曜の優秀なレセプショニストのアドバイスなんだけど」と切り出すと、「そう彼女は良いでしょう?」とにこやかに話が進み、ホテル代10%ディスカウント獲得。
 
 売った方は売り上げがゼロでは無くて幸せ、買った方は節約できて幸せ。その間の会話も楽しければ、なお幸せ。ただし、実行する前にその地域のことを良くお調べになることです。老婆心ながら。

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