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【第6話】いたわりのチキン

ここは、クウ星のとある街にある、少食さん向けの会員制隠れ家カフェ。
カフェのあるこの街も12月になり、日々寒さが増してきました。
クウ星の12月には「いたわりの日」というイベントがあります。
この1年を労わり、1人でのんびりしたり、家族や友人と楽しく過ごす日です。
 
今日はそんないたわりの日の前日。
常連のローミニさんは毎年、この日の夜はこのカフェで過ごしていました。
ローミニさんは普段は1人で過ごすのが好きなのですが、マーチさんやこのカフェのお客さんと話すのはそこまで嫌いじゃありませんでした。
特にサッゴさんとはどこか同じものを感じて、話をするのも聞くのも楽しく感じているようです。
 
そんなローミニさん、今日はサッゴさんとカウンターで並んで食事をする事にしました。
メインのお料理は、お洒落なお皿に、程よい量のチキンのステーキに上品さと深みを感じるトマトソースが掛かっていて、付け合わせの野菜も緑が濃くてシンプルながら美味しそうです。
 
空腹も大分満たされた頃、サッゴさんがぽやーっと口を開きました。
「そのー……、これは愚痴って訳じゃなくて、ただ聞いて欲しいお話なんですけど……」
「オヨ? なんでしょう?」
 
「去年のいたわりの日の夜、仕事が終わってスーパーに行ったんです。 そしたらチキンがまだいくつか売ってたので、買って帰ろう!って思って、少しでも小さいサイズのチキンを探してたら……」
「うん(サッゴさんのスーパーネタ……愚痴じゃないってなんだろう?)」
 
「店員さんがひょこっとやってきて、“こっちの方が大きいよ~♪”って言って差し出してきてくれたんです」
「ナント!」
 
サッゴさんは一呼吸置くように、アイスティーにサッと口をつけて続けました。
「きっと店員さんは、どれも同じ値段だし、売れ残っちゃう可能性もあったから、少しでもお得なものをって声をかけてくれたんでしょうね。
 大きくても、分けて次の日にとっておけるし、全然困りはしなかったんですが、世間的にはそういう感覚だよねぇって思って。 でも、中々嫌味なく普通の人に話せないなぁなんて思ってたんで、まさか次の年にこうしてお話出来ると思わず、何だか不思議な気分です……!」
サッゴさんは言い終えてローミニさんの方に頭だけ向けました。
 
「おぉお……そうですよね。 でもサッゴさんがこうしてお話出来て良かったです。 うぅ、他愛ない話をするのも結構大事ですもんね」
うんうん、と言いながらサッゴさんはチキンを一口ほおばりました。
「ことしはおなかもこころも いっぱい いたわりのひ でふ……(前日だけど)」
口元を隠しながら返事をするサッゴさんを横に見ながら、こういう話が出来るのも、このカフェの魅力なのかなぁ、と改めて思ったローミニさんでした。

当作品は架空の宇宙(星)のお話です。
登場するキャラクター・名称・店名・イベント等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
色んな感覚の方がいらっしゃるので、合わないなと思った方は閲覧を控えてください。

●作者コメント●
サッゴさんの来店頻度が気になりますね。
この作品で深い恋愛的なものを描く事は無いと思いますが、無理にカテゴライズしない、ほっこりするようなものを書けたらいいなぁと思います。
次回もご来店お待ちしております!

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