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変わらない君、変われない僕。

あいいろのうさぎ


 雨が降ったら傘を二本持って町外れの公園へ向かう。
 今日の雨は歩きやすいくらい弱く、傘を鳴らす音も小さい。だが、この程度の雨でも人通りは少なくなるもので、公園に近づいた頃には誰もいなかった。

 人がいないのは助かるけれど、こうも遠慮がちな雨だと君を探すのが難しそうだ。

 地面をじっと見て、不自然に水が跳ねているところがないか探す。水溜まりのできるような大雨であれば、ばしゃばしゃと水しぶきをあげて遊んでいるからすぐわかるけれど、今日はどんなに頑張っても水しぶきは作れそうにない。

 でも、なんとか見つけることが出来た。ぴちゃぴちゃと歩く音がする。僕はその音がする方へ子供用の黄色い傘を差しだした。音が止まって、差し出した傘が宙に浮く。ぼんっと音を立てて傘が開くと、そこに君の姿が現れた。

「久しぶり」

 僕が言うと、君はくりっとした大きな目を細めて満面の笑みを作った。


 君と出会ったのは、君が交通事故に遭った翌日の雨の日だった。
 あの頃は君の姿がはっきり見えて、声も聞こえて、普通の女の子にしか見えなかった。けれど君の顔はニュースで流れていた写真のままだったし、僕以外には君の姿は見えないらしい。おまけに雨の日にしか君とは会えなかったから、これは何か特別な事なんだと幼心に理解した。

 幼い頃は普通に遊んでいたけれど、僕が大きくなるにつれて、君の声が聞こえなくなり、君の体温を感じなくなり、ついには見えなくなってしまった。あの日、君が僕の傘に触れてその姿を現してくれなければ、きっとそのままお別れしていただろう。

 そうなっていれば良かったのかもしれない、と思う時もある。
 僕はいつになったら君とお別れできるのだろうか。そう考えずにはいられない。今、僕は君の存在に頼っている。学校には居場所がなく、家族でさえ僕を腫れ物に触るように扱う。僕に変わらず接してくれるのは、君だけだ。

 今日だって、学校を休んでいる僕を責めることなく、あの頃と変わらない無邪気さで笑いかけてくれる。

 君はいつまでもそのままで、僕は不格好に大きくなってしまった。
 僕は進まないことを選んで、成長できない君と一緒にいる。現状を打破すべきだと分かっていながら、停滞を繰り返すことを止められない。そんな僕を叱らない君に甘えている。

 きっと僕は今日も君が楽し気に遊ぶのを見守って帰っていくのだろう。まだそれでいいかな、と思う僕に君は笑顔を見せる。

 こうやって救われるのを許してくれますか。

 静かな雨は答えてくれない。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 「変わらない君、変われない僕。」は『雨の静けさ』がお題の短編小説でした。

 雨の中で変わらない君と会うことをやめられない変われない僕は、これからどんな未来を迎えるのでしょうか。

 今作をお楽しみいただけていれば幸いです。
 またお目にかかれることを願っています。

あいいろのうさぎ

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