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聞き間違って、ない?
あいいろのうさぎ
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先輩が最後に出場するコンクール。美術は個人戦だから私の結果なんて先輩にとってはどうでもいいのだけど、それでも何かしら入賞したかった。ずっと私に絵の知識を教えてくれた先輩のおかげでここまでこれましたって、言いたかった。
「なのに、佳作にも入ってないとか、後輩失格です……」
「後輩に失格も何もないよ。君は私にとってずっと可愛い後輩なんだから」
先輩はそう言って頭を撫でてくれるけど、私は悔しさと結局先輩に慰めてもらっている情けなさで涙が出そうだった。視界が滲んでいく。
「しょうがないなぁ、君は」
先輩も私が泣きそうなのに気づいたらしい。
「そんなに泣きたいなら膝枕でもしてあげようか?」
優しい笑みを湛えてそんな冗談を言った。
私は思わず笑ってしまった。
「どうして泣きたいときに膝枕なんですか?」
聞いてみると、先輩は一瞬、本当にほんの一瞬だけ固まった。戸惑っているように感じたけれど、次の言葉を聞いた時にはもうそんなことを忘れていた。
「何言ってるの。膝枕って言ったら甘やかしの最上級でしょ?」
なぜか得意げに話す先輩の姿に、やっぱり私は笑ってしまう。
「そうですかね」
「そうに決まってるよ」
自信満々に返す先輩の言葉を聞いていたら、いつの間にか視界はクリアになっていた。
「急に膝枕とか言われてビックリしたので涙も引っ込んだみたいです。そういう作戦だったんですか?」
冗談半分に聞いてみたら、先輩の言葉はちょうどチャイムに被って聞き取りづらかった。
「ごめんなさい。チャイムで聞こえなくて……」
「大したこと言ってないから、大丈夫」
じゃあ私ちょっと職員室行って顧問呼んでくるね、と先輩は美術室を後にする。
美術室は静寂に包まれる。だから自分の鼓動が大きく聞こえる。大きいし、早い。簡単に言ってしまえば、ドキドキしている。
チャイムに被ったあのセリフ。私にはこう聞こえた。
「……作戦とかじゃなくて、本当にしてあげてよかったんだけど」
聞き取りづらかったとはいえ、なんて脳内補正をしてしまったんだと頭を抱えたくなる。大したこと言ってないと先輩は言った。きっと聞き間違いだ。そうだ。先輩が私に膝枕してくれるなんて、そんなのあり得ない。
そんな、まるで、好き合ってるみたいなこと。
私の想いに、気づいてるみたいなこと。
あとがき
目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。
今回の作品のお題は「膝枕」です。私にしてはちゃんとお題に沿った作品を作れたかと思います。今回の子達は後半部分の台詞を引っさげて私に会いに来てくれました。正直「なんだこの可愛い子達は」と思いました。親バカですね。 そんな可愛い子達の会話をお楽しみいただけていれば幸いです。
またお目にかかれることを願っています。
あいいろのうさぎ