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泣き腫らして笑み
あいいろのうさぎ
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今日の私は、ゆりこに何度も心配されるほど様子がおかしかったらしい。保健室に行くことや早退を勧められた。でも、それを出来るだけの充分な理由は私には無くて、私に出来たのは、放課後話を聞いて欲しいとゆりこに頼むことくらいだった。
ゆりこはそれを快諾して、学校の最寄り駅から少し離れたファミレスに連れてきてくれた。ここなら同じ学校の生徒もあまりこないからと言って。
「何でも聞くよ。ゆっくりでいいから」
ゆりこは紅茶にミルクを入れてスプーンでかき混ぜる。
私は何を話すべきか頭の中で整理しようとした。けれど、整理するほど複雑なことじゃない。事実はたった一つきりなのだから。問題はどう伝えるかだ。
「呼び出しておいてアレなんだけど、あんまり大した話じゃないんだ」
そう一言おいてから、お願いだから気にしないでという願いを込めた明るすぎる声で告げる。
「彼氏にフラれちゃったんだよね!」
怖くてゆりこの顔が見れない。
「しかもあいつ二股してたらしくてさ、私にはもう興味ないって、酷くない!?」
私はきっと、上手く喋れたと思う。ゆりこから「それはないわ~!」とか「わっ最低じゃん」とか、同じテンションの言葉が返ってくるって、そう信じた。
だけど、恐る恐る覗いた彼女の瞳は、潤んでいた。
「ゆりこ泣きそうだよ? 優しすぎ!」
テンションを変えないように、自分が泣かないように、そう言ったのに。
「菜々美」
ゆりこは真剣そのものの顔で私に告げる。
「自分の傷をそんな風に誤魔化さないで。私の前でくらい、泣き喚いてよ」
言われた途端、頬を雫が伝った。
止めよう止めようと思うのに、張り詰めていた心が解けて涙は止まらない。
「菜々美のことだから、ずっと我慢してたんでしょ? よく頑張ったね。でも、もう我慢しなくて大丈夫」
ゆりこの言葉を聞いていたら、押し込めていた感情が溢れ出してきた。悲しみも、怒りも、楽しかったはずの思い出も、それを全部ぶち壊しにした言葉も。ゆりこに何を話したのか、私はよく分かっていない。でも話すたびにその瞳を潤ませて、たくさん共感して、受け取ってくれた。
落ち着いた頃にはお互い泣き腫らした目をしていて、「ひどい顔」と言って笑いあった。それが、言い表しようもなく幸せだった。
あとがき
目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。
今回は「潤んだ瞳」をお題に小説を書きました。最初は話の種がなかなか出てこなくてどうなることかと思いましたが、私にしてはお題に沿った小説を書けたのではないかと思います。今作をお楽しみいただけていれば幸いです。
またお目にかかれることを願っています。
あいいろのうさぎ