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ごめん、半分冗談

あいいろのうさぎ

 修学旅行と聞いたら何を連想するだろう。旅行先の地名を想像するかもしれないし、あるいは学生生活のビッグイベントとしてワクワクするという人もいるかもしれない。
 私にとってはひたすら気が重いイベントである。
 修学旅行自体が嫌というより、修学旅行より優先したいことがあるから嫌なのだ。
「三奈子、そんな顔しないでよ。『一刻も早く家に帰りたい』って顔に出てるよ」
 シャワーを浴びて帰ってきた かおるが私の顔を一目見てそう言った。
「だってしょうがないでしょ。修学旅行中はスマホ没収、パソコンなんて当然使えない、つまり青木くんの配信が見れない!」
 まさにこの世の終わりである。推しの配信に駆け付けられないくらいなら修学旅行に行かない方が断然良かった。
「でもアーカイブあるんでしょ?」
 薫が呆れているのを隠しもしないで残酷な一言を浴びせる。
「あるよ? あるけど、アーカイブとリアタイは全然違うの! 青木君と同じ時を過ごしたいの!」
 反論すると薫はやたらに甲高い声で自分の体を抱きしめながら言う。
「そう言って私との時間は蔑ろにするのねっ」
「そりゃ青木君の方が大事だよ」
「ブレないなぁ」
 即答してやると薫もすぐにいつも通りになった。けれど、私の隣に座ってこちらを見る目には何か訴えたいものを感じる。
「でも実際ちょっと寂しいよ? 修学旅行全然楽しんでくれてないの」
「青木くんのことが無くてもあんまり前向きじゃなかったからなぁ。自由時間とかも結構あるけど、何を楽しむの? って思っちゃう」
 薫にだから言える正直な気持ちを打ち明けると、薫は天井を見ながら「うーん」と悩んで、言葉を選びつつ言った。
「まあ、確かに私もそんなに興味ないんだけどさ。旅行ってどこに行くかより誰と行くかだと思ってて、一緒に来た相手が『行きたくなかったー』ばっかり言ってると、私の楽しさも半減しちゃう」
「……そっか、ごめん」
 確かに、私は『行きたくなかった』とか『帰りたい』とか『配信が見れない』とか言って、薫の気持ちを考えられていなかった。
 せっかく一緒の班になって、二人で同じ部屋に泊まれるのに、つまらないことばっかり言ってたら楽しくないよね。
「これからは青木くんについての楽しい話いっぱいするね」
「そうじゃない」
 心を入れ替えようと思ったら即ツッコみを食らってしまった。
 ごめんごめん、半分冗談。


あとがき

目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 この作品は「二人っきりの夜」というお題から生まれました。お題の持つ雰囲気はしっとりしていそうなのに、私が書いた作品にはそんな雰囲気が無くて我ながら「はて?」と思っています。でも書いてて楽しかったのでOKということにします。
 この作品がお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。


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