とある事業所の一コマ
寒い季節が終わり、春の暖かい日差しの中、俺はのんびりと送迎車を待っていた。
数ヶ月前の寒さは嘘のように和らぎ、このあとの予定化なければ日向ぼっこをしたい気分だ。
春の陽気に目を細めながら、好きな曲をイヤホンで聴く。
マイナーな曲だが、俺の中ではベストソングだ。曲調は静かな曲だが、不思議と気分が上がる。
曲に乗って小刻みに踊っていると不意に迎えが来た。
運転手さんが窓越に微笑ましくこちらを見つめてきた。
俺は気恥ずかしさで今すぐでも家に帰りたい衝動を抑え、車外で一礼をする。
乗り込む前にイヤホンを外して、車の助手席に座る。
運転手さんは「おはようございます」といつもに愛想よく話す。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」と俺は平然をよそおい元気よく挨拶をする。
俺がシートベルトをするのを確認し、運転手さんは車を走らせ、ちょっと先に進んで左折する。
俺と運転手さんは今日の作業の内容について話終わると、いつもの楽しい雑談の時間だ。
そして、DACの駐車場に車を置くと、運転手さんは「はい、着きました」と少し疲れた顔だ。
俺は「送迎、ありがとうございました」と深く感謝をする。
車から出ると、運転手さんの方を向いて一礼をする。
いつものルーティンを済ませ、DACのドアまで歩き開ける。
「皆さん、おはようございます!」と俺は元気よく挨拶をして一礼する。
「おはようございます」と挨拶するスタッフさんとメンバーは作業の準備をしていた。
俺はメンバーのふーくんに近づいて、いつものグータッチをして「おはよう」と挨拶を交わす。
俺はふーくんとしか、グータッチはしない。
仲が良い友人がいて俺は嬉しいといつも感じる。
ふーくんは自分の作業に集中すると、俺は奥へ行って棚からカバンを取り、いつもの席に座る。
カバンからパソコンを取り出して、電源をつける。起動中に運転手さんが「はい、おはようございます」とDAC(デジタルアートセンターの略称、文末に詳細を記載)に入ってくる。
運転手さんはここのスタッフさんで、俺にブログを教えてくれた人だった。
俺はこのスタッフさんをとても尊敬している。
この人がいなければ、今頃DACを辞めていた。
人間関係がしんどい時に、いつも明るく励ましてくれた、大切なスタッフさんだ。
俺は起動したパソコンの方を向いて、作業を開始した。
「桜鬼さん、今日も無理せずに頑張ってください」と恩人のスタッフさんは応援をしてくれる。
作業に没頭していると時間が経っていた。キリの良いとこで終わらして周りを見渡すと、スタッフさんは昼食の準備をしている。
作業では疲れていたが、いつものように手伝いに行く。
スタッフさんは俺が来るのを察したのか「桜鬼さんは、この具材を皿に入れて」とパックに入ったおかずを渡す。
俺は受け取ると「あちい」と大きな声を出すのを我慢して、声を抑える。
スタッフさんと手伝いが終わると「お昼ご飯ができましたので、取りに来てください」と大きな声でメンバーに伝える。
俺はメンバーが取りに来た後から、お昼ご飯を取って席に戻り「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
お昼ご飯を食べ終えて、皿を流し場に置くとふーくんがカフェの席に立っている。
「ふーくん。調子どう?」
「めちゃくちゃ元気すっよ」
どうやら、彼も休憩をしているみたいだ。
「ふーくんはDACは長いの?」
「まぁ、長いすっよ。3年ぐらいはいるかな?」
「3年かぁ、長いね」と俺は感心する。
「桜鬼さんは去年から通いされましたよね?」
実は3年前にDACを通っていた。しかし人間関係が辛かったので、二ヶ月ぐらいで辞めたのだ。
俺はカフェの近くに置いてあるメニューの写真に目に留まり、ふーくんの後ろを通ってそれを取る。
「あ、懐かしい。この写真に写っているのが俺だよ」と指をさす。
「……へぇ?」とふーくんはなにかに驚いた様子で慌てる。
「どうしたの?」と俺が聞くと「これ、桜鬼さん!?」と写真の俺に指をさした。
「うん? 俺だけど……」とちょっと困惑する。
「見た目が違う。しかもこの写真に俺も写ってますよ」とふーくんは写真の自分の手に指をさす。
俺は指をさした場所をみると見覚えがあり、脳裏に記憶が蘇る。
「ええ!? あの時、コーヒーを教えてくれた人だ」と驚く。
「そうっすよ!」とふーくんまで驚く気が隠せない。
俺とふーくんは3年前に見覚えがあった。
俺は3年前は体重が今より重く、太っていた。この時はふーくんが俺にコーヒーを教えに来てくれた。昔、DACではカフェを開くという提案があったため、わざわざ八丁堀からスタッフさんとふーくんが1号店に訪れていた。
俺とふーくんは懐かしく感じて、話を進める。
会話が弾んでいると、スタッフさんは「では、作業を再開します」とメンバーに伝えて、俺とふーくんは自分の席に戻る。
俺は3年前のメンバーに再会出来たのが嬉しくて作業を始める。
■DAC(デジタルアートセンター)とは
執筆 桜鬼龍翔
©DIGITAL butter/EUREKA project