花Lab.Nocturne 横浜元町店
横浜喫茶あなたこなた
【花Lab.Nocturne 横浜元町店】(元町)
ここ数年、春が近づくと花屋さんの目立つ位置によく飾られる花がある。
ひと昔前なら桜の枝か洋花ならラナンキュラスが定番だっただろうか…ここ数年は特にこの話題は注目されるようになったが3月8日に『国際女性デー』…通称ミモザの日とも呼ばれる女性の社会での活躍やジェンダー平等について考える日に併せて恋人に限らず、職場でお世話になっている人や友人の女性などに日頃の感謝の気持ちを伝えるためにミモザの花を贈ろう…という動きもあるそうだ。
フラワーショップではこの花をメインに据えたワークショップが3/8近くに開催される事が増え、日頃お世話になっている方に思いを馳せリースやスワッグを編んだり結んだりしても良いかも知れない。
ヨーロッパ圏では春の訪れを告げる「幸せの花」と言われており温暖な季節に撮られたと思しきかわいらしい海外の田舎の写真を見ると軒先のレンガに沢山の黄色く丸い小花を凭れかけている事も多い。
また、ミモザの香りのシャンプーや香水もこの時期多く発売されている。
花屋さんの中に併設されている大きすぎないカフェ。
今まで絢爛としたカフェやサロン・ド・テなどでお茶をとる事もあったが(ありがたい話である)席数は多くないながらテーブルには綺麗な硝子の花瓶と季節の花が各席に添えられていて、窓の外の街をうっとりと眺めている隠れ家カフェをとても好いている。
フラワーカフェ、というのは前に青フラのカフェで書かせて頂いたが横浜にも元町ショッピングストリートから少し外れた所に瀟洒な街並みにとりどりの花を添えるために出来たのだ。
ある程度都市を見慣れていて、あるいは大きな街に暮らしていると自然や四季を感じるものが貴重になってくるそうだ。
私の家の近くは公園や河原が多く、何なら近くに田んぼがある程なので春には若草のどこか青臭いさわやかな風が吹き、秋の雨上がりには落ち葉の茂みから仄かに甘い秋の香りが漂う町で育った。
だが、ある程度の年齢になって都市部に暮らすようになった人たちはそんな景色や香りを時々恋しく思う人もいるそうだ。
好きな作家の森茉莉のエッセイにある小話で、姪っ子から野に咲く花で作った小さな花束や当時子供だった姪っ子の顔ほどある大きな落ち葉をプレゼントされてとても嬉しかった……というエピソードを思い出す。
これが書かれたとき、既に東京は茉莉さんの愛したモダンで憂愁を帯びた都ではなく昔を知っている人には息苦しくもあったであろうコンクリートジャングルと化していたのだから姪っ子さんの無邪気さもあいまって喜びは大きかっただろう。
話を本筋に戻そう。
2月某日、春も近いある日曜に(このおよそ1週間後、気象庁は2月というのに21℃を観測した)中華街駅の元町側の出口を抜けてまずは久々に元町ショッピングストリートを散策してからお昼をとる事にした。
ウチキパンは店の外から見ても大盛況で、近沢レースのハンカチは相変わらず素敵なので(そのうち新調しようかな……)と密かに目論みつつストリートを一本、山手側の通路に抜けた。
こちらもジュエリーショップやイタリアンのお店などが立ち並ぶ瀟洒な街並みが広がる。歩く事…恐らく5分もかからなかっただろうか。
ひっそりとした店構えながらドアにはカラフルなスワッグが提げられ店先のカフェの黒板の傍らには春の兆しのような目がさめる黄色をしたミモザが花瓶に飾られ、揺れていた。
この時雨だったので若干気分が沈んでいたが黄色い小花を見て、
「イヤなことなど忘れましょ 雨の日ばかりはつづかない」
と、何故かハローキティのテーマソングの一節が頭をよぎった。
数字で見れば他の季節の境と日数は違わないだろうし、2月は短いのでむしろ早い方だが。
この世で一番苦手な季節から一年でもっとも愛すべき季節に切り替わるが故なのか冬から春の変わり目ほど長く感じる人間なので、余計にミモザの幸福を知らせるような黄色になんだかホッとしたのだ。
まぁ…夏に関しても同音異句で、梅雨の時期から「早くTVでサライ流れてくれー!」と叫んでいる人間なのである。
苗字を待機表(と言えばいいのか)に書いてそんな事を考えていると私の名を呼ばれて階段を上り、カフェへと案内される。
コンクリートと木製家具の部屋に、とりどりの花がテーブルに活けられ植物で出来たオブジェが空間を彩っている。
インテリア自体はシンプルに作られているのはフリルのような花びらをした花や植物をより魅せるためなのだろうか。
私は事前にインスタで見てどれを頼もうか決めていたので、ウェイターさんが来ると食事とデザートを注文した。
隣で食事している家族連れの方たち(お母さんと娘さん2人。お父さんは恐らくお留守番だろう……)のオムライスにも、綺麗な淡紫のエディブルフラワーが添えられていて今日これからデザートに食べるキャロットケーキに思いを馳せる。
まず、食事が運ばれてきた。
キッシュとパン、野菜とスープが優しい色合いの木製プレートに乗っていて腹ぺこの私は手短に「いただきます」と心に呟いたあとまずパンに手を付けた。
外はカリッとしているが中はもちもちとしていて、コンソメスープに浸して食べるととてもおいしかった(ちなみに私はクノールカップスープでは付けパン派である)。
キッシュというのは中身に2種類あるように思う。
しょっぱいパウンドケーキのようにずっしりと具や生地が詰められたものと(こちらはどちらかと言うとテイクアウトのものに多い)中にクリーミーなチーズ生地が入っている柔らかいものがあり、今回は後者だった。
とろとろのホワイトクリームとほうれん草、ベーコンが美味しかったのと外は雨が降っていたのと寒かったのとで温まる気持ちだった。
生野菜にかけられたドレッシングもさっぱりとしていて食べやすかった。
さて、デザートにキャロットケーキとコーヒーが運ばれてきたとき飲み物が入った容器に驚いた。
コーヒープレス、というのをご存知だろうか。
コーヒー豆と飲み物が紅茶のティーポットさながら入っていて、コップに注ぐときは豆を圧して上手い事コップに液体だけ淹れるのだ。
甘いお菓子であるキャロットケーキ。
ピーターラビットなど海外の童話を読んだ事がある人はこのお菓子の名前に憧れを抱く人も多いだろう。
私もヨーロッパの田舎風のエプロンドレスを着た小さい女の子が食べる、上に小粒の人参が乗っかったかわいらしいケーキを想像しているのだ。
シナモンなどの甘い香りのスパイスとナッツレーズンが中にたっぷり入った、ずっしりとしたパウンドケーキである。
そのお菓子の上に、菫色の花とミントが飾られていた。
まだこのお菓子をそんなに食した事がある訳ではないが、スパイスのきいたホームメイド感あるお菓子というのはなぜか安心する。
また、飲み物もコーヒーにしておいてよかった…と思うほどお菓子と合っていてコーヒープレスというものに四苦八苦しながら味わった。
帰り、少し桜木町近辺を散歩して帰った。
来月には桜が開花する…という当たり前のことに目を向けつつブルーラインへと歩を進めた。
その日、帰りには雨が上がっていた。
執筆 むぎすけ様
投稿 笹木スカーレット柊顯
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