CAFE de la PRESSE(日大通)
横浜喫茶あなたこなた②
【CAFE de la PRESSE】
(横浜市 中区 日本大通り)
突然だが、情報文化センターという建物名を聞いてどのような外観を想像するだろうか。
レンガかコンクリートのどこにでもあるビルを想像された方もいるだろう。
私も初めて足を踏み入れるまではそうだった。
日本大通り駅の駅ビル、と言って差し支えない。駅から直結だったが思い立って外から入ってみよう、と花が咲き始めた3月の海風に吹かれて駅の出入り口を目指す。
(TVの横浜特集でたまに映る、銀座三越みたいなあの建物だったのか……!)
これから行く喫茶店が入るに相応しい建物だった。
まず、先立ってこの建物で現在やっている展覧会を見るためにエレベーターを目指す。
階段を一歩踏みしめる度、この建物が刻んできた歴史の地層のようで、
(およそ百年間、向かいの窓から横浜の色々な姿を見てきたのかな)
と、目を閉じる。だが、今は日曜の昼。静寂はものの数分で世間話に花を咲かせるご婦人達に席を譲った。
競歩でエレベーターへたどり着いて展覧会を催している階へたどり着き、結果1時間近く見ていた。
NHKで放映されている『世界ネコ歩き』の催しで、ネコ好きの私としては、
「東京に行かなくても見られるのか…!」
と表情豊かな猫たちの写真を追っていた。
無料で見られたのは嬉しいが、個人的には猫のために使われるなら入場料を払わせて頂きたかった。
エスカレーターで先程の階に戻り、あの階段を目指す。尤も、目的はその先にあるが。
1950年代の海外映画に出て来てもおかしくない内装のカフェに足を踏み入れる。
席に案内されメニューを開くと、まず驚かされたのはコーヒーの品揃えの多さだ。
『記者たちのカフェ』
『裁判官たちのカフェ』
…というメニューを見つけた時、そういえばフランスはカフェオレが有名だよなぁ、と納得してしまった。
まぁ、根っから紅茶派の私は『ジュエリーボックス』という名前に惹かれ温かい紅茶とクレームブリュレを頼んでしまったが……私の家族は全員コーヒー派なので、帰ったらおすすめしておこう。
待っている間、天井で回っているシーリングファンや真珠のような丸電球のシャンデリアをぼんやり見上げる。
周りには子供どころか、制服姿の学生すらいない。
(お酒を取り扱っているような…大人向けのカフェにも躊躇なく入れるくらいには年をとってしまったのか)
学生の頃には手が出なかった値段の洋服が買えるようになったし、普段飲む紅茶の銘柄にこだわれる程には生活に余裕が出来てきた。
(まぁ、未だにお酒を飲めた事はないのだけれどね)
もう27年経ってもお酒を好きにならずに済むのが一番幸せかもしれない。
取り留めない事を考えているうちに、白磁のティーセットとこんがり表面が焼けたクレームブリュレが運ばれてきた。
このお菓子を食す時、まず固い表面をコンコン突く人間は私だけではないと信じたい。
春の初め。暦の上ではそうだがまだ枯れ木の桜からは蕾が膨らむ気配すらないが寒いからこそ味わえる幸福もある。
紅茶は、宝石さながら蜜をまとった輝く果物やクリームを飾り付けたケーキを思わせる香り高い茶葉だった。
またこの場所を訪れる機会があれば、あえて夏休みの終わった直後がいい。
私は、生まれた季節ながら夏が苦手だ。
だがそんな時期も通所を頑張ったご褒美にここでパフェを頼んでも良いかも知れない。その頃には温かい紅茶を飲める位涼しくなっているといいが……。
そう思い、日本大通り駅へと足を翻した。
執筆 むぎすけ様
投稿 春原スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project