『十字石の追憶』第9話「架橋」
東島と南島を結ぶ「地中海連絡橋」の建設を支援するため、私達の空戦隊は中島海峡に向かった。
そして、それを阻止せんと来襲した敵軍との交戦で、私達は大いに奮闘し、建設中の連絡橋を護り抜く事ができた。
しかし、敵の増援による猛攻でネネカの、次いで私の自機が被弾・損傷してしまう。
これ以上の戦闘は困難と判断した私達は、後続の友軍部隊にバトンを託し、東島に一旦帰還する事となった…。
夢小説
『十字石の追憶』
第9話
「架橋」
私が基地に戻ると、イサミ・ネネカ・サギハラ達が迎えてくれた。
彼らも任務を切り上げ、帰還していた。
笑顔で迎えてくれたイサミ達を見て、私は「皆、無事で良かった」と胸を撫で下ろした。
ネネカ、未来を見据えるように言う。
それを聴いて、サギハラも静かに頷いた。
私達の任務は一旦終了したが、地中海連絡橋の建設は続いている。
今は、別の部隊が中島海峡を交替で警護しているが、私達も補給と修理を済ませ次第、再び海峡の最前線に投入される事となるだろう。
私達の連合軍は、地中海の制海権を確保しておらず、中島海峡の近くで離着陸する事ができない。
そのため、こうして東島との往復を繰り返す任務が、しばらく続いた。
地中海連絡橋の建設が着々と進む中、私は任務の合間に、今後の見通しをイサミと話し合っていた。
今回、イサミと共に向かったのは、カフェバーの機能を兼ね備えた、随分とお洒落な会議室だった。
まるで、これまでの任務は重大でなかったかのように語るイサミの口振りに、私は反応せざるを得なかった。
大きな仕事…いや、連絡橋の建設支援も、決して小さくない仕事だったのでは…?
外交…それは、南島以外の国って事?
かつて、東西南北の4島が「旧大陸」として繋がっていた時代、その独裁政権は鎖国政策を敷き、海外に関する情報を厳しく規制していた。
そのため、当時の国民の多くは、水平線の外側には何も無いか、あったとしても「異界」だろう…などと思っていたらしい。
そんな恐怖政治から解放される代わりに、四つの島と、四つ以上の国々に分裂してしまった今、旧大陸各地の指導者らは、長く禁じられていた「海外探検」に乗り出し、自分達を支援してくれそうな海外列強国との貿易に励む事となった。
そして現在、ここ東島の海岸平原政府(二重帝国)も、国内自給困難な食糧の輸入や、最新鋭の科学技術を取り入れるため、海外列強との関係に力を入れている。
サウストリア国も、その一つである。
サウストリアのイルデ州は、世界的な穀倉地帯として知られる。
また、サウストリアとその隣国では今、人工知能や無人兵器などの開発が進んでおり、その優れた科学技術の導入も、旧大陸にとって大きな関心事である。
つまり、その国際会議に参加する全権委員を護衛するという話である。
では、その全権委員は…?
私の肩に、背後から不意打ちのように手を当てて、その人は現れた。
驚くよりも、やや呆れた表情で最敬礼するイサミ。
それに少し遅れて、私もイサミと同じポーズを真似る。
もっとも、最敬礼された肝心の相手は、ほとんど肩に力を入れていないようだが…。
西島のほぼ全土と、ここ東島半分を統治する「二重帝国」の元首にして君主、女帝陛下の出御であった。
振り向いて私に近付き、目を合わせながら語りかける女帝陛下。
なるほど…呼ばれた場所が普通の会議室でなく、お洒落なカフェバーである理由が今、分かった。
要するに、陛下を接待せよとの事らしい。
そういうわけで、しばらくソファー席で安らいだ後、私達は本題に入る事とした。
そう言い終えた陛下を確認した後、イサミは私のほうを向いた。
次回の任務、それは「女帝陛下の護衛」であった。
出発の刻限が迫り、周囲は物々しい雰囲気に包まれている。
女帝陛下のほか、イサミ・ネネカ・サギハラに私を加えた空戦隊4人、そしてヒジリ・メグミの魔術部隊などが集まり、間も無くその時を迎えようとしていた。
高級そうな専用機に手を近付け、愛おしく撫でるように滑らしながら、こちらを振り向く女帝陛下の姿は、大変に見映えが良い…と言うより、随分と色っぽい。
この機体を売り捌くために、有名女優を雇ったコマーシャルを見せられているような気分である。
イサミは、最新鋭の垂直離着陸型ステルス艦載機「ライトニング」に搭乗。
ネネカは、現代戦での安定した人気を誇る艦載戦闘攻撃機「ホーネット」に。
サギハラは、南島での初陣からお馴染みの艦載戦闘機「トムキャット」に乗る。
そして、私のステルス攻撃機「ナイトホーク」である。
普段なら、ここで空戦隊の点呼が終わるのだが、今回は違った。
最新鋭のステルス戦闘機「ラプター」に搭乗された女帝陛下は、護衛対象なのに御本人も戦う気満々の国家元首専用機だが、ともかく彼女を含めて5機の航空機部隊が編成された。
ヒジリは箒木の、メグミは自転車の形をした魔術兵器に乗り、私達の戦闘機部隊と共に離陸した。
目的地へと至る方角の上空は、雪が振り始めそうな天候である。
私達の空戦隊は、早めに高度を上げ、雲よりも高い空域を飛行し、敵機の接近を警戒しながら進む。
ヒジリ・メグミの魔術部隊は、その下を低空飛行し、東島から外海へ、そして新大陸へと移り変わる地表の様子を窺いながら、上空の私達に続く。
操縦席から見えるは、私達の下に(魔術部隊にとっては上に)広がる雪雲。
国際安全保障会議への空路は、この雪雲の彼方に続く。
東島と南島とを繋ぐ橋が完成し、平和を取り戻すその日まで、私達は戦い、そして護り続けるだろう。
そして、それから少し時が経った。
地中海のほうを眺めると、中島海峡に架かる新しい橋の一部が、遠くに見え始めた。
日出と共に南東が、日没と共に北西が陽光に照らされ輝く橋は、私達の未来への道を示しているようだった。
私達は「一歩ずつ、前に進もう」と各々の心中に誓った。
しかし、これは始まりに過ぎない。
そもそも、南島の無政府状態を嗤えるほど、私達の帝国がある東島も平和ではない。
この頃、東島の東部内陸地方を占領する「民主共和国」は、もう一つの海外列強国ノーストリアからの密輸物資を背景に、軍事力の急速な増強と、そして…帝国との将来的な開戦準備を進めていた。
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