2023(令和五)年5月2話「横浜港を巡る」
私小説『地球学徒の日記』
2023(令和五)年5月2話「横浜港を巡る」
イサミ
「…じゃあ、行くわよ」
今日は、久々の休日を勝ち取ったイサミ姉さんの引率で、横浜港へと出掛ける事になりました。
5月27日(土曜)横浜港
「イサミ姉さん・メグミさん・ネネカさん、今日は宜しくね」
メグミ
「皆で一緒にお出掛け、楽しいな!」
ネネカ
「先輩方、宜しくお願いします!」
メグミさんやネネカさんも、楽しそうです。私達は、桜木町(中区)から右回り(時計回り)に横浜港を歩き、横浜市の中区・西区を一周する事にしました。桜木町から北に少し歩くと、中区から西区に入ります。
イサミ
「横浜ランドマークタワー…小学生の時、ヒジリと来た事があるわ。当時は、展望台まで一気に上がるエレベーターの速さに感動していたわね。あれから、もう何年経ったのかしら…?」
イサミ姉さん達にとっても、横浜は思い出の場所であるようです。更に北東へ歩くと、今度はネネカさんとメグミさんが反応しました。
ネネカ
「パシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)、よくアイドルのコンサート会場に使われる所ですね。私はライブの時しか来ないですけど、皆さんは来た事ありますか?」
メグミ
「以前だと『海のエジプト展』という展覧会があって、地中海に沈んだエジプト王国の遺跡が展示されていたよ!」
ネネカ
「あ、そんなイベントもあるんですね」
そこから南東に歩き、2021(令和三)年に開通した「女神橋」などを渡ると、西区から再び中区に入り、そこは新港埠頭という造成地になっています。
新港埠頭は、明治・大正時代に造成された埋立地(人工島)で、海上保安庁や水上警察の基地があり、近年は観光地としても整備された港湾地区になっています。新港と(水路を挟んだ対岸の)西区の両岸には遊園地もあり、実に景気が良さそうな場所です。
「イサミ姉さんは、治安の仕事にも詳しいから、任務で来る事もあるんじゃない?」
イサミ
「そうね。その前は…確か高校三年の遠足で来たから、ここも懐かしい場所だわ」
ここで私達は、東京湾へと通ずる横浜港の海を眺めながら、写真を撮ったり飲み物を買ったりする時間を楽しみました。ネネカさんとメグミさんが、北岸の磯浜に下りて海を眺めていると…。
ネネカ
「あ…あの水中にウヨウヨしている大量の物体は、まさか…」
メグミ
「あ、海月さん達が沢山いらっしゃるね! 海月さん、こんにちは! 今日は、過ごし易い日ですね!」
海月
「あ、こんにちは! 話し掛けてくれて、ありがとう!」
ネネカ
「…え、メグミ先輩って海月と話せるんですか?」
メグミさん、横浜港に多量発生中の海月(水母)さん達と(テレパシーで)会話開始…。
メグミ
「ねえねえ海月さん。今日は家族や友達が沢山いらして、楽しそうですね!」
海月
「そうだよ! 人間も群れて行動するのが好きだけど、今日の私達はもっと多いんだから!」
メグミ
「なんで、そんなに多いんですか?」
海月
「私達は、水が温かいと早く成長できて仲間が増えるの。あと、普段は離れて暮らしている仲間が、風や波に乗って『お引っ越し』して来る事もあるよ!」
メグミ
「そうなんですね! みんな仲良さそうで、素敵です。私達人間も海月さん達のように、毎日フワフワと仲良く暮らしたいと思います!」
海月
「そうだね。人類は昔から『共喰い』ばかりしているけど、私達を見習って平和に生きられるように、私達も応援しているよ!」
しかし、一連の「会話」を微妙な表情で見守っていたネネカさんは…。
ネネカ
「…海月に恨みは無いけど、こんなに多いと集合体恐怖症的に不気味だから、食用にでも釣って減らそうかしら…」
海月
「た…食べないで! 私達は一応、有害種だから食べちゃ駄目だよ! ど…どうしても食べたいなら、備前海月(瀬戸内海)か越前海月(福井)とかにして!」
海月類(腔腸動物)のうち、ここ東京湾を含む日本近海で最も多く見られるのは「水海月」で、見ての通り数は多いのですが、資源としての利用価値は(眺めて楽しむ以外には)乏しいです。
水温の上昇で成長が早まったり、風波で運ばれたりすると、特定の水域に大勢の海月が集まります。また、月と太陽の重力によって、海水面が一時的に高くなる満潮の際には、上に持ち上げられた海水が川に逆流し、その中に居る沢山の海月達も、横浜の川などに流れて来る事があります。
海月
「川に流されてしまっても、満潮が終わって干潮になれば海に帰るから、心配しなくても大丈夫だよ!」
ネネカ
「あんた達って、毒とか持ってるの?」
海月
「私達、水海月の毒は弱いほうだけど、それでも痛みを感じる事はあるから、私達の触手に当たらないよう気を付けてね!」
メグミ
「はーい!」
そんな話をしていると、海岸に少し強い波が打ち寄せ、海月さんが磯浜に打ち上げられてしまいました。
メグミ
「…あ! 海月さん、大丈夫ですか!?」
海月
「だ…大丈夫! 次の波に乗って戻るから!」
その後、再び高い波が打ち寄せると、海月さんはそれに乗って、無事に海へと帰る事ができました。
海月
「今日は、逢いに来てくれてありがとう! また、いっぱい話そうね!」
メグミ
「こちらこそ、ありがとう! 海月さんの皆様、また一緒に遊ぼうね!」
随分とフレンドリーな横浜の海月さん達と(謎のテレパシー能力で)会話できて、とても満足そうなメグミさんでした。
楽しそうに日記を書き込むメグミさんと、その様子を見守るネネカさんと私。
ネネカ
「…メグミ先輩を見ていると、妙に優しい気持ちになれますね」
「確かに、そうだね」
その後、私達は、新港埠頭を北から南へと縦断し、横浜関内に戻りました。無事、引率の任務を終えたイサミ姉さんに話し掛けると…。
「短時間だけど、学校の遠足みたいで楽しかったね」
イサミ
「あの海月達に話題を持って行かれて、ほかに何を見たのか覚えていないわ…」
5月28日(日曜)オンライン礼拝
伝統的な寺院・教会などの宗教施設は、現地に直接訪問する事を前提に運営されてきましたが、インターネットの発達と、昨今の新型伝染病(感染症)対策のため、コンピューター・携帯電話を用いた「オンライン礼拝」を取り入れる動きが広まっています。
今日はメグミさんが、自宅の部屋からオンライン修行体験に参加しました。但し、メグミさん(とヒジリお姉ちゃん)はデジタル機器の操作が苦手なので、私やイサミ姉さんの補助が必要な事もあります。果たして映像中継アプリケーションに接続し、画面の前に座って合掌するメグミさん。
メグミ
(…瞑想…)
画面の彼岸では、今回の担当講師である聖職者が「天国・地獄はどこか遠い所にあるのではなく、私達の心にある。だから、一人ひとり皆が心の中に天国(浄土)を築けば、現世(現実世界・この世)も天国のように善美となる」と語っていました。メグミさんの隣で、ヒジリお姉ちゃんも法話を拝聴し頷いていました。
ヒジリ
「ええ、仰る通りだと思います。世界遺産を管轄する、国連ユネスコ(経済社会理事会 教育科学文化機関)の憲章前文にも『戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人は心の中に平和の砦を築かなければならない』という言葉が御座いますね」
『無量寿経』や『法華経』などの大乗仏教経典によると、浄土は金・銀・瑠璃青金石・硨磲(貝殻)・瑪瑙など7種類の宝石「七宝」で出来ています。また『新約聖書』の終章「ヨハネ黙示録」によると、神・救世主・天使が、悪魔との最終決戦に勝利した後、12個の宝石(これが誕生石の起源です)で飾られたエルサレムを都とする新世界が訪れる…と預言されています。そのような世界を築く事ができるのは、まさしく宝石のように美しい心を磨き続けた者なのでしょう。
5月31日(水曜)都議補欠選挙
イサミ
「さて、今夜は仕事を早めに済ませて…」
いつも忙しいイサミ姉さんが、最近はいつもより忙しそうです。
「姉さん、どうしたの?」
イサミ
「選挙に立候補した人達の演説でも、聴きに行こうかなと思って。一緒に来る?」
「また選挙? 先月もやってなかった?」
先月、大森・蒲田(大田区)の区長選挙に立候補するため、東京都議会の議員が数名、辞職されました。そこで、その欠員を埋めるための都議補欠選挙(補選)が行われる事になりました。先月の区長・区議選挙で敗れた候補者がリベンジを挑み、争点も前回との共通部分があり、事実上の「第二回戦」になっていました。
政治への関心が強いイサミ姉さんは、各候補の決起集会・演説会・討論会をチェックし、その一つである蒲田産業会館(大田区産業プラザ)での演説会に参加しました。そこでは「蒲田新空港線の建設是非」「明治神宮外苑(渋谷区周辺)の森林保全」「都立高校受験における英会話試験の公平性」などが議論されました。
産業プラザからの帰路にメグミさんは、応神大王(第十五代天皇)や天照大御神などの神々を祀る蒲田八幡神社・天祖神社に参拝しました。
メグミ
「今月も私達の国をお護り下さり、ありがとう御座いました!」
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