原宿推し活あなたこなた カフェ巡り2編
東京喫茶あなたこなた
【原宿推し活あなたこなた ~カフェ巡り2編~】
前篇【旬゛喫茶パンエス】(原宿・神宮前)
『パンとエスプレッソと』という素朴な名前のパン屋さん(と、店舗によってはカフェもある)はよくTVの情報番組などで紹介されているのでこれを読んでいる方でご存じの方もいるだろうか。
ムーという可愛らしい名前の食パンが看板メニューで(フランス語で“柔らかい”という意味らしいが個人的にふてぶてしい猫が不服そうにこちらをにらむ絵が頭をよぎる)サンドイッチやヴィノエワズリー(甘いパンのこと)もバターが優しく香るもちもちとした生地のものが多く、美味しいパン屋さんである。
本店は表参道にあるのだが、前のエッセイにも書いたQ-pot CAFE.の道中に通るので、
(やっぱり、本店と横浜にあるお店はメニュー違うのかな?)
と毎回思う。
今年の桜も遅ればせながら咲き始めていた3月末。
その日の午前中は風が吹き荒れ、豪雨となっていたが雨足と風音が窓の外から遠ざかり始めた頃を見計らって外へ出た。
クリスマスの時期に新調した薔薇飾りのあるワンピースも、ようやくコートを羽織らず着て歩けるようになった。
今日は謂わば“推し活”の為に歩くので、巾着の中に手乗りサイズのクロミちゃんぬいぐるみやイベントの時に買った推しのアクスタなどを前日にトートバッグに詰めていた。
数週間前に行った、みなとみらいのフェスの際に停まっていた素敵なクレープワゴン・『Mrs.Charlotte』で購入したアール・ヌーヴォー調のイラストが素敵なオリジナルファイルはカフェでシールやショップカードを貰った時にマイメロディのトートバッグに忍ばせた。
推し活をするオタクにとって、何かしらファイルを持参するのはまずマストのようで。
というのも。
コラボカフェにしろライブにしろイベントというのはとにかく紙類の保管というのが死活問題となる。
アイドルの撮影会に行けばチェキを撮り、カフェのコラボメニューのランチョンや飲み物を頼むとランダムで貰えるコースターも紙製もしくはシリコンの事が多くファイル類が重宝されるのだ。
ドリンクのストローにも推しが描かれた飾りが提げられていることもあり私に限った話かもしれないが記念に持ち帰るタイプなのでダイソーで買ったクロミちゃんのウェットティッシュでふき取っている。
前置きが長くなったが、“推し活“の話に少し文字を割かせて頂いたのは。
今回あなたこなたと探して訪れたカフェが先程話した『パンとエスプレッソと』が推し活に励む若いコに向けて、明治通りから少し離れて隠れるようにパステルカラーの絵の具がとりどり乗ったパレットを思わせるカラフルでいて不思議と落ち着くカフェがオープンしていた。
このカフェは“旬゛喫茶”(じゅんきっさ、と読ませるシャレだ)というコンセプトで『喫茶店メニュー』というこのお店のコンセプトの通り食事メニューもレトロポップな可愛らしいものが多い。
ナポリタンやフレンチトーストなど王道なものから、前までは土日限定で吉祥寺のカレー屋さんとコラボしたキーマカレーなども頼めたそうだ(吉祥寺のカレー、というワードに古き良き80年代のサブカルを感じて個人的に嬉しくなった)。
色々なバリエーションのクリームソーダやプリンなどのスイーツもあり、“推し色”のソーダを注文してアクスタと一緒に写真を撮るのもいいだろう。
私が来訪した時期、このカフェのある可愛いパンが話題になった。
“リボンパン”という韓国発のパンがある。
文字通りリボンを象って焼いた、3月の時期なら桜あんなど可愛らしいピンク色のパンでドリンクのストローにこのパンをさして写真をとりインスタにupする文化があるそうだ。
東京の…それも流行の中心地である原宿で一足早く始めたのが(恐らく)このパンエスでかつ、『パンとエスプレッソと』が手掛けたお店のものだから絶対おいしいじゃんコレ…と私がお店の前へたどり着くと学校帰りのJKやイベントでもあったのかキャリーを担ぎビジューが並んだカチューシャで頭を飾った女の子、カップル連れの人たちがズラッと整列していた。
先程話したリボンパン目当ての人もかなりいた。
メニューを配られた時、店員のお姉さんがメニュー表を渡す都度並んでいるお客さんに、
「リボンパンをお求めの方はいらっしゃいますか?」
と聞いていた。
残念ながらその日はもう完売してしまったらしく、お姉さんがリボンパン目当てに来た制服姿の女子2人組に申し訳なさそうにその事を告げた後帰ってしまった。
待つこと数十分。
カウンター席に案内されお店の内装を見た時にまず思ったのが、
「一区画ごとにインテリアのコンセプト変えてるのかな?」
というもので。
お店の窓から眺くソファ席は(恐らく)ファッションの流行なども取り入れたレイアウトにアレンジが加わるらしくこの当時は『バレエコア』という韓国発の等間隔に並んだ細いリボンが象徴的なモチーフであるガーリーなファッションを模して、とりどりのリボンで彩ったパールのつりさげ飾りの可愛らしい店内だった。
私が座ったカウンター席は、ヨーロッパの映画で少女が空想旅行に出かけるような屋根裏部屋を連想した。
机には向こうの切手が貼られて壁には可愛いポストカードやピンナップ、雑誌の切り抜きや筆記体で書かれたレターが貼られている。
椅子に敷かれたクッションはリネンのレースで縁取られたあひるのテキスタイル。
個人的にここのレイアウトが一番好みだ。
注文を受けてから作るお食事メニューなどもあったが、今日はベーグルサンドと甘い焼き菓子にしようと思い立ちトレイ代わりのお皿を選ぶ。
このお皿も数種類があり、そこから自由に選ぶことができるのだが私は赤く縁取られた薄水色のギンガムチェックが可愛いものにした。
焼き菓子の置いてあるコーナーもまた、少し日本離れしたもので。
オレンジやハーブの入ったフルーツウォーター(ご自由にお取りできる)が右端に用意されていて、コルクの入った白いシャビーなラックやメイソンジャーが置かれて。
小さな黒板にはコック帽をかぶったワンちゃんの上に、
「焼き菓子類はレジへお持ちください」
と書かれている。
木製のカッティングボードの上にお皿があり、キャロットケーキや苺のカヌレなど可愛らしいお菓子が綺麗に並べられていて海外のカフェにある(個人的にはインスタでたまに見かける韓国のものを連想した)パントリーを連想させた。
私が選んだのはスモークサーモンとクリームチーズのベーグルサンドと上に甘い小さなニンジン(本物である)が乗った可愛らしいキャロットケーキ。。
飲み物は紅茶にしたが、大きなガラスのポットと白磁に飲み口の厚い立派なティーカップで提供された。
クロミちゃんのマスコットを傍らに置いて料理の写真を撮ったあと、まずベーグルサンドに手を付けた。
チーズがたっぷり入っているので、白いペーパーに包んである。
口に含むとサーモンはあっさりしていて濃厚なクリームチーズと調和していてお腹が空いていたのもありペロッと平らげてしまった。
オーブントースターで温めていたので、サーモンは生ではなく焼きジャケに近い。
さて、少し前にインスタで見てから、
「絵本で見たようなお菓子だ!」
とこれを目当てに来たと言っても過言ではない、可愛らしいキャロットケーキに取り掛かった。
元々、英国発祥のお菓子というのが大好きであの香辛料の効いたどっしりとしたパウンド生地のお菓子やさっくりしたスコーンはよくこのエッセイに書いているかと思う。
ダイアナ妃が愛したブレッド・アンド・バター・プディングというお菓子もお家にある材料で出来るものなのでたまに作っている。
(余談だが、最近はコンビニでも売っているWalkersのビスケットは絶対に大パックを買わないようにしている。あるだけ食べるに違いないから)
中でもキャロットケーキは、やはり挿絵の綺麗な絵本で読んだことがあり子供の頃から憧れがあった。
特に上に小さなニンジンの甘煮が乗っかったものは。
まずパウンドケーキとチーズクリームをフォークにとり、口に含むとドライフルーツとナッツがシナモンの効いた生地に沢山入っていて食べ応えがありこちらも香辛料が入ったチーズクリームがいいアクセントになっていた(甘く、こちらもしっかり濃厚だったのでチーズ好きとしては嬉しい)。
このクリームはバニラビーンズか、もしくはアクセントに黒コショウでも使っているのだろうか…。
ケーキではないが、“スパイシーチョコ”といってチョコレートの中に黒コショウや山椒などの風味を加えても美味しいらしいから甘味に胡椒の組み合わせもおかしな話ではない。
上に乗っかっているニンジンの甘煮。
恐らく、ニンジンをお砂糖で甘く煮たシンプルなお菓子でこれを食している時に不思議と普段の食事で当たり前に食している人参を連想しない…。
良い意味で別物感あるスイーツだった。
お会計を済ませ、お店を出る。
白いタイルの入り口と一風変わったパンエスのテラス席を抜けると原宿の喧騒と近くのケバブ屋のにおい(なぜか原宿には多い。戦後のこの街の復興と発展にアメリカが大きく絡んでいるからだろうか)と少し先にそびえる摩天楼がドッと押し寄せてくるようだ。
この街に初めて来た時は、ラフォーレの場所すら分からなかったことを思い出す。
そのラフォーレ原宿のテイクアウト・スイーツ目当てに明治通りへ歩を進めた。
【後篇へ続く】
執筆 むぎすけ様
挿絵 シエラ様
投稿 笹木スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project