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I wish your dream.
あいいろのうさぎ
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私が彼を好きになるきっかけをくれたのはアイドル好きの友人だった。
彼女がライブに連れて行ってくれたのだけど、まだメジャーデビュー前のアイドル達は、お客さんもマニアしかいないようなライブハウスで歌っていた。
歌は聞いていて心地良いかと聞かれると微妙な顔をしてしまうような出来だったし、ダンスもそれほど上手とは言ってあげられなかった。
ただ、彼らなりに一生懸命なのだということだけは伝わってきて、中でも一番熱心に見えたのが青木くんだった。
彼は表情こそ真剣そのもので、『アイドル』と聞いて連想するような笑顔からは程遠かったけれど、それだけ必死なのだということは分かった。
私には不思議だった。そんなに夢中になれるものがなかったから。なぜだか無性に気になって、手紙を書いてみることにした。返信用の封筒をつけておいたけれど、望み薄なのは分かっていた。
けれど、三カ月経ってから返事が来た。
そこにはレッスンが忙しくてなかなか返事を書けなかったことへの謝罪や私が手紙を送った事への感謝が綴られていた。そして、私の求めていた答えもあった。
彼は、自分のパフォーマンスでお客さんに元気を届けたい、という趣旨の話を何度も繰り返し書いていた。そして、「何もやることが見つからないなら、僕のパフォーマンスに夢中にさせられるように頑張るよ」と綴った。
私は手紙のお礼のつもりでもう一度ライブに足を運んだ。
ライブハウスには前よりも沢山のファンが詰めかけている。私は後方で聞くしかなかった。
パフォーマンスを見て、驚いた。たった三ヶ月しか経っていないのに、あの時の歌やダンスとはまるで違う。思わず自分の三ヶ月を思い返してしまった。何も目標がなくて、行かないといけないからというだけで学校に行って、帰ってきたら無表情で動画を眺める毎日。その間に彼らはここまで成長してみせたのだ。
あの人に賭けてみたい。そう思った。
推し活を始めてから、グループ公式の動画やファンクラブの記事から青木くんの色々な事が分かるようになった。手紙にあった通りに誰よりもパフォーマンスに情熱を注いでいること、作り笑顔が得意じゃないこと、でも心から笑う時にはとびきり優しい目になること。
彼のことを応援していたら、無気力だった日々にメリハリが出てきた。いつの間にか、彼が宣言した通りに、彼のパフォーマンスに夢中になっていた。
今では彼のことを考えるだけで、もう少し頑張ってみようと思える。彼がステージで見せてくれる姿が、何より私の癒しになる。
すっかり遠い存在になってしまった彼に、私が出来ることは少なくなってしまったけれど、願わくは彼が彼の望む姿になれますように。
あとがき
目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。
今回のお題は「癒し」でした。割と紆余曲折あってこのお話になりました。書いている最中も悩みましたが、タイトルも悩みました。楽しんでいただけていれば幸いです。
またお目にかかれることを願っています。
制作 あいいろのうさぎ様
©DIGITAL butter/EUREKA project