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ベールダウン


あいいろのうさぎ

 ヘアメイクを済ませて純白のドレスを着たあなたは、自分の娘だっていうのにとても美しく見えました。それを素直に言ってあげられない親でごめんね。私もお父さんも変に黙ってしまって、あなたを不安にさせたと思います。でもそこはあなたの選んだ、いえ、あなたを選んでくれた花婿さんがフォローしてくれました。私たちとは違って「やっぱりすごく綺麗だね」と口にしてくれた彼に、驚きつつも感謝しています。

 あなたが彼の隣で笑っている今でも、なんだか娘が結婚するという実感が湧きません。これは夢なんじゃないかと思ってしまいます。だって、あなたは小さな頃から男勝りの性格で、色んな子を泣かせていたのを覚えていますから。家庭訪問の度に、今度はどんな話が飛び出すんだろうかと冷や冷やしていたんですよ。まあそれも今となっては昔の話で、あなたはその強さをリーダーシップとして発揮できるようになったみたいですが。

 自分の娘がこんなに強い子だなんて、お父さんと結婚した時には思いもしませんでした。自分の子供には人と衝突することの少ない子になってほしいと、生まれる前には思っていましたから。

 いざあなたとの生活が始まったら、赤ちゃんの頃から誰より大きな声で泣くし、動けるようになるとあちこちで怪我を作るし、イヤイヤ期の反抗の仕方も激しくて、とても「おとなしい子」なんて形容の仕方はできませんでした。

 そんなあなたと上手に向き合うことが出来たかと言えば、きっと出来ていなかった。イライラしてあなたを強く叱りつけてしまった日もあったし、私の育て方が悪いんじゃないかと不安に襲われる夜もありました。

 けれど、そんな時にはあなたが幸せを運んでくれるのです。

 あなたが初めてママと呼んでくれた。幼稚園でまだ上手く書けない文字を使って手紙を書いてくれた。お遊戯会で立派に主役を演じている姿を見せてくれた。あなたの成長を感じると、それまでに感じていた暗い感情はどこかに吹き飛んでしまいました。

 あなたの存在が何より大事で、一緒に笑える瞬間が何より幸せでした。

 私にとってはこれからもずっとそうだけど、あなたにとってそう思える人は、素直な彼なのでしょう。そのことが、嬉しくもあり、寂しくもあります。お父さんなんか本当に寂しがっていて、あなたが彼を連れてきた日の晩には瞳を潤ませていたんですよ。

 そんなことを思い返していたら、最後の身支度を手伝う時になりましたね。

 あなたが彼と出会えたことが宝物になるように祈っています。そして、もし子供を授かることがあったら、その時は私たちと同じようにその子と出会えたことを一番の宝物にしてくれたら嬉しい。

 そう素直に言う事はやっぱりできなかったし、ベール越しに見るあなたの笑顔が幸せに満ちていて、泣きそうになったのも秘密です。


あとがき

目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 「ベールダウン」と題した今作は「出会えたことが1番の宝物」というお題から生まれました。出会えたことが1番の宝物“だね”(現在進行形)なのか、出会えたことが1番の宝物“だったね”(過去形)なのかで物語が変わりそうだなぁと考えた結果、どっちも取ったようなイメージです。
 この物語がお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。

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