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恋愛短編小説 : 末から始を想う~二人の恋模様~
デジタルアートセンターPlus広島の利用者・Tさんが制作した短編小説です。雪道の風景、幼馴染という設定をお題に胸キュンな会話劇を紡いでくれました。ぜひお楽しみください❤
挿絵は
同じくデジタルアートセンターPlus広島の利用者、
揚げ豆腐さんが制作したものです。
末から始を想う~二人の恋模様~
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白、白、白、世界が白に染まっていた。
並木道もアスファルトも遠くに見えるビルも、空から降りしきる雪が積り、白に染まっていた。
気温は当然のごとくマイナスであり、息を吸って吐くだけで肺が凍ってしまうのではないかと感じられるほどだった。
そんな中、白銀の世界の中で、雪を踏み抜く音が二つ響いた。
「うぅ〜さむ! この寒さ三回は凍死で死ねるぞ」
一人は男、高校の学生服に厚手のフード付きの上着とふかふかのマフラーに手袋をしている。
更に、上着の下には張るタイプのカイロを背中に一つ胸部に一つを着けている完全防寒装備だ。
「それだけ、ガチガチに防寒してるのに寒いって、どれだけ寒がりなのよアンタ」
そんな男にツッコミを入れるのは彼程、大げさな防寒の装備ではない女だった。
上着は来ているが厚手ではなく、マフラーはしていても手袋はしていない。
カイロすらしていないのだから、彼女が彼よりも寒さに耐性があるのは確かだろう。
「うるせぇ~、こちとらインドア派のもやしっ子なんだよ、お前みたいに寒さに耐性なんかあるかよ」
「それ自分で言う? 普通」
情けないなこいつ、と彼女はジト目で彼を見つめた。
「うっ! 言っとくがこのスタイルを俺は変える気は無いからな」
彼女の憐みの視線に耐えきれなくなったか。
見つめるだけの彼女に対して彼は言い訳を重ねた。
「はぁ~、別に何も言ってないってば」
対して、彼女は呆れた様に言葉を返す。
他人から見ればどこかギスギスした雰囲気が流れている様に見える会話だ。
だが、これらの会話は二人にとってはいつもの事の一つだった。
いつも通りの日常会話に怒りも憐みも嫌悪も存在しない。
あるのは、ただ今まで共に居た中で形成された信頼と友情、あるいはまた別の何かだ。
とはいえ、彼女が彼を憐み、呆れているのは確かで、その二つの感情がこもった視線に耐えきれず言い訳じみた事を言ったのも確かだった。
しかし、それもまた二人の関係性を構築している一つだといえるだろう。
「それにしても、こんな、極寒の中でも学校はあるのな」
「そりゃね、寒いのと学校が休みになるのはイコールじゃないからね」
「まぁ、そうだけどさぁ」
彼女の言った通り、日本の高校という機関はただ寒いと言うだけでは休みにはならない。
雪も降っているが、チラチラと降るばかりだ。
休校になる為には視界を埋め尽くすほどの吹雪が必要だろう。
それでも、寒さにも抵抗の皆無の彼からすれば現状はくどくど、と文句を垂れるには事足りる状況だった。
「まったく、文句を言っても仕方無いんだから、ほらさっさと歩く」
まるでマシンガンの様な弾幕で文句を垂れる彼に対して彼女は、彼の背中を叩きながら歩きを促す。
「はぁ~、へーい」
不満は大いにある態度で、それでも彼女に返事を返し、言われた通り寒さと学校へ行きたくなさを押し殺しキビキビと歩みを進める。
そこからは互いに他愛もない話を続けながら歩いていた。
昨日のドラマが面白かったことや、お勧めの動画を紹介しあったり。
どこまで行っても他愛もない会話を続けていた。
その時、風が吹いた。
ただの風ではない、いわゆる突風だ。
チラつく雪は風に煽られ刹那、肌に刺さるような吹雪が二人を襲った。
「うっわ! さっむ!」
「うぅ~、これは、きっつ!」
彼の方は言わずもがな、寒さに対して正直な悲鳴を上げた。
彼女は寒さを口に出すまいと我慢をしようとした。
だが冷たい風と、肌に付く白い雪が更に体温を下げていく。
流石の我慢強く、体温も彼より比較的高い彼女でもその感覚には悲鳴を上げた。
「やっぱり、カイロの一つでも持ってくれば良かったかな?」
「いや、カイロ一つじゃ変わらないだろ、どうなってんだよ体育会系の身体は」
「鍛えてるからね、とはいえ、流石にあの突風が来たらきついなぁ」
「......ほらよ」
彼は、寒そうに手を擦り身体を震わせている彼女に小さく溜息を吐き、カイロを差し出した。
「えっ」
「寒いんだろ、だからほら、別に他にも俺持ってるし」
「いや別に遠慮とかじゃなくて、どっから出したのそのカイロ」
「そっちかよ! 普通に上着のポケットに入れてたんだよ、ほら」
そう言って彼は、ポケットから未開封のカイロを二つ取り出した。
口角を震わせながら、まさか、と内心思いながら、彼女は、彼にもう片方のポケットに視線を向ける。
「ねぇ、もしかして、もう片方のポケットにも入れてるとか無いよね」
「いや、そりゃ入れるだろ」
そう言って反対側のポケットからは、三つのカイロを取り出した。
彼女は思わず苦笑をした。
「は、はは」
「ん? どうしたんだよ」
「いや、もうツッコムのも、めんどくさいや」
「? それにしても、カイロいらねぇの」
「......いる」
体育会系の部活に席を置く者としては、受け取ることに拒否感がある。
しかし、風邪をひいては元も子もないので自身の中のプライドなどと葛藤し、最後に己のプライドをねじ伏せカイロを受け取った。
「はぁー、温か」
カイロを両手で受け取り、冷えた手と顔に当てる。
「それだけで大丈夫か?」
「これだけで十分」
「そっか、まぁ、欲しければ言えよ、余ってっから」
「ふっ、あり得ないけど、一応感謝は言っとく」
「なーんか、癪に障る言い方だな」
彼は、本当はもう一つぐらい勧めるべきなのではと思った。
しかし、彼女自身がもう十分だと言っている、ならこれ以上は無粋だと彼は自分をそう納得させた。
態度はいつもの様に振舞っている積りだったが。
彼自身は、彼女をチラリと横目で見る瞳には心配する気持ちが現れていた。
そんな彼の心配は、彼女にはまったく気付かれていない。
だが、よくよく見れば、彼女の頬は赤く染まっていた。
それが、寒暖差によるものか、カイロの温かさによるものかはたまた、まったく別のものかは彼女自身にしか分からない。
もしかしたら、最初から赤く染まっていたのかもしれないが。
それでも確かに、彼女自身は分かっていた。カイロを貰ってから自身の体温が上がっていることも、心臓の鼓動が僅かに早まったことも。
「はぁー、疲れた」
「はや! まだ十分しか経ってないわよ」
「言っただろ、インドアなんだよ俺は、それにこの寒さだ、体力の消費速度はいつもの倍だ」
ドヤ顔で、自らが貧弱なのだと言うさまは誰から見ても滑稽であり、失笑ものだ。
そんなことは彼自身も分かっている。
それでも、一片の恥も感じていないのはある意味、彼のメンタルは無敵だった。
「ださ! そん事でドヤ顔されても全然かっこよくないわぁ~」
「ぐっ」
しかし、彼女の鋭いナイフの様な容赦の無いツッコミには、彼のメンタルの壁であっても容易く突破され、心にダメージを負った。
「はぁ〜心配だわぁアンタ、今でも友達少ないのに私と同じ大学に進んで上手くやっていける? 大丈夫?」
心底心配だと彼女の声音と表情が語っていた。
「ふん、いいんだよ別に、友達なんて両手で数えられるくらいで十分だし、それに」
彼は横目で彼女をチラ見する。
「それに?」
首を傾げる彼女、何を言っているのか全くわからない様子だ。
「......何でもない」
そんな態度にモヤっとすること自体、お門違いだ。
まぁそれでも気恥ずかしさ等が邪魔をして、そう言ったことに素直になれない。
彼は、ぶっきらぼうに顔を正面に向けた。
「?」
やはり何を言っているのか分からない、彼女は首を傾げたのだった。
「はぁー、あっ」
また、しばらく歩いていた二人は。
そんな中、彼女は何を思い出したかの様に声を上げた。
「どうした? もしかして家に忘れものか?」
「違う、アンタに年末、家に誘えって母さんが言ってたこと思い出した」
「あぁー、そっかもうそんな年か、まぁこの時期父さんも母さんも海外で居ないし、いつも通りお邪魔させていただくわ」
「そう、じゃ蕎麦とか用意しとく」
「ああ、よろしく」
二人の会話には、やはり淀みはない。
やはり他人が聞けば、同棲しているのか、と邪推されてもおかしくない会話だ。
実際は、年末時期は彼の両親はいつも海外で外せない仕事があり、そんな中独りでさみしい年越しなどさせられない。
そう思った彼女が小学生の頃、家に引きこもっていた彼を無理やり自分の家で年越しさせたのがきっかけだった。
それ以降、彼は彼女の家族と共に年を越すことが恒例行事となっていた。
ちなみに余談だが、二人の家族からは公認だったりする。
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「そうだ、来年の抱負決まったか?」
「いや、全然? ていうかそれ今聞く?」
「別にいいだろ、来年決めようと今年で決めようと結局一緒なんだからさ」
「風情も何もないわね」
彼の考えも分からなくもない、彼女だが。
それでも風情や形式などといった事を気にする彼女からすれば、溜息ものだった。
「じゃあ、逆に聞きたいんだけどアンタの抱負はどうなの?」
「俺か、まぁ、自分らしく、だな」
「やっぱり、去年も言ってた、それか」
何となく彼の抱負を聞いた時から彼女は察していた。
そもそも、彼の抱負は小学校高学年校頃から全く変わっていなかった。
最初の頃は、何度も変えれば、と言っていた彼女だが、高校に上がってからは最早諦めていた。
「あぁ、これこそ、自分らしく、だろ」
「うん、そのひねくれた、ところがアンタらしいわ」
「ふん、じゃあお前はどうなんだよ」
ひねくれている、そう言われて、ムッとなった彼は、自分だけ抱負を言ってからかわれるのは面白くない。
だから、もし彼女が抱負をいえばからかう、そんな心づもりで聞き返した。
「わたし?」
「あぁ」
「そうねぇ~」
彼女は考える素振りをする。
しばらくして途端、彼を見つめた。
その表情に彼は、ドキリとした。
彼女は満面の笑みを浮かべていたからだ。
なにを言うつもりなのか分からない。
それでも何か、彼には予感があった。
もしかしたら、それは人が恋愛の始まりに言う言葉なのでは無いか、と。
その言葉を今言われるのでは、そんなピンク色の考えが彼の脳内をどんどん巡り、膨張していく。
「私はね」
彼女が口を開く。
目を開き、彼は耳に全神経を尖らせる。
「私は......」
その瞬間、一瞬の暴風が吹いた。
雪が叩きつけるような物に代わり、周囲を覆い。
轟音が周りの音を掻き消した。
彼は、雪に目をやられないように片手で両目を覆い、それでも足りないと目を細めた。
そんな隙間から、彼は見た。
こんな吹雪の中で、彼女が口を開いていたことに。
刹那の吹雪は止み、既に彼女は歩みを再開していた
「えっ!? な、何を言ったんだよ! 聞こえなかったぞ!」
その彼の言葉に、歩みを止める彼女。
彼女は数秒、背中を向けたままだった。
そして何かを、決意したかのように、彼に振り向き、笑顔で口を開いた。
「ふっ! 内緒だよ!」
「えぇー! そりゃ無いだろ!」
期待が大きい分、彼女の答えに裏切られたような気分が彼の心を埋め尽くした。
「じゃあ、私に追いつけたら教えてやる」
「えっ?」
いきなりの彼女の提案に彼は戸惑う。
「それじゃあ、始め!」
「ちょ、ま」
そんな彼の言葉を気にせず彼女は学校まで一直線に走り出した。
遅れて彼も走り出したが、インドアな彼が体育会系、アウトドア派の彼女に勝てるわけもなく。
走り続ける彼女との差は開き続けた。
彼女の背中しか見えない、彼は気付けなかった。
彼女は笑っていたが、その表情はカイロを貰った時の比じゃないくらいに、赤くなっていた。
そして彼女もまた後ろが見えないからこそ知る由もないが。
白銀がチラつく中、彼女の走る後姿を見て、彼は思わず綺麗だと笑みを浮かべ、呟いたことに。
二人は学校に着くまでの間、自分達の本心を悟られない様、いつまでも自分たちのペースで走り続けた。
完
デジタルアートセンターPlus広島について
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