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あなたと光へ
あいいろのうさぎ
カーテンが揺らめくその向こうでみんなは楽しく遊ぶらしい。
私はカーテンに光を遮られた部屋の隅、固くて冷たい床の上でうずくまっている。たまに聞かれる。『どうしてそんなことしてるの?』と。むしろ私が教えてほしい。『どうしてそんな風に無防備に光の中に飛び込めるの?』その答えを。
私がここでうずくまっている理由なんて単純だ。あのカーテンの向こうが怖いからだ。
カーテンの隙間からは光が漏れ出している。風に揺らめくカーテンに合わせて、光も揺れる。幅が広がったり、狭まったり。呼吸するみたいに動くあの光の向こう側が、私は怖い。
だって、輝いているというだけで、あの先は未知の世界なんだ。それを怖がらない方がおかしいとさえ私は思う。でも自分が少数派なのも知っている。この部屋にやってくる人たちは、最初からあの光を希望みたいに語ることが多いし、実際しばらくすると光に飛び込んでいくから。
こんなに長くこの部屋に留まっているのは私くらいだ。
ふと、光が不自然に歪んだ。たまにある現象だ。あの光からここへ人が戻って来たのだ。私以外に部屋に留まっていた人たちは、あそこから戻って来た人に連れられて光の中へ旅立っていった。
「やっぱり。まだそこにいた」
懐かしい匂いが鼻を掠める。数年前に光の中へ旅立った彼女は、光と満足そうな笑みを纏って帰って来た。
「……私は行かないよ」
「言うと思った」
彼女は余裕綽々といった様子で私の隣に座る。
「予言してあげる。あなたは必ず私と一緒に来るわ」
「どこからそんな自信が出てくるの」
心からの疑問を口にすると彼女は
「私知ってるの」
と言ってから焦らすように間を空けて口を開いた。
「あなたがずっとこっちを向いて座っていたこと」
にこやかに言う彼女に対して、私の顔は赤くなった。
「あなた、本当はこっちの世界にとても興味があるんでしょ? だけど自信がなくてとっても怖がり。でもね、だったら私が少し先を行くわ。あなたの歩む道が少し分かれば安心でしょう?」
「そりゃ道が分かったら多少は安心するけどさ。あなたは私じゃない。私がどうなるかなんて分からないじゃない」
最後の抵抗として放った言葉も、彼女は微笑んで受け取った。
「分からないから楽しいのよ。それに、約束してあげる。私は絶対あなたを独りぼっちにしないわ」
その言葉に心が動いてしまったのが悔しい。
本当は向こう側の世界に期待してた。でも期待する程に怖くなった。未知の世界に一人で飛び出して行って、失敗してしまったら誰も助けてくれないんじゃないかって。
でも、あなたがいてくれると言うのなら。
「その約束、絶対守ってね」
「もちろん。嫌って言われても離さないわ」
笑みを湛える彼女の手を取って、私は光へ近づいていく。温かい光が肌を撫でて、彼女の手と私の手の境界が曖昧になる。意識がうまく保てなくなって、ただ温かい感覚に包まれて──。
これが、私の生まれる前、お姉ちゃんが迎えに来てくれた時の話。
あとがき
目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。
「あなたと光へ」は「カーテンの隙間から差し込む光」というお題から生まれた作品です。正直、このお題について考え始める前は『どうすればいいんだ!?』と思っていましたが、結果としてこのような形になりました。現実世界ではない場所を書くのは久しぶりだった気がします。お楽しみいただけていれば幸いです。
またお目にかかれることを願っています。