横浜山手 えの木てい本店
横浜喫茶あなたこなた
【えの木てい 本店】
(横浜市 中区 山手町)
このカフェ、名前は聞いた事がなくても実は建物をドラマや映画で見た事があるという方も多いかもしれない。
その昔の外国人居留地にある歴史的建造物の例に漏れず歴史ある西洋館を改装した赤い屋根のアンティーク調カフェで、かつ晴れた日には山手の景色を見ながらお茶を楽しめる。
“絵に描いたようなお洒落なカフェ”という絵を撮るにはピッタリであろう。
私がこの前、久々にテレビドラマと言うものをちゃんと見た時に(…と言っても某スタンドバトル漫画のスピンオフの実写化である)ロケ地としてここと思しき建物が映っていた。
故に、後でこの店に入った際にテラス席を見るなりまず思ったのが、
(どの辺にあの俳優さん座ってたんだろう…)
だった。
私は特に目的地がない時でも、時々元町中華街駅を降りて長いエレベーターを上がり未来都市を見守る静かな住宅地を歩く事がある。
正直、ここの一区画に限り私は横浜市とも日本とも別の国とすら思っている。
目と鼻の先にみなとみらい、関内や伊勢崎町、横浜港がありあらゆる文化や国の建造物が混ぜこぜになっているからだろうか。
どこを写真に収めても風景画のような美しさがあり、かつ本来住宅街で女子校のある街なので麓の喧騒を忘れるには持ってこいの地である。
えの木ていや山手の西洋館が出来たのは明治・大正か昭和の初めごろ。
ある程度海外の情報が手に入る現代の私たちが今この街並みを見ても魅了されるのだから当時の人々の西洋に対する憧れが少し、理解できる。
吉屋信子の『花物語』の、主人公を取り巻く街並みはこんなものだったのだろうか…と考える事もある。
ある初夏の日、山手を歩いていると小さな教会が一般開放されている日だったので、
「この暑さですから、少し休憩していってください」
と受付のおじいさんに案内されて初めて、キリスト教の教会の礼拝堂というものに入った事がある。
仄暗い部屋を見上げるステンドグラスの窓をボンヤリ見上げてふと、前の座席の方に視線をやり、
(花物語の主人公たちは、どんな状況下であろうと白い百合のように凛と生きていたっけ)
あの物語の登場人物は、聖書の教えに慰めを見出している事も多かった。
そう言えば、高校生の頃耽読していたあのあえかな少女達の物語を大人になってから一度も読み返していなかった。
最愛の妹に命がけで献身する姉、女教師と女学生の姉妹のような交流…今、その物語を読み何を思うのだろうか。
まぁ……高校生当時の私と比べて明らかにスレたことは自覚しているので、
(こんな清らかに終わる人生、憧れはするけど絶対マネしちゃダメだし…いや、できない!)
と足元を見てしまうに違いはないが。
さて、山手散策から店に話を戻す。
夏場に(…と言っても、9月に入った辺りだが)このカフェにかき氷を食べにいった事があった。
恥ずかしながら、数年来あのカフェに憧れてはいたが足を踏み入れたのはこれが初めてだ。
時は日曜日。人気店という事もありけっこう並んだが、不思議と苦ではなかった。
街並みや隣近所の建物をそれとなく覗いているうちに案内されて、建物の中へ。
深紅のカーテンと白い骨組みの窓は絵画のように窓ガラス越しに庭を映し、シャンデリアは“豪華“でなくともライトの球体一つ一つが花のつぼみのように連なっていた。
暖炉の上には古い時計と燭台があった。
これもこの屋敷で使われていたものだろう。
椅子に腰かけると、姿勢が自然と伸びる。
この日頼んだのはバラのかき氷。
かき氷であり、かつこの日も暑かったので手早く平らげてしまったが…最初一口から薔薇の香りを感じるやいなや5月に見た山下公園の薔薇の園を思い出した。
ガラスの器が空っぽになってからも、うっとりとしていたくらいである。
(メニューとしては、イチゴ味や抹茶味など…割とノーマルなかき氷もある。私は好きだが薔薇の味というのは好き嫌いがわかれる味なのでご参考までに)
冬になったら、またこの地に足を踏み入れたいと思う。
桜のつぼみが膨らんだ終わりごろでも、クリスマスの季節でもいい。
冬枯れの木が覆う街道を散歩してこの静寂の冬にも春や賑わいの気配を感じたいからかも知れないが。
執筆 むぎすけ様
投稿 柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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