第二章3節「蒼穹」
天変地異の後、神官のヒジリに保護され、東島の東部海岸平原で暮らしていた私は、ヒジリの妹であるメグミ(ほぼ私と同い年)と共に、帝国海軍基地附属の士官学園に入学した。そこでは、ヒジリの双子イサミが教官を務めていた。そして、新たな学園生活で私達を待ち受けていたのは、いきなりの実戦任務だった。
任務の内容は、地中海南岸の南島において、島内に侵入したテロ組織を掃討し、孤児などの現地住民を保護・救出するという作戦であった。
この世界の暦で雪月23日、作戦は決行された。私達は二手に分かれ、灼熱の南島へと向かった。苦戦が予想される事から、教官のイサミだけでなく、本来は「生徒の保護者様」のポジションであるヒジリまで出陣する事になった。
イサミと、新入隊員のネネカは、銃火器・艦艇・戦闘機など機械兵器を操る科学専攻クラス所属であり、東島海軍の艦載戦闘機に搭乗して、大洋上の敵軍勢を制圧し、続いて空中の敵戦闘機と交戦した。また、彼女らの空母を旗艦とする海軍艦隊が、避難民救出のため南島に急行しており、その船上には私も居た。
一方、魔術専攻クラスのヒジリとメグミは、科学クラスが敵軍を引き付けている間に南島へと上陸し、現地の少年兵サギハラを救助した。援軍の到着に希望を抱いたサギハラは、南島の遺跡に格納されていた旧式戦闘機を起動し、それに自ら搭乗して、ヒジリ・メグミに護衛されながら離陸した。
こうして私達は、新たな仲間と共に、戦火に染まった大空へと再び飛び込んだ…。
夢小説『スタウロライト 十字石の追憶』
第二章3節「蒼穹」
雪月23日、空は鉛色の雲に覆われ、戦場となった南島の上空は、まるで嵐の前触れのように不穏な空気に包まれていた。私達の戦闘機と魔術兵器は、次々と襲い来る敵軍の増援を迎え撃ちながら、現地の住民と孤児達を救出するため決死の任務を遂行していた。
今、この戦場は二つの作戦区域に分かれている。高々度の上空域には、戦闘機に乗ったイサミ・ネネカと、南島から離陸したサギハラの機影が見える。一方、南島の陸地に面する低空域では、魔術兵器で空中浮遊しながら戦うヒジリ・メグミの姿がある。
イサミとネネカは、帝国海軍の戦闘攻撃機に乗り込み、敵の航空部隊と激しい空中戦を繰り広げていた。イサミのステルス機「ライトニング」と、ネネカの艦載機「ホーネット」が敵編隊と激闘し、敵機の中には半ステルス戦闘機「ベルクート」も混在している。
イサミの声、無線機から響く。
ネネカは即座に応答し、左翼に迫る敵機に向けて急旋回しながら機関砲を発射した。激しい銃撃戦の末、敵機は火を吹きながら墜落してゆく。
「片付けました、中隊長!」
ネネカ、勝ち誇るように叫ぶ。
「油断しないで、まだまだ敵は居るわよ」
イサミは冷静な口調で答えるが、その声には確かな自信が感じられた。
一方、地上付近では、ヒジリとメグミが魔術兵器を駆使して敵陸上部隊を討ち、孤児達を避難させるべく奮闘していた。ヒジリの手には、光焔を纒った箒木が握られ、その一振りが敵を焼き尽くす。
ヒジリ、叫ぶ。
「分かった、姉様!」
メグミは、短刀の先端から巨大なプラズマ壁を放出し、敵軍の銃撃を防ぎつつ子供達の元に駆け寄った。
「大丈夫、もう安心だよ」
メグミは、怯える子供を優しく抱き締め、魔術シールドで護りながら海岸に誘導した。南島海岸には私達の艦隊が上陸し、敵陣地を砲撃して時間を稼ぎつつ、大勢の避難民を艦船に乗せながら脱出準備を進める。
そんな中、サギハラの操縦する旧式戦闘機「トムキャット」機内に、突如として警報が鳴り響いた。
そう嘆く彼女の声には、焦燥が滲んでいた。
「落ち着いて、サギハラちゃん。冷静に対処すれば、何とかなるわ」
イサミ、冷静に指示を出す。
「でも、もう限界かも…!」
サギハラの機体が、急速に高度を失い始めた。
その瞬間、ヒジリが反重力波でサギハラの機体を支え、ゆっくりと空母の艦上に降ろした。
「はぁ…どうにか間に合いましたね。サギハラちゃん、御無事ですか?」
ヒジリ、優しく微笑む。
再び空に舞い戻ったイサミとネネカは、ベルクートを先頭に迫り来る敵編隊と、最後の激闘を繰り広げていた。敵軍の増援は次々と押し寄せ、その数は圧倒的だった。
「これ以上は無理です、中隊長!」
ネネカ、叫ぶ。
「ネネカちゃん、諦めないで。私達には、まだ手があるわ」
イサミは決意を新たにし、全力で戦闘を続けた。
その時、地上から急行したヒジリとメグミが、上空に巨大なマンダラを描き出した。
「思ったよりも『お掃除』が長引きましたね…ですが、これで一気に終わらせます! メグミ、共に参りますよ!」
ヒジリが叫び、メグミと共に魔力を集中させる。
巨大なマンダラが光り輝き、空を覆うように展開される。次の瞬間、敵軍の戦闘機は次々と爆発し、撃墜されていった。
それを見て「やった、成功だ!」と歓声を上げるメグミ達の声を受信しながら、イサミは「じゃあ最初から、あれを使えば良いじゃない」と苦笑しつつ呟いた。
こうして敵空軍を撃退した私達は、難民を乗せた味方艦隊と共に、南島戦域からの脱出を開始した。全ての避難民が乗船するのを確認した私は、これ以上の敵増援が来る前に急ぎ出航するよう、大声で伝令した。
同じ頃、空母艦上に不時着したトムキャットと、そこに乗っていたサギハラも無事に確保された。回収された旧式トムキャットは、再び空を飛べないであろうほどの損傷を負っていたが、肝心のサギハラ本人は軽傷で済み、彼女の勇気は私達全員に勇気を与えた。
「まあ何はともあれ、今回の任務は成功ね」
イサミ、疲れ切った声で言う。
「皆様、本当にお疲れ様です」
ヒジリ、優しく微笑む。
私達は、再び日常に戻れる事を願いながら東島へと向かった。そして、この初陣を忘れる事は決して無いだろう。私達は共に戦い、共に生き延びた仲間であり、これからも共に歩んで行くのだから。
天変地異による人口激減の結果、私達のような新入りの人材さえも総力戦に動員しなければ、旧大陸の秩序は維持すら難しい…士官学園への入学と、いきなりの初陣は、世界の厳しい現状を私達に突き付けた。
東島に帰還すれば、私達は学園での日常に戻るのだろう。しかし、心の中にはあの戦場で得た絆と経験が刻まれていた。これからも私達は、新たな試練に立ち向かってゆくだろう。どんな困難が待ち受けていようとも、新たな日々へと歩みを進めなければならない。
この空の下、私達を待ち受ける次の戦いと、切り開くべき未来がある。私はサギハラと共に、帰還する空母の艦上から、一時の安息を得た蒼穹を見上げていた。
「今日は本当にありがとう御座いました。さあ、帰りましょう。あたし達の未来に…」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?