孤独を取り払って
あいいろのうさぎ
憧れのその人と同じクラスになれたのは奇跡としか言いようがなかった。しかも席が隣だなんて、私は運を使い果たしてしまったのではないかとさえ思う。
ただ問題があった。
憧れるあまりに一言も喋りかけることができない。
そもそも私なんかが話しかけていい存在なのだろうか。クラスメイトたちも彼に対しては一目置いているためか距離を置いている。そんな中で話しかける勇気もなかなか出てこない。
そして悶々としている間に一か月が経ってしまった。
でも、そうしていたのは間違いだったと気づくことになる。
私はその日、ファミレスで憧れの人を見つけた。学校でも話しかけられない私がファミレスで突然声をかけられるわけもなく、でも気になるからつい近くの席を選んでしまった。
少し罪悪感に苛まれながらも彼の様子をちらりと見る。
学校にいる時とは、まるで違っていた。
学校にいる時の彼は常に孤独を纏っていて、まさに孤高の存在という感じなのに、今はどこにでもいる普通の高校生みたいに誰かと笑っている。
少しの間ポカンとして、それから自分の勘違いを恥じた。
私はテレビで言われるように、彼の事を神童だと思っていた。実際、彼の努力と才能は間違いのないことだ。でも、それより先に彼は人間なんだ。常に孤独を纏っているのも、それはそうだろう。みんながみんな、彼の事を避けているのだから。
それなのに私は、それを特別な存在であることの証明みたいに思って、彼の気持ちなんて考えていなかった。
たぶん、普通に寂しいのに。
翌日、たまたま彼と下駄箱に着くタイミングが一緒になった。
少し緊張したけれど、なるべく普通に言えたと思う。
「おはよう」
彼は少し目を丸くした。今まで全く話さなかったクラスメイトから挨拶されたのだ。驚いて当然だろう。
「おは、よう」
それでも何とか挨拶を返してくれた。けど、しまった。ここから先の展開を何も考えていない。
「えっと、鈴原さん? 何か御用でしょうか」
名前を覚えていてくれたことに驚きながら、私は咄嗟に、それこそ小学生みたいに「友達になってください」と言った。ヤバい。バカなこと言ってる。そう思ったけど、
「えっと、僕で良ければ、よろしくお願いします」
彼はそう言って笑った。
あの日見た笑顔だった。
あとがき
目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。
今回はお題なしです。前回「先走る気持ち」で書こうとしてボツにした案を形にしてみました。私の作品を読んでいただいている方なら「憧れの人」がどの子なのか分かるかも? そこも含め、お楽しみいただけていれば幸いです。
またお目にかかれることを願っています。
制作 あいいろのうさぎ様
投稿 笹木スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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