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彩りを連れて 十
自分の気持ちを自覚してから、日々は晴くんで染まっていった。
文化祭が終わってからは、準備期間中ほど話すことはできないけれど、晴くんと美玲ちゃんは度々私に話しかけてくれる。話している内容は、本当に他愛ないことで今流行っている動画とか、この前食べたプリンが美味しかったとか、そんなこと。でも知らない事が多い私には新鮮に映って、新しいアプリを入れてみたり、スーパーで見かけた時にこっそりお菓子を買ってみたりした。そうやって私生活に少しずつ晴くんの要素が入ってきた。
授業中なんかもプリントを解き終わってから答え合わせを待っている間の何もできない時間に、つい目線が晴くんの方を向いてしまった。晴くんも同じように暇そうにしていて、今話せたら良いのに、なんて考えてしまう。自分でも考えすぎだと思う。思うけれど、でも、ぼーっとしているといつの間にか晴くんは頭の中に居て、私の思考に入り込んでくる。
そう言えば晴くんは新発売のポテチがあんまり美味しくなかったって嘆いてたな。あぁ、でもあと一ヶ月もすればコンビニで肉まんが買えるって楽しそうにしてたっけ。
そんな風に会話を思い出しているせいか、この前話した時に「真緒って話したことよく覚えてるよな。やっぱ地頭が良いのかな?」と言われて、正直なことを言えるわけもなく「そうかも?」と答えてしまった。
そしてこの気持ちは美玲ちゃんにあっさりバレた。
美玲ちゃんから「一人じゃ勉強集中できないから電話しよー!」と誘われて、美玲ちゃんの勉強に対する文句を聞きながら手を動かしていた時だった。
「そいえばさ、真緒ちゃんって太田に告白するの?」
いきなりこれだった。『好きなの?』とかですらなく、『告白するの?』と言われ、私は目を白黒させてしまった。
「黙ってるってことは、やっぱり好きなんだ」
美玲ちゃんは「だよねー」みたいなテンションで言うけれど、私としては驚きと焦りでいっぱいになってしまう。こんな時、なんて言って誤魔化せばいいのか分からない。というか、誤魔化したところで不自然な気がする。でも、こんな、急に気持ちがバレるなんて。
「い、いつから知ってたの?」
聞いてみると、美玲ちゃんは
「んー、最初っから? 文化祭一緒に回ってる時にはもう好きだったんじゃないかなーって思ってたけど、違う?」
と事もなげに言ってみせる。
少し違うけれど、否定するほど間違ってもいない。私は黙り込んでしまった。
「言いふらしたりしないから安心して!」
美玲ちゃんはそう言ってくれた。
「私ってそんなに分かりやすいかな……」
と言ってみると、
「お世辞にもポーカーフェイスが得意そうとは言えないかな」
美玲ちゃんはかなり正直な意見を言った。この調子だと晴くんも私の気持ちを分かっているのではないかと不安になる。
「晴くんにバレてるかな……」
呟いてみると美玲ちゃんは「あー……」と間を空ける。その間がとても怖かったけれど、
「太田にはバレてないと思うよ。あいつ察し良いくせにそっち方面は全然だから。むしろバレてるとしたら立花かな」
と言われ、安心していいんだか悪いんだか分からない。晴くんにバレてないのは良いけど、その辺全然察してないのもなんだか少しモヤモヤする。というか、バレてるとしたら立花くんという情報も私の頭を悩ませる。でも確かに立花くんはとても空気が読めるので、バレていてもおかしくはない……。
思わず溜息を吐くと、美玲ちゃんがカラッと笑った。
「笑い事じゃないよ……」
「ごめんごめん。でもそんなに悩まなくて良いと思うよ。立花だって私だって好き好んでいじってやろうとか思ってないし。真緒ちゃんはその想いを大事にして、どうしたいのか考えれば良いよ」
その言葉を聞いて、ちょっと安心した。私の想いがバレてしまっているのは、あまり“良かった”とは言えないけれど、せめてバレている相手が美玲ちゃんと立花くんだったのは良かったかもしれない。
「あ、そういえば、明日でしょ? 太田とコンビニ行くの」
美玲ちゃんの言う通り、明日はコンビニに行く約束をしていた日だ。最初は美玲ちゃんと立花くんも誘ったけれど、二人とも部活があるし、私はそれを待っていることもできないので、帰りの方向も同じ晴くんとコンビニに寄ることになった。
「『コンビニ行くの』って改めて言うのもなんか変な感じだけど、真緒ちゃん全然行かないんだもんね?」
「うん。なかなか用事がないから」
「コンビニって用事がなくても行っちゃう場所だと思うけどねー。真緒ちゃん寄り道して帰ることもなさそうだし、明日は楽しんで!」
「ありがとう」
寄り道しないことをサクッと言い当てられた。確かに私は真っ直ぐ帰っているし、なんなら帰り道にコンビニがあるという意識もなかった。
私の知らない楽しみが、明日待っている。しかも晴くんが一緒にいてくれる。
明日のことを想像して、心の中に光が溢れた。