ペトロダラーの終わり
今年の世界経済フォーラムは、アメリカの一極覇権体制・ペトロダラーに対する死亡宣告となったようなものだ。ジョージソロスもビルゲイツも来ず、クラウス・シュワブも初日は欠席していたらしい。
死亡宣告というのはサウジアラビアの財務大臣がドル以外の通貨建ての取引を検討しているという発言をしたということで、昨年の12月の習近平のサウジ訪問の際にも強調されていた「ドル以外の取引の拡大」つまりは脱ドル化の推進が確認されたということだ。
戦後のブレトンウッズ体制(とりわけ1973年以降のブレトンウッズ2=ペトロダラー体制)の礎は、産油国(サウジアラビア)がドル建てでしか原油を売らないということだった。ドルを手に入れなければ原油を買えないということで、ニクソンショックにより不換紙幣と化したドルの通用性を、原油との擬似的な兌換に求めたのがこれまでのペトロダラー制だったわけで、これが米国覇権の最重要の基盤だったわけだ。だからこそ人民元建てで原油を中国に売るイランなどはならず者国家であり、悪の権化みたいに言われ続けてきたのである。そのイランも今やロシアと組み、ゴールドに裏付けられた仮想通貨であるステーブルコインを貿易決済に利用することを両国の中央銀行が共同で研究している。
すでにアストラハンの経済特区ではこのステーブルコインが一部利用されつつあるらしい。アストラハンはカスピ海に面したロシアの都市で、モスクワとムンバイをアゼルバイジャン・イラン経由で結ぶ内陸の輸送路である南北経済回廊の要衝である。ここでの実証実験が首尾良く行けば、他の主要都市にも展開されていくことだろう。
※南北経済回廊については過去記事も参照
今年はBRICSの拡大の年になり、アルジェリア、イラン、アルゼンチン、トルコ、サウジアラビア、UAEが加盟してBRICS+になっていく。IMFのSDR(特別引出権)に似た通貨バスケットをBRICSでも作ることが検討されており、BRICS五か国通貨の頭文字を取ってR5と呼ばれている(ルーブル、ルピー、人民元、リヤル、ランド)。
これはペトロダラーの焼き直しではなく、ゾルタン・ポズサーやセルゲイ・グラジエフの言うようなブレトンウッズ3、つまり複数のコモディティバスケットによって裏付けられた新たな通貨体制になり、多極的で基軸通貨が複数あり、単一の覇権国を生み出さないような仕組みになっているというところがポイントになってくるだろう。一つの勢力があまりにも強大な力を持ちすぎると現代のような状態に陥ってしまうため、そのような単一の強大な勢力を生み出さないようにしているように見える。それぞれの地域でそれぞれの勢力がおり、もちろん小競り合いはあるものの、どこかの勢力がそれ以外をすべて駆逐してしまうようなことがないようにする。古代中国のような群雄割拠の状態が長く続くようにする、というのがこれからの世界のあり方なのではないかと思う。ロシアも中国も、アメリカ型の覇権国を目指すのであれば貿易決済やら何やらの決済にルーブルや人民元の使用を強制していくはずだが、そうはなっていない。
インドや中国は、ロシアから安く買った原油をヨーロッパに高く売って大儲けしている。中国は疫病関連のロックダウンも全廃し、さらに経済成長に向かって突き進んでいくだろう。ロシアの富裕層はドバイの不動産を爆買いしている。日本の事業者も、早々にユーラシアの国々の金持ちに向けた商売に切り替えていくべきだろう。