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1いいね1円生活を始めたら7円しか集まらず死にかけた件

クソ自己顕示欲

今、ツイッターでは「1いいねにつき〇〇します!」ネタが熱い。(おそらく)きっかけは大竹利朋氏のこのシリーズからだろうか。

可愛らしい腹ペコ女子がフォロワーからのいいね数に応じて次の日の食費を得る。彼女は2日目にしてなんと70155いいね=70155円の食費を得て、豪勢な食事を頬張っていた。

それからはツイッターでは雨後の筍のように様々な亜種・派生の「1いいね」ネタが生まれてきた。

例えば1いいねにつきパスタを1本食べる、1いいねにつき1歳若返る、1いいねにつき家を失ったお嬢様に1円が入る、1いいねにつきスカート丈が0.1cm短くなる……。どれもこれも作る側と見る側の双方が「そんなとこまで行っちゃうの!?どうなんのよ!?」と驚き、膨らみまくったいいね数にエンターテインメント性を感じる所がきっと面白いのだろう。

クリエイターと受け手が相互になって一つの作品を作り上げる一体感。これはいつの時代でも面白く、ポケモン攻略を視聴者のコメントで行う配信が人気である点からも明らかだ。

さて、そんな流れを見て私は思った。

「これ自分もやったら結構面白いんじゃね?それもリアル食費で、1食だけじゃなく1日の食費で!」

仮にもVtuberの端くれである。エンタメ的なものにはそれなりにアンテナを立てているつもりではある。

ここで一つ正直に告白すると、多少の打算はあったことを認めよう。それはつまり、自分ではビッグウェーブを起こせずとも、ちょっと便乗しておこぼれにあずかろうという気持ちである。ついでに言えば少しでもいいね数をもらっていい気分になっちゃおうというゲスい発想もあった。(もちろんいいね数やRT数がコンテンツの全てじゃないってことはわかってるよ!)

もう一つ告白すると、ネットで流行しているネタやコンテンツを追いかけつつも、積極的にいいねやRTはしないで「ちょっと自分、違うんで」みたいな態度を見せているシニカルクソ野郎な所もある。

100日後に死ぬワニは1日たりとも欠かさず追いかけて読んでたし、ソシャゲのガチャ画面をアップしないのにスクショを取りまくったりもしている。にも関わらずいいねもRTもアップもせずに「そういう立ち位置」みたいなキャラづくりをしている面も正直に言えばちょっとあった。クソである。

にも関わらず、「1いいね1円生活」をやろうと思ったのはなぜか。

それは「そのコンテンツをやっている主役は自分だから」である。

果てしなくクソみたいな理由である。

とにかく、自分がワンチャン目立っちゃうかも!みたいな所に着目して、普段全く持ち上がらない腰を秒で持ち上げ実行に移すことにしたのだった。

地獄の数字

善は急げとツイッターを立ち上げ投稿の準備をした。

しかしただ単に投稿するのではなく、例えば一番人が見ているであろう帰宅途中や夕食後の時間帯を狙って投稿したり、TLの雰囲気が悪くないタイミングを狙いすましたりした。

全てはいいね数の為。時には命や金をかけてでも獲得する人すらいるいいねの為。SNSの欠かせないこの時代において、理屈では全てではないとわかっていながらも、それでも意識してしまう絶対的評価であるいいね数の為。

ここでもう一つ、告白しよう。実際はすごい数のいいねが集まることは想定していなかった。普段はイラストや動画をあげて大体10~30いいねを頂いている。加えて自分のフォロワー数とかアクティブに絡んでいる人の数からみても本当に大層な数字にはならないだろうと思っていた。

「ま、今旬のネタだし100いいねくらいかな~!?100円でセブンイレブンのチョコスティックパンしか買えませんでしたトホホ~、でもこれで2日をしのぐネタも見せて2日目にはさらにドン、って感じかな~!?」などと考えていたくらいである。

決行のタイミングが迫る。理想の流れをむんずとつかみ、渾身のツイートをぶち込んだ。










もう見えているだろう。

投稿時より若干増えているが、結果は7いいねであった。

7。

7である。

7円て。

デフレのこのご時世においても、100円マックの消費税分にすらならないじゃん7円て。

半分パニックになった頭で「7円以下で買えるもの」を検索したのをいまだに覚えている。

そうだ、5円チョコだ。あれならきっと買える!そう思い検索するも、出てきた情報は「5円チョコは現在単品売りはしていない」という無慈悲な情報。絶望しかなかった。

確かになー!!ぜんっぜん最近見かけなかったもんなー!!でっかいやつしか見てないもんなー!!

それでもめげずに調べ続ける。

やがて出てきたのは「ホームセンターで買えるナットが3円」という情報だった。

ナットて。

未だに現生人類は金属を栄養として利用する微生物を宿していないのに、もう先駆けしろってか?ドラえもんの胃袋は何喰っても栄養に変えられる原子炉を搭載しているけど明日からドラえもんなりきり系Vtuberとしてやっていけってか?

とにかく、地獄の生活の幕開けだ。

人は水のみで生きるにあらず

1日目。とにかく憂鬱な気持ちで起きた。

普段ならパンなり前の晩の残り物なりを美味しく頂いてから仕事に向かうのだが、今日自分が口にできるものは7円以下のものだけ。

したがって朝食は否応なしにこうなった。

奇麗に洗った皿と、ちょっといいお酒を飲むときに使うグラスを使った。多少は気持ちが変わるかと思ったからだ。全くそんなことはなかったけど。

このツイートについたいいね数は自分がこれまで頂いたものの中でもかなりの伸びを見せた。

違うんだそこじゃない。前の晩にその優しさを見せてくれ。

かなり久しぶりに仕事中にツイッターの通知が鳴りやまない経験をした。

違うんだいまじゃない。前の晩にこの振動を味わわせてくれ。

とまぁせっかくいいねを頂いているのに何ともクソみたいな感想を持ってしまったのである。自尊心と腹が満たされないとこうも人はささくれてしまうんだってことを嫌というほど味わった

結局その日の昼は抜いた。流石に職場のオフィスでうやうやしく水を飲む姿を見せればどんな声をかけられるか分かったものではないからである。

しかし一方で、ずっと食事を抜いていました~なんてことをツイッターにつぶやこうものなら「え、こいつお金使えないからって断食に移行してんの……おもんな……想定内じゃん……」などとインターネットネタ判定委員会に血祭りにあげられるのが目に見えている。

そこで私は「これならぜってーネタになるだろ!!!」と夕食をこんな感じで仕上げてみたのである。

会社の個室トイレに駆け込み、流しに水を張った。

これなら何も買えていませんよアピールをしつつも「ウッソマジで~!?シアちゃんどこで水呑んでんの~!?草草の草~!!!www」という反応も頂ける。完璧な作戦である。

だがいいね数はがっつり減った。

なんなら今までついていたリプライは0になった。フォロワー数も減った。トイレで飲んだ水は少ししょっぱい気がした。

結局1日目は水以外何も口にせずに終えることとなった。

だが既に初日から体には異変が起きていた。

具体的にはふらつく、普段しないようなミスをする、めまいがする等々……

そんな中、2日目の食費を決めるべく2度目のツイートを決める。

今でこそ100いいねを超えているが、投稿した時には73いいねを頂いていた。

これでも普段の自分のコンテンツやつぶやきにつくいいね数の数倍になる、尋常ではない数字である。本当に嬉しいしありがたい。

だがシアちゃんが住む社会はどうしようもないほどに資本主義社会だ。

額にして73円。1日目に使わなかった7円をキャリーオーバーさせるマイルールを発動させるも、それでも80円。コンビニのおにぎりにすら届かない。

ビンボー生活マニュアルの主人公だってもうちょい食ってるし高槻やよいちゃんだって80円じゃ家族の1日分の食費にはならないんじゃないか?

困り果てて80円の食費で生活する術をインターネットに求めた。

出てきたのは「1週間、1日100円の生活に挑戦するYoutuber」の記事。

僅かな望みを先駆者にかけて記事を読むも、彼は途中でギブアップしていた。彼の動画についたコメントは「100円は鬼畜過ぎる」「栄養失調で死んじゃう!」「危険。過激すぎる」等々、その行為に戦々恐々したものばかりだった。

あれ、100円でこれならシアちゃんやっていけないんじゃね?

この企画はあくまでも食事に使う金額を決めるものだ。だから食事にかかわるもの以外なら何でも買うことが出来る。

しかしいくらボールペンを買ったところで腹が満たされるわけでもないし、お気に入りのアーティストのCDを買ってもどうにもならない。

この飽食の時代に、慎ましい生活を送れる程度にはお金があるのに食べ物を買うことが出来ないなんて一体どういうことなのか。

まさしく、シアちゃんは自らが生み出した愚かな自己顕示欲とツイッターという無慈悲なバケモノに殺されかけていた。

初日の夜、寝る前に30分ほど振り返り配信をした。いつも通り喋り、いつも通り終えた。

だがたった30分の配信だったのにも関わらず、まるでマラソンでもしてきたかのような疲労感と息切れが襲ってきた。

この辺りで少し恐怖を覚えはじめる。


肉体と精神の崩壊

2日目。異常なまでの腹痛とふらつきによって心身ともにバチクソにやられながらも起床する。当然、寝ることも殆ど出来なかった。

前日に獲得した貴重な80円をどこで使うか真剣に考慮した結果、「仕事にエネルギーを回せるように夕食に使う」こととした。

したがって2日目の朝食もこんな感じに。

1日目と同じ装い。そして塩コショウ微量なら0円でしょという第2のマイルールを発動させてスープ風になることを期待して飲んだ。

結果は虚無だった。

コショウは溶け切らずにへばりつき、空腹で刺激物に弱くなっているのどの粘膜をボコボコに殴りまくる。うま味調味料も何もない純粋な塩味はひたすらに不味く、思わず吐き出しそうになる。

散々だった。

あ、あと画像に映ってる塩コショウのメーカー、ダイショーさんからいいねを頂いた。企業案件、待ってます。

無を口にしてからいつも通り出社する。

オフィスにつき、これまたいつも通りのルーチンワークに取り掛かった。

電話を受けたり書類を見たり書いたり資料を作ったり打ち合わせしたり来客対応したり……。

だが昼過ぎ時点で既に体の不調は初日よりも激しさを増していた。

上手く喋れない、手元が震える、目が霞む、人の言った言葉が一度では理解できない、そもそも何を言ったのか聞き取れない、うまく座れない・立てない、PCやスマホの画面を見続けられない、自分でも理由の分からない苛立ちを覚える等々……

明らかに異常である。

同僚や上長からも「シアちゃんマジで大丈夫?普段食べてるおやつも食べてないけど何かあったの?」としきりに心配される。

このままの状態が続けば自分自身の生命の危機にも関わるし、もちろん職場の皆にも迷惑をかけることになる。そこでついに今回の企画を打ち明けることにした。

シア「実は1いいね1円生活っていうのをやっていましてかくかくしかじか……」

同僚「え~マジで!?ウケる~!もっといいね数減らして何日耐えられるか試してほしい~!」

上長「やばすぎて笑える~!じゃあ心配して損したかも~!頑張ってね~!」

おかしいだろこの職場。処刑を娯楽にする中世の感性かよ。

(普段は皆仲良しで楽しい職場です!空腹で殺気立っているだけです!)

さて、そんなグログログロッキーな状態で待ちに待った夕食の時間である。

ここで私は二択を迫られた。

一つは80円で食べ応えとエネルギーのあるものを買う事。例えばスニッカーズのミニサイズとチロルチョコであれば大体予算内に収まり、かつエネルギーもそれなりに取れるだろう。

もう一つはネタに走ること。これはこの企画をさらに面白くするため、すなわち「なんでよりによってそんなの買っちゃうの!?」という反応を頂くための打算である。

シアちゃんはVtuberである。活動頻度も高くなく、ビッグコンテンツを生み出してなどいないが、それでもVtuberの端くれである。

故に答えは一つであった。






アンパンマングミ。

RTAはほんの少し下火になったが、それでもサイクルの早いV界隈でもまだ通用するだろうという思惑で購入した。

だがついたいいね数は初日の夕食すら下回る。空腹で今にもがっつきたくて仕方がなくて、気が狂いそうな中RTAをやってみたのにそこに突っ込まれることすらなかった。わずかに腹は膨れたが、自尊心は1年チャートで見る現在のダウ平均株価と同じになった。

もう限界だった。1週間は続けるかも~、なんて言っていた初日の自分をぶん殴りたい。

だが現実は更に追い打ちをかけてくる。

まさかのネタ被りである。

若干の違い(向こうは昼食のみの22歳男性、こっちは一日分の食費の美少女)はあるものの、ほぼ同時期に同じことを考えている人が存在した。

おまけに向こうの方が圧倒的に良い物を食っていやがる!!!羨ましいやんけ!!!

これすなわち、ツイッターという評価経済社会でシアちゃんは絶対的な格差の壁の前に打ちのめされたことを意味する。

このまま続けても1週間どころか3日目でぶっ倒れるかもしれない。そもそも瞬間風速的な勢いが求められるネタでほぼ毎日水の写真をアップしていたらいよいよ狂った人に思われるかもしれない。

かのアジア初のノーベル経済学賞を受賞した経済学者、アマルティア・センは、大飢饉で自身の通う小学校に飢餓で狂った人が入り込んだことから経済学者の道を歩むことを決めたという。

この企画を続けていくことはすなわち次のノーベル経済学賞受賞者をV界隈から出すことに他ならない。

とにかく、この時点でシアちゃんは心身ともに完全に打ちのめされ、ギブアップすることを決めた。

そこで3日目の食費を決めるツイートをしたのだが……。

1いいね100円。

これは今までの反応とネタの鮮度から見て恐らく2~40いいねくらいで収まるだろうという魂胆と、配信時の助言を元に設定した金額だった。

だが頂いたいいねは144。

一日の食費として14400円である。

何だ君たち、優しいのか悪魔なのかどっちなんだい!

7円とか80円とかしかもらえなかった人間に唐突に14400円渡すってどういうことなんだい!!!

嬉しいやら怖いやら、なんだかそれも分からないまま1いいね1円生活は幕を閉じたのであった。

(3日目は普通にお買い物しまくるだけなので割愛)

まとめ

面白おかしく書いてきたこの企画だが、実は色々思う所があった。

よく、サバイバルの極意みたいなもので「人間は水さえあれば2週間は生き延びれる」という説が用いられる。あれはきっと正しくて、本当に危機的な状況に陥ったのであれば従うべきなんだろうと思う。

しかし今回の企画のように、通勤したり仕事をしたり家事をしたり……といった「ごく当然の生活」を送る際には必ずしも当てはまらないのだと痛感した。本当に嘘偽りなく、「腹が減っては戦が出来ぬ」状態に陥るのだ。というか戦どころか、普通の行動すらままならなくなる。それだけ私たちは普段生きていく中で相当量のエネルギーを消費しているのだろう。

またいくつか頂いたご意見の中で「節約生活でよくある小麦粉とか買ってみては?」というものもあったが、水しか飲んでいない状況を2日間続けている中で仕事をする、買い物をする、家に帰って料理をする、を全てこなすのは尋常ではなく難しかったというのが正直な所でもある。

もちろん個人差はあると思う。

しかし私の場合、料理する時間や買い物をする時間はちゃんとあるのに気力が全く起きず、家に帰ったらただただへたり込んでしまった。食事をとれないというだけで、文字通り生きる気力が失われるのだ。

そしてこの企画から学んだことが1つ。

自分の生活にかかわるコアな部分をSNSの数字に依存するのは危険であるという事だ。(そもそもそんな奴おるんかという気もするけど)

もちろんこの企画の裏で「実はこっそり食ってました~www」なんてことも出来たし、本当に裏で食べていないことを証明するのは無理だろう。

だが実際にこの企画をやってみて、職場の給湯室にあるおやつや、自宅の冷蔵庫の中のものを食べようという気が微塵も起きなかった。確かに尋常じゃないレベルで空腹だったのに。

それは「ルールだから」ではあるのだが、より深いところで「もっといいねを稼ぐために」だとか「もっと面白いネタを提供できるように」だとか、とにかくネット上の何かに背いてはならないという意思が一番強く働いたように思う。

元来、私はプライドは高い方で、あれこれ格好をつける性格だよなぁと思う。そして妙に憶病で中途半端になりがちである。

しかし一方で、自分の作る物や送り出すものに妥協せず、そして自分が納得していることが一番大事だと思うし、いいね数やRT数といった無機質な数字にこだわる必要なんてこれっぽっちもないな、とも割かし本気で思っている。

にも関わらず、この企画では「数字を稼ぐこと」に執着してしまっていた。なぜか。

それは恐らく、「食」という自分の命にかかわる部分と「エンタメ」という自分の行為そのものがコンテンツになることが結びついた結果、どんな金額であっても面白くしてやろうという方向に動いてしまったからである。

今回はブレーキが働いたけど、もし生み出すコンテンツ頼みの生活が懸かってた生き方をしていたらどうだっただろうか。もっと大きないいねやインプレッションを稼ぐために、あえて「このツイートについたいいね数だけ食費にしまーす」というツイートを深夜に投げてめっちゃ低いいいねをゲットしようとしたり、「高級品を食べるために1週間連続水でーす」なんてやったりしたのかもしれないと思うとぞっとする。

そうでなくても「目立ちたい」というささやかな願望は時に思いもよらない行動をとらせることがある。それも大概悪い方向で。

私たちは大なり小なり人の評価を気にしてしまう。特にこのSNS全盛の時代であればなおさらだ。しかしそれは再三言われている通り、自分自身の評価や生き方を測れるものでもなんでもなく、本当に「ただの無機質な数字」なのだ。そこに私たちが勝手な解釈で意味づけをしているだけで。

正直、7円とか80円とかで生きろって言われるのはネタとして面白いなと思ったところもある。しかしこれは非常に危険だった。それを嫌というほど、体を追い詰めて学んでしまった。

どうか「無機質な数字」に踊らされることがありませんように。

最後に、こんな無茶苦茶な企画にお付き合いくださった方々、いいねを押してくださった方々、本当にありがとうございました!



*この企画はかなりのネタ企画ですが、それでも真似はしないでください。

*繰り返しになりますがいいね数やRT数が全てじゃないからね!

*でもこの記事がよかった人はシアちゃんのツイッターにでも行っていいねを押してください。

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