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狼 さそり 大地の牙 ー連続企業爆破事件ー


2024年1月─── 一人の男が発見された。
その彼は、こう名乗る。「桐島聡」と────


本当は、このネタもう少し早く文章にしたかったんだが…!繁忙期と重なり大分遅れての執筆になってしまいました…!( ;∀;)
ヘンリーの嫁さんシリーズ完結してないだろうがー、とか、テューダー王朝はどうしたーとか、そういうことは仰らずにお付き合いいただければ幸いです( ;∀;)


突然現れた「彼等」


1970年代と謂えば、学生運動の花が咲く百花繚乱!狂気の70年代。
「いくさ」が帝都東京中心で起きることを本気で夢想していた若者が多い時代でもあった。
大学生たちは、「自分の手で社会を変えられる俺様」と思い込んでいたとしても不思議ではない。
現代社会の大学進学率は60%程度を推移しているが、当時(1960年代→1970年代)は、大学進学率17%→30%。
家にそこそこ金があって、尚且つオツムが良くなければ大学になんか行けない。下手すりゃそこに「長男」だとかそんな条件が加わったりするご時世だった(次男以降、或いは女は大学に行くな!とかね)
つまり、大学進学=選ばれしエリート様。そんな世間の目も、自負もたっぷりとあっただろう。

そして、彼等は学問ではなく武器を取った。
僕が時代を変えるんだ、俺が日本を変えてやる。

機動隊VS学生運動。
暴力革命上等。首相官邸にダンプで殴りこんで政権奪取。それを足掛かりに世界革命!!…おいおいヤクザかよ。
と、謂うかお前ら何のために大学行ってるんだ。学問する為じゃないのか。暴れる学生たちに警察も本気出す。さすがにプロ集団には学生運動も勝てやしない、し、何より今も昔も熱しやすく冷めやすいのが日本人。
学生運動を見守るのに…大衆も飽きていく。

それでも、残った連中はいるので、一致団結すればいいものを、何故かさらに細かく分かれていく。そしてお互いに同盟ではなく「権力の犬」と罵り合い内ゲバ大勃発。内ゲバでなんと死者100人超え。おいおい何やってんの。
周りの冷ややかな目にも構わず、さらに過激化先鋭化。爆弾テロ起こしたり、猟銃屋さんを襲って銃を奪ったりもうやりたい放題。

そして行き着くところは、連合赤軍。
山岳ベースにてリンチで仲間を殺しまくり、最後にあさま山荘に立てこもり警察と銃撃戦を繰り広げ機動隊がカップヌードルを大宣伝!!

「彼等」は、連合赤軍の内輪揉めについては報道で知った。

一冊の本

「第一条ノ罪(治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ爆発物ヲ使用シタル者及ヒ人ヲシテ之ヲ使用セシメタル者ハ死刑又ハ無期若クハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス)ヲ犯サントシテ脅迫教唆煽動ニ止ル者及ヒ共謀ニ止ル者ハ三年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」

爆発物取締罰則第4条


その本は、唐突にこの世に登場する。
40ページ弱。薄っぺらい本。100円。現代の貨幣価値に直すと大体400円前後くらい。
如何にも安物の地下出版って感じの本ではあるが、これが超絶危険な危ない本なのだ。
所謂「アカ系」の本屋にある日突然届き、書棚に並んだらしい。令和の今では考えられない話だね…。

腹腹時計

その名も
「腹腹時計」────。
ちょ、ネーミングセンスと謂うなかれ。
当時の武装闘争本は「球根栽培法」だったり、「栄養分析表」だったり、「薔薇の詩」だったりと、一見すると何の本なんじゃい、というような名前が多かったんである。
ちなみに、時限爆弾で「ハラハラドキドキ☆」するのと、朝鮮文体で「ハラ」は「~せよ」という意味という二つをかけているとかいないとか…。

今日、日帝本国に於いて、日帝を打倒せんと既に戦闘を開始しつつある武闘派の同志諸君と、戦闘の開始を決意しつつある潜在的同志に対して、東アジア反日武装戦線”狼”は「兵士読本Vol.1」を送る。これは武闘派同志諸君と共に東アジア反日武装戦線へ合流し、その強化をめざす為のものである。

腹腹時計

此処に、「東アジア反日武装戦線」「狼」と謂う単語が初めて登場する。
内容は彼等の主張と認識の共有、そして、「ゲリラ兵士」としての心構えの教訓だ。
【日本は朝鮮、台湾、中国大陸、東南アジアを侵略、支配してきた悪い国。その子孫である日本人も悪いやつ!!】
【東アジア植民地の方々の血と涙を啜り繁栄をしようとしている小市民労働者(一般労働者)も悪いやつ!賃上げ要求なんかとんでもない!更に植民地から搾取しようとしているからだ!(ただし、日雇い労働者は別/日雇い労働者も搾取の対象であり、彼等もまた戦っていて、小市民労働者と真っ向から対決している。)】
【ベトナム戦争が終わらないのもベトナム戦争を終わらせるべく日本国内で闘いを徹底的にさぼってしまった我々に責任がある】

【だからこそ、我々は日帝を打倒する戦いを開始しなければならない。反日武装闘争の攻撃的展開こそが緊急任務である。】

早い話が、日本は超悪い国で、日本人も超悪い。だから、徹底的に闘いましょう、テロしましょう!!と謂う思想なんである。

そして、ゲリラ兵士としての配慮と称し、所謂「すべき、すべからず」が続く。
「あらゆる面で肥大化した都市機能、雑踏を最大限に活用し、かくれみのとしなくてはならない。又、最大限の注意と配慮を講じなくてはならない。従って、ゲリラ兵士の出発の第一は、その条件を整えることである」としている。
そのまま引用すると滅茶苦茶長くなるので、要点だけ並べて行こう。

先ず、腹腹時計では、自らが左翼活動家であると思い込んでいること、他者からそう思われていることを生活形態などを変えて消していくこととしている。つまり、対外的には一般人として過ごせ、と説いている。

居住地は、極端な秘密主義、閉鎖主義はかえって墓穴を掘ることになると記している。連合赤軍の山岳ベース全否定。
そのうえで、表面上は生活時間は市民社会の時限内に徹し、昼夜逆転には注意すべしとしている。
また、近所づきあいは浅く狭く、ただし、隣人との挨拶はきちんとすること。居住地としてのアパートや下宿に大勢で屯するな。深夜明け方にひそひそ話が続くことは避けること。
居室に生活用品が全くなくポスター、ステッカーが散乱、貼り付けしている状態はやめなさい。引っ越しの際に荷物がないと目立つし、それによってこそこそと動き回る結果になるからだ。
居室は常に整理整頓し綺麗にしなさい。名簿、手紙、手帳などは常日頃整理し、必要に応じて暗号化すること。不必要なもの、あるとまずいものは他に移すか廃棄、焼却すること。

職場は、なぜそこを選ぶのか明確にしておくこと。すでに就職している場合は、何故この職場にいるのか常に意識的にすること。無節操にあれこれ手を出すのはダメ。
特に明確な目的がない場合は、組合などで極左的にごり押ししないこと。経営者はすぐにタレコミをする。
居住地、職場共に共通なことは極端な秘密主義、閉鎖主義に陥らぬことと、左翼的な粋がりを一切捨て去るということだ。長髪でひげを蓄え、米軍放出の戦闘服などを着た「武闘派」が居るが、それは偽者であり危険極まりない男と判断すべきである。

更に、親戚づきあいについてもこう説いている。
家族との関係を殊更に絶つ必要はない。ある日突然連絡を絶つことは、よほどの事情がない限りはやめた方が良い。逆にそのことにより身動きが取れなくなる場合も起こりうる。
家族を抱き込むか関係を断つという二者択一はする必要がない。普通の家族関係があれば良い。
友人についても同様で、自分の真の姿を見せてはならず、それに全くタッチしない関係でなければならない。

寧ろ「合法的左翼」と付き合うなと謂っていて、原則付き合いは厳禁、口も知りも軽すぎて全く信用できない代表とすら謂っている。

同じく、マスコミ・トップ屋との関係も一切合財辞めるべきだと謂っている。
更にこまごまとした注意で、酒は飲むなとか、喫茶店は特定の店を使用するなだとか、喫茶店で長時間左翼系出版物を裸で携行し、ノート広げて学生活動家得意の用語を駆使して口角泡を飛ばすのに出くわすがあれはみっともないし絶対にまずいので我々はそれをタブーとしなければならないだとか書いている。
また、居室で作業を行う場合は、深夜まで音をたてないように注意すべきだとか、健康の維持を心掛けよとか、そう謂ったところまで書いている。

一読すると、これを書いた人物は現実主義と理想主義が入り混じっているなあ、と、思う。
更に特徴的だなと感じたのは、今までの赤軍系(連合赤軍とか)は、日雇い労働者のことを「ルンペン・プロレタリアート」とか言って割と蔑視していたんだが、彼等は日雇い労働者を「仲間」扱いし、更に労働争議も、学生運動もさらっと全否定。しかし、ルンペン・プロレタリアートっていつ聴いても凄い言葉だな…。
更に謂えば、彼等がお題目のように掲げている「革命」もあまり出て来ない。そのあたりが、彼等が学生運動等々とは一線を画しているなと思える所以なわけで…、多分そう謂う思考に至った理由はこれだろうな、と謂うのはあるにはあるんだがこれは後に譲るとして…。

そして、この本のヤバイ所は、思想だけではなくある危険で危ないことを指南している。それは「爆弾のつくり方」
「中学生程度の化学的知識があれば誰でも作れる」と、ご丁寧に図解付きで説明しており、材料の入手方法まできちんと指南している。(夏季の農村部に行けば、大量に購入しても怪しまれないとかどうとか…。)
あ、今は腹腹時計で解説されているように、一般のホームセンターで買うことが出来るような材料で爆弾は作れませんよ、念のため……。

そして、かゆいところまで手が届くこのゲリラ教本。それでも欠点はあった。唯一にして最大の欠点が。
「物的証拠を始末せよ」
この一言がどこにも記載されていなかったことだとされている。実際家宅捜索された彼らの家には、床下の爆弾工場、犯行声明に使われた和文タイプライターをはじめとする証拠品が出るわ出るわ…。
彼等の行いの動かぬ証拠になったんである。


この本を記したのは東アジア反日武装戦線”狼”。
思想、生活等の指南を記したのは大道寺将司。爆弾制作等の技術を記したのは、大道寺あや子、片岡利明であるとされる。

この、東アジア反日武装戦線が行った数々の爆破事件、そして、彼等が為そうとした戦慄するような計画を、順に紐解いていこうと思う。




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