節穴
薬学生になる前から、ずっと母に言われていたことがある。
「手の爪だけはきちんとね、母さんがマニキュアしてて あなた達のご飯に爪が入ったら嫌でしょ?」
たしかに嫌だ。というか、爪や爪に類似したものは、とにかく固い。万が一でも誰かの口に入れば、命に別状はなくとも怪我させかねない。
また薬学生では毎日爪の検査がある時期もあった。伸びていないか、マニキュアをしていないか。その環境もあって、私は爪が危ないものだと認識している。
そう思っていたし、今でもそう思っている。
私は前回も話したように、タトゥーシールやペディキュアのような可愛いものが大好きだ。可愛いだけではなく、それらには心を躍らせ人を元気づける何かがある。
けれどマニキュアだけは、可愛いという気持ちと共に、なぜか「するものではない、遠い存在」のように感じてしまう。
正直マニキュアの耐性やその良さについて知り尽くしてはいないので、大層大柄な物言いなのかもしれない。マニキュアにも人を輝かせる力がある。
だが、なぜペディキュアではダメなのだろう。
なぜタトゥーシールではダメなのだろう。
なぜネックレスではダメなのだろう。
なぜ腕飾りではダメなのだろう。
なぜカラコンではダメなのだろう。
なぜメイクではダメなのだろう。
なぜヘアカラーではダメなのだろう。
なぜ服ではダメなのだろう。
なぜ靴ではダメなのだろう。
だれかに危険があるものを敢えて選択しても尚、マニキュアをしたい彼女たちの熱い思いを、私は何年も理解することが出来ない。
ー私の目は、私の頭は、節穴なのだろうか。ー
マニキュアを見て 目をキラキラと輝かせる彼女たちを、そっと眺めたい今日だった。