社会人一年目。 表向きが馴染みやすく明るいキャラに対して、新しい環境に馴染むのが不得意で、毎日帰宅して靴を履いたまま玄関で数時間眠ってた。 仕事も家事も上手くいかなくて、毎日床に置いてある「今日も畳めなかった、紫のワンピース」を眺めながら、明日はもう少しいい日になればと願っていた。 新しい環境、新しい生活、慣れるだけで命を削ってしまう、それが私だった。 そんな私に母がしてくれることは「毎日必ず電話する」という掟だった。 その毎日の電話が、愚痴を聞いて、相談に乗ってく
冷たい足先で、温かい座席に座って、最寄り駅の名前が聞こえるのを待つ。 私の母は時限爆弾で、切ってはいけない線、踏んではいけなかったスイッチを押すと、命を狙って爆発する。 小さな時限爆弾なら、ほんの少し避けたら当たらなかっただろう。 もう少し時間差があれば、逃げる時間があっただろう。 爆発の方向が向こうだったら、深手を負うこともないだろう。 私の母が時限爆弾になったのがいつからなのか、思い出せない。 でも時限爆弾じゃなかった、叱ることもあっても心の底は温かくて、そん
道を歩いている時、私がよそ見して遅れてたら、ちょっと立ち止まって待っていてほしい。 お風呂上がりに髪が濡れてて、乾かすのに時間がかかるから、先に寝ずにちょっとだけ待っていてほしい。 ご飯を食べに行って、お互いに好きなものがあったら、ちょっとだけ交換してみたい。 怖いこと、辛いことを頑張った時には、ほんのちょっと褒めてほしい。 何の気なしに目が合ったら、ちょっとだけ笑ってほしい。 悲しいことがあって涙が止まらない時は、ちょっとだけ頭を撫でてほしい。 嫌なことがあって
最近、残業多いよね。23時くらいまでに働いてたりするからさ〜… 「そうなんよね、終わったら頭ぼーっとするからさ、運転気をつけよって思うんよ。」 いや、ほんとにそれ気をつけてほしい。怖いわ。 大丈夫?あ、あと特にご飯とか、夜ご飯はあたしのがあるけど、朝とかお昼とか、栄養あるもの食べれてる? 「いやそれがさ、今日ずーっとコンビニ弁当で。君に作ってもらったご飯、昨日で食べきっちゃって笑」 そっか〜、今日は野菜ジュースとか、それだけでもいいから夜食べるのはどう? 「それあ
小さい頃、おじいちゃん家で暮らしてた時。白い輪っかで二重の電気の中心に、オレンジ色の小さな電球が付いていて、寝る時にはそれを付けて眠っていた。 暗い所がもともと怖くて、真っ暗だと色んな不安なことが大きくなって、目をつぶっているといつもよりもいろんな音が聞こえて、不安が大きくなる子供だった。 そんな時、おじいちゃんやおばあちゃんやお母さんが、必ず横に寝ていて、手を握って頭を撫でてくれていた。 そうすると手から温かいエネルギーみたいなものが伝わってきて、それが何なのか考えて
私は幸せを長く感じることが出来ない。 溢れかえる愛をもらって、それを貯めて少しずつ使い、次の愛をもらう時まで残しておくことが出来ない。 もらった愛を数日握りしめて、気づいた頃には使い果たしてしまっている。 愛を確認する方法はたくさんあるだろう。だが私の思いつく、私が満足するほど強力な愛の確認方法は、一瞬の愛を求める代わりに、永遠の愛を壊すものだ。 ストレスが大きかったり、大切な人に会えなかったり、好きな場所に行けなかったり、いろんなものが積み重なっている今、私が「愛を
私が私であるままで、私を受け入れてくれる人達がいることを、人間30年目を目前にようやく実感し始めている今日この頃。 私が愛して止まなかったはずの家族とは、離れているのに寂しささえ感じず、むしろ自由に息が出来ることに喜びさえ感じている現実に、後ろめたさが隠しきれない。 私の愛というものは、所詮その程度なのかもしれないと疑うのも無理はない。 そんな不安定な自分の愛を信じきれないまま、私は半年前に偶然出逢えたパートナーのことを愛してやまないようなのだ。 彼が安眠できるよう寝
私がよく行くコンビニは、夜遅くに必ず決まった男の人がレジにいる。 一見ぶっきらぼうに見える中国の人。 背が高くて、声は高くて、たくさんのことはまだ知らない。 けれど彼がお会計をしてくれる時、残業で残り僅かな力で袋詰めしている私を、そっといつも手伝ってくれることは知っている。 疲労で袋を出すのすら忘れて立ち尽くしていると、「袋あるなら詰めます?」と一生懸命話しかけてくれる。 とても優しくて温かいな。 「残業お疲れ様」 「今日も頑張ったね」 「ゆっくり休んでね」
いつまでたっても、酷く子供な自分が久々に嫌になった。 取引先の企業の担当者からの、まさに「ポンコツ」なメールと電話がここ数日続いている。 ただのポンコツなら、まだいいのだ。自分もポンコツな場面はある為、「この分野に関しては無知なんだな。」そう思う以外何も感じないからだ。 だが、この「ポンコツ」は一味違う。ポンコツなことを認識していないどころか、自分の無知さを相手のせいにするタイプのポンコツだ。 ポンコツの上司に事情を電話で話した時に、上司は一言「……あいつは何をやって
いつもの通勤路、いつもの風景、なのにいつもとは違うものが今日はあった。 目に入った途端、それが何なのか認識できていない、コンマ数秒で、重い何かに呑まれて目が離せなくなった。 「何なのだろう、この空気は。なんて重くて苦しいんだ。」 重さの正体は、正直分からなかった。 生まれて初めて、全焼した家を見た。 骨組みが丸見えで、ほぼ形を留めない壁や屋根は黒く焦げ、あらゆる物が壊れそうに揺らめいている。 焦げ落ちた真っ黒な床に、艶やかな献花達が静かに座っている。 何十年もか
君のこと、初めは「いい人なんだろうな。」 そんなくらいにしか思わなかった。 よくある、周りのあの人たちと、何も違わない綺麗な部分を見ているんだろうなと。 ある時私は何故か気分が良くて、他の人にはしないことを君にしたんだよね。 大きな鈴蘭のカラータトゥーを足に付けている写真を送った。 もちろんそれは擦ると消えるようなもの。だけど馴染みがない人から見れば、「意外と遊んでそうな女」そう見えてもおかしくなかったよね。 君は自分がなんて言ったか、覚えてる? 「足首にタトゥ
世界でたった1人な気がしていた。 頑張ったら褒められて、ただただ嬉しかった幼少期を思い出し、褒められず押さえつけられる毎日に慣れ親しんだ毎日だった。 色は見えるし、音も聞こえるけれど、どこか違う世界の映画を観ているような感覚で、目の前の物事には靄がかかっていた。 「何のために生まれて、何をして喜ぶ?」 アンパンマン、僕もそれが知りたいんだ。 分からないまま終わる、そんなのは嫌なんだ。 そんな日常は、彼が手を繋いでくれただけで、ただそれだけでしゃぼん玉のように弾けて
今月、私の残業時間が伸びてきている。最長記録を更新する勢いだ。 最長と言っても社会人8ヶ月目での話なので、先輩や先輩の先輩方と比べればそんなにはないかもしれない。 しかしながら今月だけで見てしまうと、所属グループでは1位を争うレベル。経費削減と言われている経営戦略に、逆行しているのは間違いない。また残業時間が長い若手は、仕事が出来ないと思われるという噂も、どこかしらで聞いたような気がする。 仕事にあっぷあっぷ溺れながら、今日は上司との面談の日。 お昼ご飯は10分ですま
昔、大阪の「有名な占い師」称されている人に占ってもらったことがある。 その人に言われたことの一つに「貴方は男性からパワーを吸い取る人間だから、男性のいる環境で生きなさい。もし女子の友達をつくる時は、男っぽい要素のある友達の方が貴方はいい。」というものがあった。 これを言われた時、自分が途方もなく男たらしな気がして、あんまり心地よくはなかったが、自分の人生を振り返ってみてストンと納得してしまう不思議な感覚を味わった。 そして、いま。 私の職場は男性が多い。そして勤務して
毎朝早めの電車に乗ったら、更衣室で一緒になって、たわいもない話をしてくれる先輩がいて。 だけど私が最近朝起きられなくて、ずっと1本遅れた電車に乗ってたの。 そしたら昨日その先輩と、帰りのロッカーで一緒になってね。 普段はあんまり自分から話す人ではないから、何話そうかな〜と考えていたら、私の顔みてすぐに一言「どう?ちょっと仕事、落ち着いた?」 確かにここ最近仕事が多くて、なのに新人だから分からないことだらけで、8時や9時によく帰っていた私。 だけど先輩とはグループが違
誰かが選ばれたら、誰かは選ばれない訳で。 誰かを選んだら、誰かを選ばないことしか出来なくて。 何十回、何百回、何千回選ばれながら、数十回、数百回、数千回の選ばれないことに怯えてる。 選ばれる人たちを「おめでとう」と笑顔で祝福しながら、どうしてこんなにも不安に飲まれるのだろう。 だから選んでしまうのは、選ばれることがない場所に留まること。 成長の為に頑張るし、達成の為に努力する。だけどそれは選ぶことであって、選ばれることじゃない。 でも世の中、選び合うこともあるらし