釣果の光はただ下に
ずっと釣りが好きだった。餌、船、バス釣り。いまは南極で魚を探す。
氷が貫通した。下にいる黄金色の魚を回収するためだが、サイドテールの少女が邪魔をする。
「ほーらかわいいでしょ。見てください」と、金七一二トワレが金色の髪を水に落とす。人間がやったら凍傷だがこいつはロボットだ。
「どいてくんない?」
「マスターのためならなんでもしますよん、むん!」
答えになっていない。
トワレはノースリーブで下半身も扇情的だ。視線が合うとニヤニヤしてくるが、俺は釣りにしか関心がない。
彼女は極地用オペレーターとして開発されたが、社長がアニメ技術の受け入れに舵を切ったので、火山や砂漠をニコニコスマイルで踏破する美少女ができあがった。会社の利益はうなぎ登りで、俺みたいな社員でも南極に来られた。
ワカサギ釣りのやり方で、餌を取り付けてそっと糸を垂らす、この瞬間が好きだ。
「ひーまーでーすぅー」
「む」
俺はクンッと手首をしならせ獲物をゲットする。やはり黄金色。俺は魚をケースに詰め込む。
「マスター。下、なにかいます」
地面が揺れる。突き上げられる。転んだ俺をトワレが抱えこみ、氷が割れる一瞬前に跳躍する。
巨大な魚である。体長十メートル以上。色は青と緑の中間。
俺たちと魚の距離は二十メートル。魚の口から舌が発射された。俺を抱きしめるトワレに舌が直撃する直前、何か落ちてきた。
舌は切断され、魚が打ち付けられる。長身の女性が降り立ち、「このまま回収しますか」。
「あなたは?」とトワレが訊ねる。
「わたくし? 名乗るなら、玄八八九カグヤ。あなたより、新型です」
黒髪ロングが振り返り、豊かなスタイルを見せつける。
「そしてマスター様の新アシスタントを務めます。おーっほほほほほほほ!」
話とは裏腹に俺は興奮している。こんなデカい魚が、氷の底にたくさんいる。どれだけ釣れるのだろうか?
【続く/800文字】
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