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FOSS4G NA 2024 参加レポート

はじめに

EukaryaのPM/プラグインチームのShogo Hirasawa(X:@Shogo_Hirasawa)(GitHub:@ShogoHirasawa)です。
2024年9月9日〜11日にアメリカ セントルイスで開催されたFOSS4G NAに参加してきました。

FOSS4Gとは、Free Open Source Software for GeoSpatialの略称で、地理空間情報分野に関する発表や意見交換が行われるカンファレンスです。
FOSS4Gにはグローバルカンファレンスとリージョナルカンファレンスの2種類があり、今回はNA(North America)のリージョナルカンファレンスとして開催されました。

このイベントで、Eukaryaはワークショップの開催と口頭発表を行いました。

本レポートでは、ワークショップ・口頭発表の内容と、参加者からいただいたフィードバックについて紹介します。

ワークショップ

「3D Geospatial Visualization Unleashed: A No-Code Re:Earth Workshop」と題して、Re:Earthの基礎的な使い方のレクチャーを目的とした、3時間のワークショップを行いました。

私たちのワークショップでは、参加者が4名と少人数だったため、講師2名がしっかりサポートでき、非常に効果的に進行できました。
特に、参加者の関心を引いたのは、3Dデータや点群データを簡単に扱える点でした。

FOSS4G NAでも多くのGISツールが紹介されていましたが、ブラウザ上で、しかもGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を使って3Dデータや点群データを扱えるツールはほとんどなく、Re:Earthは先進的なGIS技術としてFOSS4Gコミュニティでも注目を集めました。

ワークショップで用いたRe:Earthの長崎県全域3次元点群データ可視化事例


近年、都市計画・災害シュミレーション・環境アセスメントなど、様々な領域と分野において3Dデータや、点群データといった3次元情報を持つデータへの注目が集まっています。

3次元データを扱うニーズは高まる一方で、3次元データに対応したツール拡充が追いついていないことが度々指摘されています。
特に、研究者や専門家など高度な知識を持つ人が使えるツールはいくつかありますが、GIS業界外の人やエンジニアでない人が使えるツールは、まだごくわずかしかありません。
このギャップを埋めることのできるツールとして、Re:Earthは非常に評価と関心を集めました。

参加者たちはRe:Earthに関する事前知識を持っていなかったにもかかわらず、ワークショップ終了時には3Dデータの可視化をスムーズに行えるようになりました。
出席者全員がRe:Earthの提供するユーザー体験に非常に感動してくださり、運営側としてもやりがいのあるものとなりました。

口頭発表について

あわせて、FOSS4GNAでは、「Re:Earth Visualizes El Niño Floods in South America」と題した30分の口頭発表を行いました。

Eukaryaは南米地域のエルニーニョ現象による災害対策として、ペルーでのRe:Earth展開を進めています。
口頭発表では「Re:Earthがどのように災害対策ツールとして活用できるか」にフォーカスし、説明を行いました。
以下、この口頭発表における内容抜粋を掲載します。

プレゼンテーションの様子

エルニーニョ現象とは

エルニーニョ現象とは、太平洋の赤道付近で海水の温度が通常よりも高くなる自然現象です。
この現象が発生すると大気中の水蒸気が増え、それが雨として降ることで甚大な洪水災害を引き起こします。
エルニーニョ現象に起因する洪水災害は、住宅や農地の浸水・道路や交通の遮断・飲水の汚染など、大きな被害をもたらします。

ペルーでは洪水災害に関して様々な研究や調査が行われており、研究成果・調査報告の多くはPDF形式として公開されています。

しかし、PDF形式の資料は専門的な内容が多く、視覚的に情報を伝える力が弱いため、一般住民にとっては理解しづらいことが課題となっていました。その結果、災害の危険性が効果的に訴求できず、住民の意識向上や防災対策の実施につながりにくい状況が生まれていました。

この問題を解決するために、Eukaryaはペルーの気象局と協業し、Re:Earthを用いて、市民に災害の危険度を周知するためのGISコンテンツを作成しています。
Re:Earthの特徴である3Dデータや時系列データを用いた高度な可視化手法によって、市民が洪水災害の危険性について的確に理解することができるGISコンテンツを作成しました。
さらに、URLで簡単に公開できる機能を使うことで、コンテンツの共有や拡散が容易になり、多くの人に効果的に情報を伝えることが可能になりました。

Re:Earthのもたらす「わかりやすさ」とは


Re:EarthはCZMLというデータフォーマットに対応しており、これを活用することで、時系列に沿った動的な可視化を実現できます。

以下の動画では、「洪水による浸水地域(青いライン)の拡大と、それに伴い避難ルート(赤いライン)がどのように変化するか」を可視化しています。緑の点は、自宅やオフィスといった現在地を、赤い点は避難所を示しています。

ペルーで発生するエルニーニョ現象による洪水災害では、鉄砲水の影響で洪水が面ではなく線状に広がる傾向があります。また、鉄砲水による洪水では急速に浸水地域が拡大するため、迅速な避難が求められます。

このシミュレーションでは、洪水が発生してからどれくらいの時間で避難ルートが断たれるかを可視化しています。
従来のPDF形式の報告書では、市民が災害発生後に適切な避難タイミングを把握することが難しいのが現状です。

しかし、Re:Earthの高度な可視化技術を活用することで、市民が災害発生後の適切な避難タイミングを、直感的かつ体感的に理解できるコンテンツを作成することが可能となります。

CZMLについて:
https://github.com/AnalyticalGraphicsInc/czml-writer/wiki/CZML-Guide
浸水域および避難ルートのシュミレーション

さらに、Re:Earthの特徴は「時系列データを扱える」ことだけではありません。
3Dデータを活用した高度な可視化と分析も大きな特徴です。
3Dデータを使うことで、2Dデータ以上に多くの情報を効果的に伝えることができます。
以下のシミュレーションでは、浸水深の変化を時系列で表現しています。
縦方向の浸水変化を視覚的に示すことで、垂直避難が可能か、またその避難をいつまでに行うべきかを明確に伝えることができます。

従来のPDF形式では伝えきれない立体的な情報も、Re:Earthなら効果的に表現できます。

*本事例はRe:Earthの可視化手法を伝えることに焦点をあてたコンテンツとして作成しており、おおよその浸水深の変化を示しているものとなります。正確な浸水深を表現するものではありません。

PDFは、レイアウトが固定されているため、どのデバイスでも一貫した表示が可能であり、印刷や長期保存に適しています。また、詳細なテキストや図表を含む正式な報告書や資料として、多くの場面で広く使われています。

しかしその一方で、PDFはダウンロードや閲覧の際に時間や手間がかかったり、特にページの多いデータや複雑な内容の場合には、読み手に大きな負担を強いることもあります。

Re:Earthは、こうしたPDFの長所を補完する形で、直感的で動的な可視化を提供します。

Re:Earthは直感的な可視化手法を実現するとともに、コンテンツの公開とアクセスの容易性も特徴の一つに挙げることができます。

時系列データや3Dデータの高度な表現を使うことで、情報がより分かりやすく伝わり、視覚的に理解しやすくなります。
また、Re:Earthで作成したコンテンツは、数クリックでWebに公開でき、専用のURLを使って簡単に共有することが可能です。
これにより、SNSなどを通じて多くの市民に迅速かつ広範囲に情報を届けることができます。

PDFの強みを活かしつつ、Re:Earthならではのメリットを組み合わせることで、より多くの人々に向けて、効果的な情報発信が可能になります。

Re:Earth 公開用URLの作成画面

まとめ

今回、FOSS4G NAに参加し、多くのFOSS4Gコミュニティの皆様と交流する貴重な機会をいただきました。
皆様にRe:Earthの存在をアピールしつつ、率直な意見やアドバイスを頂けたことは、自分にとって非常に重要な経験となりました。
来年のFOSS4G NAでは、さらに進化したRe:Earthをお披露目できるよう、Eukaryaはこれからも邁進してまいります。

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