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ラ・ブリュイエールを読む Leçon 21
2024年12月【応用編】第21課「花を愛でるひと⑤」
引用元:『カラクテール』第13章「流行について」第2節。
彼は今その球根を千エキュでもなかなか譲らないが、やがてチューリップがすたれてカーネーションが全盛ともなれば、ただで人にくれちまうのである。この立派に理性をそなえた・霊魂もある・とにかく信念と信仰とをもった・人間(3)が、おなかをすかせ、へとへとになってご帰邸になる。でも、その日一日に至極ご満悦の様子。何しろチューリップを眺めて来られたんでね(4)。
[… l’oignon de sa tulipe] qu’il ne livrerait pas pour mille écus, et qu’il donnera pour rien quand les tulipes seront négligées et que les œillets auront prévalu. Cet homme raisonnable, qui a une âme, qui a un culte et une religion, revient chez soi fatigué, affamé, mais fort content de sa journée : il a vu des tulipes.
注釈。
(3) 理性と信念は哲学を、霊魂と信仰は宗教を意味する。
(4) 邦訳してしまえばこれっきりであるが、原文においてはすこぶる口調がよく韻律上の妙味がある。例えば…… revient chez soi, | fatigué, || affamé, || mais fort content de sa journée : || と一遍息を切って il a vu des tulipes. と結ぶところ、また前出「それはぼかしで、ふちがあって、切れこみまであるんでね……」のごときも同様な手法で、すなわち é の assonance をもって効果をあげているところ、すなわち…… aussi est-elle nuancée | bordée | huilée | à pièces emportées; || というところ[Leçon 20 の文の冒頭]。
* 辞書によると、assonance とは詩法の用語で「半諧音、アソナンス:連続する2語、あるいは詩の各行末における同一の強勢母音の反復(例:belle と rêve, peindre と cintre)。強勢母音のあとの子音は異なってもよい。子音まで一致させると韻 rime になる」とありました。(ロベール仏和辞典) 該当の文についてラジオ講座では、並行 parallélisme によるテクスト構成上の「妙技」についても紹介しています。
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NHKラジオ第2放送の語学講座「まいにちフランス語 応用編」では2024年10月から2024年12月までの期間、「Art de la parole を学ぶ ラ・ブリュイエールを読む」が開かれました。
ラ・ブリュイエールの文章をテクストに Art de la parole (上手に話す技術)を学んでいくというもの。ここではその著作『カラクテール(人さまざま)』から引用される文章を、岩波文庫版の翻訳(関根秀雄訳)に照らし合わせてみました。
ラ・ブリュイエールの文章が話題にされた貴重な機会に乗じて、祖父の翻訳を紹介している次第です。
ジャン・ド・ラ・ブリュイエール『カラクテール 当世風俗誌』
関根秀雄訳(岩波文庫)
Jean de La Bruyère, Les Caractères de Théophraste traduits du Grec avec les Caractères ou les moeurs de ce siècle, 1688-1694