5.母と推し活とわたし〜後編〜
〜前編〜はこちら↓
ある日、母が
『推しの生まれ故郷の高知に行きたい!!!』
と言い出した。
推しの故郷が高知な事も私は初耳だ。
いわゆる聖地巡礼である。
その日から縁もゆかりも無い高知を調べる日々。
私はちょうどその頃漠然と美しい景色がみたいなぁ…と考えていた。
高知を調べるうちに【仁淀川】という美しい清流がある事を知る。
私も高知に行きたい!!!
その頃は土日祝しっかり休みの仕事に就いていた為、金曜日に有休を取り2泊3日の高知旅行を計画した。
有休届に【母の推し活に付き合う為】とは書かなかったが、理解ある上司には
高知に行くぜよ!!!
宣言をし木曜日は急ピッチで仕事を片付けた。
レンタカーを借り、走り続けること数時間…高知に着く。
聖地巡礼。
推しのタオルを片手に記念撮影する母。
母の推し活は地元の人達も巻き込み、ここに推しが立っていたよ!推しはこれを食べたよ!等、生の情報を得る事が出来た。
生き生きとした母の姿、あぁ高知に来てほんまに良かった…と感じた瞬間だった。
そして、私が行きたかった【仁淀川】
屋形船に乗り遊覧。
美しい…私が今まで見たどの川よりも美しい清流だった。
その後また車を走らせ【にこ淵】という場所に到着。
にこ淵に行くには急な階段を降りなければならない。
腰の悪い母は車に残るわ!と言った。
ここまで来て私だけ行くのも気が引けたが、そそくさと母は推しのYouTubeを見出した。
母にとっては清流よりも推しなのだ。
私は母を車に残してひとりにこ淵に向かった。
階段を降りると木々の隙間から美しい青が見えてきた。
私は今から見るであろうあの景色に心を躍らせた。
確か昼頃だったはずだか、私がたどり着いてからほんの数分間は誰もいなかった。
私とにこ淵だけの空間。
幸せだった。
今まで見た景色の中で何よりも神聖で滝の音が心に染み渡る。
体が浄化される感覚。
不思議だった。涙が出た。
景色を見て泣いたのは後にも先にもこの時だけだ。
にこ淵ありがとう!
何よりここに連れて来てくれた母、母の推しよ!ありがとう!!!
数人の人がやって来て私はにこ淵を後にした。
車に戻り興奮冷めやらぬ中、にこ淵の写真を母に見せる。
『へー!綺麗やね!さ、次行こか!』
余韻に浸る間も無く、私は次の聖地巡礼へ車を走らせた。
母のiPhoneからは推しの曲が流れていた。
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