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十年経っても愛されるタートルトーク! "心が動く"対話の仕組みを紐解く(後編)

前編の記事では、タートル・トークを支える技術について考察してきました。後編では、タートル・トークを支える設計、最後にAIで"心が動く"対話を作るために必要な要素について考えていきます。

タートル・トークを支える設計

タートル・トークには素晴らしい体験設計がなされています。クラッシュの世界観やアドリブ力、対話の演出、体験の構成。その一つ一つが見事に調和し、足を運びたくなる体験価値を生み出しています。以下では、クラッシュ役だった方の発言に基づいて設計を紐解いていこうと思います。

元クラッシュの声優さんによると、タートルトークの声優になるには半年間の研修期間があるそうで、そこで徹底的に受け答えの訓練をするそうです。その受け答えには徹底された応答マニュアルがあり、観客の話す内容がマニュアルのどのカテゴリに該当するのかを即興で選び答えているんだそう。ちなみに、世界観を崩さないよう18禁話やディズニー以外のキャラクタの話はしないよう心掛けているそうです。

1. 世界観: 海の住人の視点からのアドバイス

クラッシュは観客に対して平気で「そんなこと知らねぇよ~」と言います。それはクラッシュが海の世界に暮らし、人間の世界の物事を全く知らないからなのですが、その後「でもさ~、○○だと思うぜぇ~」とウミガメならではの視点で素敵なアドバイスをしてくれます。わからないワードがあると「○○ってなんだ?」と逆質問をするため、観客はクラッシュにもわかる単語で人間ならではの事柄や悩みを説明していくのですが、その過程でちっぽけな悩みのように思える瞬間があったり、一歩外に出るとその物事は当たり前ではないという気付きを与えてくれます。そんな意外性や普遍性がクラッシュとの対話にちりばめられています。

クラッシュには家族や友人、恋人がいて、その点が私たちとの大きな共通点になっています。150歳という年齢もあって、子供や大人に対しても分け隔てないコミュニケーションをするのですが、その肩ひじの張らない対話がどの世代にも笑顔のあふれる体験を生み出します。千原ジュニアさんのすべらない話は、そんなクラッシュの一面が垣間見えるお話を聞くことができます。

2. 体験構成: 二部構成による関係構築

アトラクションが始まった段階はまだ会場は温まっていないため、前半はクラッシュから観客を指名し、名前や住まい、服装などをいじっていきます。そんなアイスブレイクが終わった後は質問コーナーに移っていくのですが、このように観客にも自由に質問する機会を与えることでフラットな関係性の構築が期待できます。一人一人の質問が終わった時の掛け声「最高だぜぇ~」は質問を気持ちよく終わらせる効果がありそうです。そして印象的なのが相手の名前を聞くところ。互いの名前を呼び合うことで二人で話している感覚を強く植えつけます。

余談) 声優さんの横にはアシスタントがおり、観客の名前や特徴、質問に対する回答などをメモしてくれるそう。後半になると、前半に質問した方の話題を出したり急に話を振ったりして、観客同士をも巻き込みながら全員でその場でしか味わえない体験を作り上げています。ChatGPTのような大規模言語モデルでは当たり障りのない発言が多いため、クラッシュの発言は血が通っている心地がします。

3. 対話の演出: ノンバーバルコミュニケーション

タートル•トークでは「きちんと相手を見てしゃべる」が徹底されています。お客さんを当てるときも相手の服装やポーズで当てたり、時折いじることでちゃんと見えているという事を間接的に伝えています。感情豊かな表情もとてもコミカルで、思わずクスっとなってしまう瞬間もあります。

4. アドリブ感: 即興芸の巧妙な演出

声優さんに用意されたマニュアルは話す内容が複数のカテゴリに分かれているそうです。各カテゴリの中はさらにあらゆるバリエーションの質問とその答えが用意されており、観客の質問に応じてその当てはめ問題を解いているようです。時折、完ぺきに相手の求めている答えにならなくても、自分の話を織り交ぜて話したり、無理やり他のキャラクタが出現するようなイベント演出で話を逸らしたりして、想定外の発言をしないような設計がなされています。

対話AIによる自動設計を考えてみる。

ここまでタートル・トークの技術と設計を考察してきました。近年ではChatGPTなどの生成AIの進化により、キャラクターやデジタルヒューマンの対話生成に対する興味が爆発的に広がっています。今回はそんな新たな興奮が渦巻くデジタルエンタメの未来に向けて、タートル・トークから学ぶべきポイントを探ってみましょう。

1. キャラクタの世界観の重要性

キャラクタの世界観構築は、観客の質問を絞り込むとともに観客に気づきを与えるアクセントになっています。タートル・トークのようなキャラクタ独自の世界観を設計することで、少ないシナリオでも柔軟に対応できるでしょう。シナリオを構築する際には、キャラクタらしい言葉遣いを巧みに取り入れ、単なる答えではなく、独自性を演出することが肝要です。ChatGPTを駆使すればシナリオ作りも効率的にできるかもしれません。

2. ノンバーバルコミュニケーション

言語だけでなく、ノンバーバルコミュニケーションも重視すべきです。相手にその場で対話している感覚を与えるためには、目線や体の向きを考慮したアニメーションの仕組みが必須です。カメラと物体認識モデルを活用して、観客の服装や表情を捉え、それを会話のきっかけにするような演出をできると可能性が広がりそうです。

3. キャラクタの動作や表情の選定

生成された文章や発話音声に合った動作や表情をデータベースから選ぶ、もしくは生成する手法により臨場感あふれる体験が可能です。メタバース空間でなければ生成AIを使った動画像表現も選択としては良いですが、高品質な3DCGであれば体験の自由度はより高まるでしょう。エンターテインメント性を重視する場合は、異なる世界観のキャラクタを導入し、観客を新しい冒険に誘うことも一手かもしれません。

これらのアプローチを組み合わせることで、キャラクタやデジタルヒューマンとの対話がより深化し、魅力的なエンタメ体験が構築できるでしょう。未来のデジタルエンタメは、タートル・トークの系譜を継ぎつつ、より進化した形で我々に訪れることでしょう。

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