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地域の在宅医療の実情を知っているからこそ、高齢者受け入れ病床を確保したい!【15】千葉県G病院

この連載は、コロナ専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、現場スタッフの声とともに紹介していくものである。記事一覧はコチラ

株式会社ユカリアでは、全国の病院の経営サポートをしており、コロナ禍では民間病院のコロナ専門病棟開設に取り組んできた。

今回は、千葉県G病院の院長とスタッフ2名に、新型コロナ対応のため病院機能の変更に前向きに取り組んだこと、スタッフ間の連携、患者に寄り添う思いを聞いた。

院長 Y.Iさん|高齢者医療を支える病院機能の役割とは

2021年8月に院内クラスターが発生した後、コロナ専門病棟開設を進めたG病院。だが、院長のY.Iさんは、自院には専門病棟が必要だと以前から感じていたという。

私たちは、地域の特別養護老人ホームやサービス付き高齢者住宅など、高齢者の在宅医療をサポートしています。新型コロナの流行以降、地域内の高齢患者の受け入れ先が少なく、入院ができないまま施設で亡くなれた方もいらっしゃいました。

そうした現状を知りながらも、私たちは、施設内でできる治療しか行えず、悔しいというか残念でならない気持ちでいっぱいでした。

「うちにコロナ病床があれば、助けてあげられたかもしれない」

そう考えながら、うちのような民間病院でコロナ病床の運用が可能なのか、判断できずにいたんです。

「コロナ病床を作りたい」と思っても、具体的に院内のどこをゾーニングして、どう運用すればいいのか、完成予想図を描けずにいました。
ユカリアさんから、当院で開設する場合のロードマップを描いてもらった時に、初めて「うちでもやれる」と思えました。

ユカリアから民間病院でコロナ専門病棟を開設した事例を聞き、自院での運用イメージが具体化した。Y.Iさんはすぐに管理職を集め、コロナ専門病棟開設の意向を伝えた。クラスター収束に奮闘していたスタッフの反応はー。

「コロナ専門病棟を開設しようと思う」とスタッフに伝えた時には、いろいろな反応がありました。150人程のスタッフしかいない病院ですが、150人もスタッフがいる病院とも言えます。好意的な人もいれば、「なんでうちで?」という人もいます。いろいろです。

クラスター収束に尽力してくれた直後にもかかわらず、専門病棟開設に賛同してくれるスタッフがいたおかげで、2021年9月から始められることになりました。

G病院はゾーニングが難しい構造のため、専門病棟を開設できる場所が限られ、院内で最も汎用性のある病棟を利用せざるを得なかった。病院の本来の機能を守りながら、コロナ患者を受け入れられる最善策を模索した。Y.Iさんには、立場上いろいろな思いがめぐった。

コロナ専門病棟を開設すると、一般病床の受け入れが少なくなってしまうことが気がかりでした。

コロナ患者以外にも、救急患者はたくさんいます。専門病棟開設で一般病床の数も少なくなっており、救急を断らざるを得ないこともありました。

本来診療することができた人たちが、診られなくなってしまう。救急受け入れ病床が減少したのは、当院だけではありません。救急ひっ迫が起こる原因は、たしかに新型コロナにあるのかもしれません。

ですが、専門病棟がなければ、施設の高齢者受け入れもできない。専門病棟がない病院で、院内クラスターが発生すれば、突然、全床使えなくなってしまうこともあり得ます。

2022年2月に2回目の院内感染が判明しましたが、陽性患者を全て専門病棟に隔離できたため、非常に短期間で、通常運用に戻すことができました。

院内に専門病棟があると、スタッフも安心して働けます。地域医療のことを考えて専門病棟開設を決めましたが、院内の感染対策強化にも繋がっているのだと感じた経験でした。

「新型コロナの対応に限らず、やるべきことは山盛りある」と話すY.Iさん。感染症の対応に限らず、病院に求められる役割は「この先10年、15年で大きく変わっていく」という。

まず、患者さんの年齢構成が変わります。当院がある地域も、高齢化の勢いが止まりません。そうした状況に合わせて、病院機能をどのように変えていくのか。

当院であれば、在宅医療をより強化して、高齢者医療の受け皿としての役割を果たしていくのだろうと予測しています。病院機能が変われば、スタッフも学び、挑戦することが増えていくかもしれません。

今回、コロナ専門病棟開設の経験を通して、当院には、いろいろなことに挑戦できるスタッフが揃っていたんだなと知ることができました。私にとって、とても心強い発見でした。

10年先も、地域のみなさんを支える病院であれるよう、経営者として情勢を見極めながら、スタッフと共に頑張っていきたいと思います。

事務部長 T.Hさん|スタッフが信頼し挑戦できる病院づくり

2021年9月にコロナ専門病棟の運用が始まった。感染の波は落ち着いていて、保健所や県からの要請はゼロの日が続いた。千葉県は、コロナ病床開設のフェーズを1〜4まで設定しており、G病院ではフェーズ1とする通知を受けた。「フェーズ1では、G病院の確保病床は認めない」という内容だった。

10月20日に「千葉県は感染フェーズ1になった。フェーズ1における確保病床をどうするか未定であったが、協議の結果、G病院では確保病床不要という結論になった」という連絡が突然届いたんです。当然、空床補償なども出ないという通達でした

当院のコロナ専門病棟は、全てのフェーズで病床を確保する計画で申請をして認可を受けていました。それが突然、「フェーズ1の時は作らなくていい」ことになったので、慌てましたね。

院長、看護部長らと協議しましたが、「これはしょうがないよね」となり、10月の下旬に一般病床に戻して、11月、12月は一般病床で稼働しました。

12月下旬ごろから再び感染者数が増加し、感染フェーズが2へ変更された。2022年1月早々、千葉県から「G病院はフェーズ2以上においては病床確保することになっているので、すぐに病床を確保するように」と通達が届く。

急ピッチで入院患者さんの退院や病棟移動などの対応を行い、2週間で再びコロナ専門病棟を整えました。

しかし、「フェーズ2以上となるため、コロナ病床を準備するように」と通達を受けた後、千葉県から「どのフェーズでコロナ病床確保が可能か」といったアンケートが届きました。院内で協議して、「いつでも病床を確保する」と回答しました。それ以降、全てのフェーズでコロナ病床を確保する状態が続いています。

フェーズによってコロナ専門病棟を一般病床に戻したりしていると、専門病棟に集まったスタッフのモチベーションも落ちます。一般病床に戻してしばらくは、入院患者ゼロになるため、病床が埋まるまでの収益のダメージも大きかった。もう少し早めに知らせてくれたら・・・という思いもありました。

フェーズに関わらず専門病棟を運用できるようになってからは、今後の計画も立てやすくなったので少し安心しました。

病棟の変更にも柔軟に対応できたのは、日頃から「まずはやってみよう」という空気作りができているからではないかと話すT.Hさん。

現場の意見をなるべく取り入れるようにしています。どの部署にも「やってみないことには何も始まらないよ」という素地があったから、コロナ専門病棟も開設できたのだと思います。

感染症の経験がないスタッフにとって、専門病棟開設に関わるというのは、大きな挑戦だったと思います。試行錯誤しながら、現場スタッフが運用マニュアルを作り上げてくれました。マニュアル通りに対応すれば、困ることはありません。感染対策も一番しっかりしているためか、専門病棟のスタッフで感染した人はいないんです。

院内で2回目のクラスターが起こった時には、専門病棟のスタッフが迅速に対応して、2週間もかからずに収束しました。とても安心感がありました。

日々頑張るスタッフに対して、事務長として還元できるものは、しっかり還元していきたい。現場を守ってくれているスタッフには、本当に感謝する日々です。

病棟課長 N.Nさん|高齢患者さんを寝たきりにさせない看護を、他部署との連携で実現

クラスター発生時、ゾーニング経験のあるスタッフがおらず、ユカリアの西村さんや近隣病院のスタッフのサポートを受けながら対応した。クラスター収束後、コロナ専門病棟開設の話を聞いたときは、積極的に関わりたいと思ったというN.Nさん。

院内で感染者が確認されて、クラスター発生に至るまでのスピードが想像以上に早く、私たちの感染症に対する知識も経験も浅かったため、対応が後手になってしまったことが悔やまれました。

当院でコロナ専門病棟の開設が決まったのは、第5波が落ち着いたタイミングでしたが、第6波は必ず来ると言われていました。再びクラスターが起こってしまう可能性も、ゼロとは言い切れません。

再び対応が後手になって、病棟がひっ迫する状況は避けたい。コロナ専門病棟開設は、院内の感染対策を強化する機会にもなると考え、積極的に関わることにしました。

また、近隣の高齢者施設で、感染者の受け入れ先がない現状も聞いていました。当院でコロナ患者の受け入れ体制ができれば、安心してもらえるのではないかという思いもありました。

N.Nさんはクラスターが発生した病棟で働いていたスタッフを中心に、専門病棟開設の準備を進めた。病棟運用が始まると、他部門のスタッフも積極的に関わり、病院全体の感染対策の意識も高まった。

近隣でコロナ専門病棟をもつ病院2ヶ所に見学へ行き、運用のイメージを掴むことができました。

快く見学を受け入れてくださっただけでなく、マニュアルも共有してくださいました。それまでは近隣の病院と関わる機会がなかったのですが、心強い協力をいただき、とてもありがたかったですね。

新型コロナに不安を持ったスタッフもいましたが、専門病棟の運用が始まると、徐々に感染症への理解も深まり、専門病棟が忙しい時には誰もが手伝いにきてくれるようになりました。

リハビリ科のスタッフも専門病棟に来て、歩行訓練をして離床を促してくれました。そのおかげで、患者さんが寝たきりにならずに療養期間を終えることができました。

もともと他部門との協力は取っていましたが、より密な連携を取れるようになったのは当院にとって、とてもプラスになります。一般病床の看護にも、こうした経験を活かしていければと考えています。

N.Nさんがコロナ専門病棟の患者さんのケアで、特に意識したことは「大丈夫ですよ」と言わないことだという。患者さんの気持ちに寄り添える言葉を、今も考え続けている。

入院されてくる方は、私たちが考えるよりも強く「自分は感染者」という怖さを抱えていました。入院期間中も「退院後に家族にうつすのではないか」と、心配される方も少なくありません。

「感染しませんよ」とは言い切れないので、どんな言葉をかけるのか、スタッフ間でも話をしました。「大丈夫」という言葉は使わないことにしたのですが、退院される際の説明に、まだまだ難しさを感じています。

コロナ患者さんに対して、そうした気持ちのケアも必要なんだと、専門病棟に入って初めて知りました。今でも、どのような言葉をかけるのか、模索しています。

コロナ専門病棟の経験と知識を、院内で共有していきたいと考えている。専門病棟もいつかは、一般病床に戻ることも視野に、業務にあたっている。

コロナ専門病棟が役割を終えた後、どのような病棟にしていくのかは、まだわかりません。

感染症としてどのような対応が続くのか、インフルエンザのような感染症になるのか。国の判断を気にかけながらも、今やるべき看護と向き合っていこうと思います。

新しい病棟を立ち上げた経験や、他部門との協力体制を活かした病院作りを、みんなで話し合っていけたらいいですね。

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次回は、院長の発案から、病院の半分を使ったコロナ専門病棟の開設を決めた、埼玉県のH病院を紹介します。

編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)/イラスト・こしのりょう