心不全治療医のリアルな治療選択を引き出すマーケットリサーチ手法
株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。
5月30日に開催した弊社イベント、シンポジウム「心不全治療実態把握の最新アプローチ」の中で、株式会社 社会情報サービス 池田 俊介様にご講演いただいた内容をお届けします。
①株式会社ユカリアとの共同調査プロジェクトの経緯
株式会社 社会情報サービスの池田です。
弊社は、40年以上にわたって医薬・ヘルスケア領域を専門としたリサーチ・コンサルティングを行っている会社です。
リサーチを軸に、社内外の各種リソース・データソースを活用し、インサイトを導き出すための最適なアプローチを追求しています。
医師や患者の行動変容を促す戦略の立案には、彼らの思考や行動の深層を追求する「インサイトワーク」が重要です。また、インサイトワークの中核となる調査の一つとして、プライマリリサーチがあります。
今回、当社の持つプライマリリサーチのノウハウに、株式会社ユカリアの持つ電子カルテデータベースを掛け合わせた、新しい市場分析モデルの共同開発をトライアルとして行うことになりました。
②調査の概要と手法
調査設計の概要は、以下の通りです。
病床数100床以上の施設に勤務し、直近1ヶ月で慢性心不全患者10人以上を経口薬物療法で治療している、計132名の心不全治療医に処方意向の質問を行っています。
その際、同じ医師に対して
標準型設問
実症例ベース設問
という2種類の異なる方法で患者情報を提示し、それによる回答の差異を分析しているのが、今回の調査の大きな特徴です。
標準型設問
まず、標準型設問とは、患者をいくつかの集団に分類し、そのタイプごとの治療選択を質問するという手法です。
今回の場合、「CKD合併の有無(あり・なし)」×「LVEF分類(HFrEF・HFmrEF・HFpEF)」の計6分類別に、次の治療選択を質問しています。
実症例ベース設問
一方、実症例ベース設問とは、ユカリア社の電子カルテデータベースから作成した詳細な症例情報を提示し、それに対する治療選択を質問するという手法です。
実際に「実症例ベース設問」で使用した症例2つをお見せします。
1症例目はこちらです。
患者基本情報や検査値・処方の推移だけでなく、医師所見や看護記録といった「定性テキストデータ」から読み取れる情報まで盛り込んでおり、患者の背景や、診察を行った医師の判断が分かるようになっています。
症例2も同様です。
こうして「標準型設問」「実症例ベース設問」という2種類の聞き方で同じ医師に質問をしたところ、非常に興味深い結果となりました。
③結果と今後の可能性
回答した医師の約9割が、設問の方式を変えたことにより、異なる治療選択を行ったのです。
症例1に関する結果
具体的には、CKD合併なし・HFmrEFの症例1の場合、
薬剤選択については、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の選定において大きな変化がありました。
異なる選択をした主な理由は、検査値の推移、合併症の状況、治療経過から予想される現在の処方薬の効果、の3点でした。
また、合併症の状況に注目している医師が多いことも分かりました。
更に具体的な症例情報内の注目箇所としては、「腎機能低下」「利尿薬併用でも効果不十分」「血圧上昇」「症状が悪化」「浮腫」といったポイントが挙げられました。
また、専門性の高い医師ほど、設問の方式によって回答が変化する傾向が見られました。
症例2に関する結果
CKD合併なし・HFrEFの症例2においては、薬剤選択ではMRAとバソプレシンの割合が大きく変化しました。
異なる回答をした理由としては、症例1では4位だった、過去の処方薬の効果が1位となりました。以下、検査値の推移、治療経過から予想される現在の処方薬の効果、と続きます。
注目した情報としては、これまでの治療経過が圧倒的に多い結果となりました。
具体的な注目箇所は、「EF低下」「利尿薬投与でも効果が不十分」「繰り返し心不全増悪」「血圧が低め」「症状が悪化」といった箇所です。
この症例では、これまでの治療経過がうまくいっていないことが極めて具体的に示されたことで、医師の判断に大きく影響を与えているようです。
また、症例1と同様、専門性の高い医師ほど設問方式によって回答が変わる傾向が見られました。
まとめと今後の可能性
今回のトライアル調査で分かったように、「標準型設問」と呼んでいるこれまでの手法に加えて、「実症例ベース設問」を活用することで、インサイトワークの可能性は大きく広がります。
両者の特性を活かし、組み合わせることで、これまでにない様々な調査のパターンが考えられます。これからもトライアルによって可能性を検討していきたいと思います。
ユカリアでは、
独自の電子カルテデータベースと専門家(医療従事者・アカデミア)ネットワークを強みとした、製薬企業様のマーケティング・営業活動をご支援する調査・コンサルティングを行っています。
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株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部
お問合せ窓口:pharma.biz@eucalia.jp
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