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心不全治療の臨床現場における処方の実態 ~理想と現実のギャップ~

株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。

全3回シリーズでお届けする順天堂大学 末永先生のご講演内容の第2回です。

前回は、国内における心不全患者数の多さ、一般的なイメージよりも実は死亡率や再入院率が高い疾患であること、治療法の進化などについてお話しいただきました。

Part1の記事はこちら↓↓↓

今回ご紹介するのは、エビデンスに裏打ちされた効果的な治療法が実際の臨床現場には十分に定着していないという現状と、それに対する危機感についてお話されているパートです。
以下、末永先生を主語とした、話し言葉に近い形で記載しております。


①臨床現場では、患者さんに必要な薬剤が十分に投与されていない

アカデミアは、新しい心不全の治療薬の処方が患者さんの死亡率を低下するということをエビデンスをもって示してきました。

しかし、それが実際の患者さんの元に届いていないということが非常に大きな問題となっています。

この問題は日本のみならず、海外でも共通したものです。
例えばアメリカは、この問題にかなりアグレッシブに取り組んできた国です。

アメリカでは、医療のシステム上、もし退院後30日以内に心不全で再入院を起こした場合、病院への報酬の支払いがカットされる仕組みになっています。
それだけ、病院のガイドラインの遵守率、実際のデータ、予後に対して国が積極的に関与しており、医療のクオリティを上げようとしているということです。

しかし、それでも以下の研究結果のように、処方の実装率は十分とはいえません。

クラス1の薬剤であるARBやARNIの必要な患者さんへの実装率は、7割強しかありません。
β遮断薬は7割以下、MRAに至っては3分の1未満です。

こちらの別の調査の結果でも、β遮断薬は8割弱、ACE阻害薬/ARBは8割強、MRAは5割弱です。

先程の調査よりも数字が良く見えますが、それは対象としている患者さんの属性の違いによるところがあります。

このレジストリに入っているのは、一度以上、心不全が増悪し入院したことがある患者さんだけです。そのため、実装率はこれでもまだ高いとは言えないと考えています。

②必要な薬剤を確りと投与された患者さんの予後は良くなっている

一方で、私が参加している以下の研究のデータを見ても、ガイドラインに沿った必要な薬をしっかりと投与されている患者さんは予後が良くなっていることが分かります。

LVEF(左室駆出率)が40%以下のHFrEFの患者さんを対象に、入院中の死亡者や特殊な例を除いたうえで、退院時の処方状況から患者さんを3つの群に分類し、それぞれの予後の変化を比較しています。

1.Both群
 ACE阻害薬/ARB、β遮断薬をどちらも処方している
2.Either群
 ACE阻害薬/ARB、β遮断薬をどちらか処方している
3.None群
 ACE阻害薬/ARB、β遮断薬をどちらも処方していない

その結果、退院時にACE阻害薬/ARB、β遮断薬をどちらも処方している「Both群」が最も死亡率が低く、以降、Either群、None群の順となりました。

今後も、こういった情報を使いながら日本の患者さんの治療実態を明らかにするとともに、治療を良くしていくことが私のテーマの1つになっています。

では、全国の心不全の患者さんに良い治療を届けるとしたら、その患者さんは実際どのような病院で治療を受けていることが多いのでしょうか・・・?

次はそのようなお話をしたいと思います。

次回 Part3 心不全処方データの偏在 中小病院における心不全薬処方の状況 へ続く


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