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「整形外科だから関係ない」なんて、言っていられない!【17】埼玉県H病院

この連載は、コロナ専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、現場スタッフの声とともに紹介していくものである。記事一覧はコチラ

株式会社ユカリアでは、全国の病院の経営サポートをしており、コロナ禍では民間病院のコロナ専門病棟開設に取り組んできた。

埼玉県のH病院は、「整形外科病院でもできる限りの医療貢献をする」という強い信念のもと、コロナ専門病棟を運用している。専門病棟の開設を決めた理事長と、専門病棟開設に尽力し、運用を担当している看護部長に話を聞いた。

理事長 K.Aさん|やるべきことは医療貢献

「うちは整形外科だから無理だ、なんて言っていられない」。あるクリニックの医師がコロナ患者の治療に孤軍奮闘する姿を見て、K.Aさんの心が動かされた。

建物の構造上ゾーニングも難しく、コロナ患者の受け入れは無理だと思っていました。
だけど、年配の医師が孤軍奮闘する姿をニュースで見た時に、そんなことを言っている場合じゃない。1床でも2床でも、うちでできるならやらなければと思ったんですよね。

場合によっては、病院全部をコロナ病棟にするくらいの覚悟でした。

そのくらいじゃないと医療貢献はできないと思ったんです。

検討の結果、3階をゾーニングすれば17床確保が可能とわかった。「それなら、すぐにやろう」と決めた。突然のコロナ専門病棟開設に、誰一人、反対する人はいなかった。スタッフのことを心配するK.Aさんに、「やりましょう」と応えるスタッフ。H病院の組織力が伝わってくる。

なんの前触れもなく、「コロナ専門病棟をやろうと思う」と伝えたので、相当反対があるだろうと覚悟したんです。僕の思い入れのみで決めましたからね。

だけど、「やりましょう」と後押しする声ばかりだった。本当に嬉しかったです。

外来の師長から、少し不安があると声があがったので、「専門病棟を担当する必要はないから」と伝えたんですよ。そうしたら「院長もみんなも専門病棟開設を頑張ろうとしている時に、外来は関わらなくていいなんて言わないでください。私たちもできる限り協力したいんです」って怒られました。

普段から、僕に対しても、病院に対しても、思うことがあれば、忌憚のない意見を言ってくれる人たちばかりです。匿名で出せる意見箱を用意していますが、いままで匿名で届いたことがありません。誰もが「自分の意見」として、僕に伝えてくれます。

僕も、一つひとつの意見に、顔を思い浮かべながら回答します。清掃スタッフも「院長、ここは改善したほうがいいですよ」と、いつでも声をかけてくれるような雰囲気の病院なんです。

意見が言いやすい土壌はできている自信はありました。だからこそ、反対の声が上がらなかったことに、とても勇気をもらえたような、安心したような。そんな気持ちでいっぱいでした。

日頃からスタッフとのコミュニケーションは密にとっている。スタッフのスキル向上にも協力を惜しまない。いつでも、どんなことでも、チャレンジしてほしいと伝えている。

H病院のために力を尽くしてくれるスタッフには、とてもありがたく思う一方で、いつでも次のステップへ進んでいってほしいと思っています。

もちろん、うちにいる間に、資格取得や研修など、挑戦したいことがあれば最大限サポートします。その上で、もっと専門資格を活かせる病院に行きたい、もっと専門的な領域に携わりたいと思ったら、迷わず自分のために選択をしてほしいと、日頃から伝えています。

次の挑戦へ進んだり、他の病院に移ったりしたときに、「あなたすごくいい仕事をするのね。前はどこで?」と聞かれるくらいに、うちで力を付けてくれていたら、嬉しいですね。

スタッフが一丸となり始まったコロナ専門病棟。その運用はいつまで続くのか、はっきりと見通しは立っていない。行政と連携を取り、社会状況を見ながら判断し、スタッフと共にどのような挑戦をしていくのか。

「コロナ患者を受け入れよう」と決めた時には、採算がとれるかどうかこれっぽちも頭をよぎらなかったんですよね。
立場的には、収益のことをまず考えてから、判断するべきだったのでしょうが、「医療従事者として何をするべきか」「病院として何をするべきか」。それしか考えていなかった。

後々、思いもよらなかった額の補助金をもらえると知り、驚きました。まずは、頑張るスタッフに最大限還元することを決めました。そのあとで、H病院をさらに前に進めるために、最も効果的な使い道を考えていきたいと思っています。

僕が理事長に就任して5年。当院には、一流の医師が在籍し、非常に多くの紹介患者を受け入れています。「整形といえばH病院」と、頼りにされる専門病院になってきています。

コロナ専門病棟を開設して、感染対策の意識も高まりました。新型コロナにかかわらず、感染症から患者さんやスタッフを守るうえで、良い経験を積むこともできました。現在は少し、手術や入院を制限していますが、コロナ患者の受け入れ以外にも、私たちにはやるべき治療がたくさんあります。

専門病棟の運用が終わったとしても、「元の状態の病院に戻す」のではなく、スタッフと共により良い病院を目指して、挑戦を続けていきたいと思います。

看護部長 K.Mさん|専門病棟を2週間で整えた。高難易度のミッションをクリアできたのは?

整形病院であり、導線管理も難しい建物だったから、コロナ患者の受け入れは無理だと院内の誰もが思っていた。ところが、2021年9月。理事長から「うちでコロナ病棟をやろう」と言われ、K.Mさんたちは動き出した。

「うちで?」と思いました。
またいつもの冗談かと思いましたが、話を聞くうちに、理事長はワンフロアをゾーニングし、本気でコロナ患者の受け入れをしようとしているのだとわかりました。

しかし、コロナ専門病棟で働くスタッフが集まるか・・・。それが気がかりでした。

「スタッフが集まらなかったら、開設は諦めよう」と話していましたが、運用に必要なスタッフが、院内募集開始後わずか3日間で集まったのです。

スタッフさえ集まれば、どうにかなるのがうちの病院の強さです。実際、急ピッチで準備は進んで、入院患者の移動、病棟のレイアウト変更、運用マニュアルの作成、感染対策教育など、開設に関わる全ての申請を、決定後2週間で完了させることができました。

感染対策の経験はあっても、ワンフロアをゾーニングするのは、誰もが初めてだった。難易度の高いミッションに、他部署のスタッフも一緒に取り組んだ。スタッフはどんな気持ちで、準備に取り組んでいたのだろうか。

スタッフたちには、新型コロナの対応に全国の医療施設が疲れ果てているのに、自分たちは「整形外科だから」といって、何も対応しなくていいのか・・・というもどかしさがあったようです。

何かしら手伝えることはないかと思っていたときに、当院でコロナ専門病棟の開設が決まって、「やろう」と手をあげたと聞きました。医療従事者として貢献したい気持ちがあったのだと思います。

「やろう」となった時の、スタッフの対応力も高いからこそ、やりきれたように思います。これまでに、病院の方向転換による医師の入れ替えで転科し、未経験の診療科を一から学んできた過去があったことも、活かせたのかもしれません。

対応力のあるスタッフがいたからこそ、難易度の高いミッションもクリアできました。そんな仲間がいるのは、非常に心強いなと改めて実感しています。

K.Mさんは調整本部からの問い合わせをベッドコントローラーとして、昼夜・休日問わず連絡を受けている。ハードなこともあるが、スタッフに過剰なストレスをかけないことに、注力したいと話す。

病床稼働率や介護度を判断しながら、患者さんの受け入れを調整しなければなりません。各勤務帯のスタッフに判断を任せると、余計なストレスをかけてしまうこともあります。

万が一、当院では治療が難しい患者さんを受け入れた場合、責任の所在もあいまいになってしまう。それならば、全て自分が責任を持ってコントロールしていこうと決めて、約1年対応してきました。

今回、コロナ専門病棟開設したことで、一人ひとりの感染対策の意識が強くなった。院内全体の意識が高まった。緊張や責任を感じながら、コロナ対応の最前線に立つスタッフはー。

専門病棟の開設が決まると、患者さんの受け入れ方法や感染対策について、看護部以外からもたくさんの質問がありました。朝礼などで周知したりしながら、病院全体の理解を高めていきました。

「コロナ患者を受け入れる病院」という意識が、スタッフの感染対策の意識をより強くしました。当院でもスタッフの感染や、濃厚接触者に該当するケースもありましたが、院内クラスターは一度も発生していません。病院全体の意識が高くなった成果だと思います。

当院のコロナ病棟は、第6波、第7波の経験しかありませんが、最近では高齢者や寝たきりの患者さんの受け入れ要請が増えています。限られた人数のスタッフで要介護者のケアをするのはとても大変ですし、ベッドコントロールの判断も難しい状況もありました。

スタッフも勤務時間内に帰れず、疲れが見える時期もあり、「レッドゾーンに入って、寝たきりの患者さんを少ないスタッフで管理するとは、こういうことなんだ」と、しみじみ感じました。

それでも、ただ見ている側から、最前線に立つ充実感もあったのか、しっかり乗りきってくれました。

「少しでも患者さんを助けたい」。その強い気持ちが現場を支え「この波を乗り切ろう」と考え、動いてくれるスタッフ。「さらに頼もしい存在になった」とK.Mさんは話す。

レッドゾーン内は基本2人体制で回しています。ときどき、2人で看られるキャパを超える受け入れ要請もありますが、みんな、「ここを踏んばろう」と対応してくれるようになりました。スタッフには、根性がつきましたね。

また、いまは、看護師だけしかレッドゾーンに入れないので、掃除も、オムツ交換も、食事介助も、全て自分たちだけでやらなければなりません。そうした環境で働いて、改めて、看護補助者や清掃スタッフの方々のありがたみを知ったと、誰もが言います。

他職種との連携、協力体制の重要性を実感できたのは、看護師として大きな経験になると思います。

コロナ専門病棟を閉じた後も、サポートしてくださる方たちへの感謝を忘れず、頑張っていってくれたら嬉しいですね。

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次回は、クラスター発生時に支えてもらった恩を返したいと、精神科病院の中にコロナ専門病棟開設をした北海道I病院と、アフターコロナを見据えながら、コロナ患者受け入れを決めた群馬県J病院を紹介します。

編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)/イラスト・こしのりょう