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【本屋大賞】成瀬は天下を取りにいく』を読了して

きっかけ

本作を読むきっかけは、ボブヘアの女の子が西武ライオンズのユニフォームを着た印象的な表紙に惹かれたことだ。しかし、それだけでなく、帯を含む表紙の情報や「なぜライオンズのユニフォームを着ているのか?」という謎めいた要素に興味を持ち、手に取るに至った。

成瀬あかりの生態

本作は、一見すると成瀬の圧倒的な個性と超人的なスキルに目を奪われがちだが、実際には彼女と幼馴染・島崎を中心とした青春小説である。その色が最も濃く表れているのが、最終章「ときめき江州温度」だ。島崎家の突然の引っ越しを知った成瀬は動揺を隠せず、日常生活に支障をきたす。私は、当初の成瀬を「感情をあまり持たない人物」と認識していた。突飛な目標を掲げ、その達成こそが最優先事項であり、周囲を半ば強引に巻き込んでいく。その姿勢は『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒに似た、ミッションドリブンなヒロイン像と重なった。また、「レッツゴーミシガン」での「恋愛は人生の後半に取っておきたい」という発言からも、非合理的な感情に振り回されることを避ける性格だと感じていた。 しかし、最終章の成瀬は「年相応の女の子」だった。

高校デビューに浮かれる周囲を尻目に、自らの髪の成長速度を確かめるために坊主にするような成瀬とは違い、島崎の引っ越しに動揺し、勉強やルーチンワークにも支障をきたしてしまう。いつも冷静で合理的な成瀬でさえ、島崎の引っ越しとゼゼカラの解散という無関係な出来事に因果を見出してしまい、混乱する。この描写は、彼女のハイスペックな能力や強い目標志向の裏に、実は普通の少女らしい感情があることを浮き彫りにしていた。

この変化を通じて、島崎は単なる傍観者ではなく、成瀬あかり史のキーマンだったことが示唆される。同様に、成瀬自身も島崎の存在によって無数の挑戦が可能になっていたと考えられる。本作は、成瀬の挑戦心や圧倒的な行動力を描きつつ、その根底にある友情の尊さを丁寧に描いた物語だといえる。

誰かの挑戦の背後には、支えてくれる存在がいる。本作は、その普遍的な事実を成瀬と島崎の関係を通じて示している。自分の周りの人々との関係を見つめ直すきっかけをくれる、印象深い作品だった。

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