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新刊『母をさがす ー GIベビー、ベルさんの戦後』

2月24日(土)、いよいよベルさんの本『母をさがす ー GIベビー、ベルさんの戦後』が世に出た。

その一週間前、わたしはベルさんの家にいた。クラウドファンディングのプロジェクト『戦争の落とし子【GIベビー】のベルさんを、アメリカで見つかった肉親に会わせたい。』で支援してくださった方への返礼品「サイン本」を作るためである。

カバーデザインは、矢萩多聞さん

できたてほやほやの15冊を持って、亜紀書房の担当編集者もやって来た。重たい本と一緒に、ケーキまで用意して。ベルさんはビールとワイン赤白を一本ずつ、冷蔵庫に冷やして待っていてくれた。わたしはつまみ担当で、近所でお惣菜を買って持ってきた。サインを書き終えたら、お祝いパーティだ。

酔っ払ってしまう前にと、ビールで軽く喉を潤してからサインにとりかかった。まずはベルさんが所定の位置に「堤麗子」と書き、隣にわたしが「岡部えつ」と書く。それに加え、わたしはお礼の言葉を一筆箋にしたためて挟んだ。

ベルさんの家にて

『母をさがす ー GIベビー、ベルさんの戦後』については、とっかかりからnoteに記事を書いていたので、ずっと追ってくださっていた方もいると思う。あれからわたしはベルさんのお母さんをさがし出し、彼女の肉親に辿り着くことができた。そして彼らとベルさんとの面会を実現させるため、クラウドファンディングで皆さんの支援を募った。おかげさまで二人でアメリカへ渡り、ベルさんは夢を叶えることができた。

本にはそのいきさつを詳しく書いた。ぜひお買い求めいただいて読んでほしい

描いたのは、ベルさんの生い立ちと肉親さがしの話だけではない。ベルさんとわたしの間に生まれた軋轢についても正直に書いた。そしてその原因にまで思いを馳せ、ベルさんという人物に迫ろうと試みた。成功したかどうかはわからないが、やれるだけのことはしたと自負している。

戦後すぐ進駐軍の米兵と日本人女性の間に生まれ、孤児として育ったベルさんは、読み書きができぬまま社会に出た。ストリッパーとして活躍したのち職を転々とし、50歳のとき夜間中学に通って文字を読めるようになった。彼女が身の上話をするとき、ハイライトは必ずそこだ。美貌の踊り子時代よりも、太って皺もある50歳以降の自分のほうが好きだと言ってはばからない。彼女にとっては、夜間中学時代が本当の青春なのだろう。

支援者の皆さんのおかげでアメリカへ行き、生まれてはじめて血のつながったきょうだいたちと時を過ごしたベルさんの笑顔を、わたしは間近で見守る幸福に恵まれた。それは夜間中学時代に並ぶ、彼女の人生2つ目のハイライトではなかったろうかと思う。

出来上がった本を手に、ベルさんは何度も「嬉しい、嬉しい」と言ってくれた。親しくなった十数年前にはすでに「自分の人生を本にしたい」と言っていたベルさんだ。生い立ちについて「話したことは全部書いていい」と言った彼女の覚悟に応えるべく、語ってくれたすべてを盛り込んだ自信がある。

ベルさんが育った北海道北広島市の児童養護施設『天使の園』の施設長さんから、こんな言葉をかけてもらえた。

児童養護施設の支援の中に、職員や家族と一緒に自分史をつくる『ライフストーリーワーク』というものがある。自分は誰から生まれ、どういうきょうだいがいて、どんな場所でどんな風に育って今があり、家族はどんな風に考えてくれていたのかを確認することで、自分の存在を肯定的に受け止められるようにすることを目指して行われる。
岡部さんが書いた本は、堤さんにとって最高のライフストーリーワークだったと思う。

嬉しかった。わたしも心から、この本がベルさんにとってそういうものになってほしいと思う。何度も何度も読み返して、自分の人生の中で空っぽだったところを温かいもので満たしてほしい。

ベルさんの古い友人であり、わたしの友人でもある新宿三丁目スナック雑魚寝の水島さんからは、

これで、ベルの足りなかったピースがすべて埋まったよ、えっちゃん。

と言ってもらえた。この労いにも、わたしは心底救われた。やってよかったと思えた。

調査が進むにつれ、知らなかったことが明らかになり、ベルさんの曖昧な記憶の輪郭がはっきりしてくる瞬間が何度もあった。その一方で、今もなお不明なままのこともたくさんある。これからとりかかること(アメリカ人の実父とその子孫について)もある。本は書き終えたが、ベルさんの人生もわたしの人生もまだまだ続く。

とはいえ、ひとまず区切りはついた。本を読んでくださった方にはお一人お一人に、「わたしたちの旅におつき合いくださってありがとうございました」と申し上げたい。ぜひ、お買い求めの上ご堪能ください

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