ｱﾗ古希ｼﾞｲさんの人生、みんな夢の中 ﾌｨﾘﾋﾟﾝ編⑩ 新宿駅西口行きバス
さて、今回はフィリピンの乗り物のお話。
この国に来て最初に出くわすのが、交通渋滞と排気ガス公害である。それは、日本で電車がなく、車だけの状態と思ってもらえばよい。さらに普通の乗用車は少なく、バスとジープニーと呼ばれる乗合自動車、それにトラック、要するに軽油を焚いて走る車が大部分を占めることがある。自分たちが居た時以前も、鉄道はあったのだが、ピナツボ火山の噴火（1991年）とかいろいろあって、実質動いていなかった。90年代終わりから日本や中国の協力で、新しい鉄道が次々に運転開始され、随分様相は一変しているようだが、98年以降知らないので、ご容赦願いたい。
ジープニーとは、主に日本製の中古の軽トラックのエンジンとシャーシーを元に、荷台を屋根付きのバスのように改造してつくる。前がジープに似ているからこういう名前なのだが、この小さいのに、またたくさん乗るのである。20人ぐらい乗っている。学生、社会人を問わず、よく乗る。一応コースが決まっているが、乗り降り自由である。基本、営業なので、ギンギラギンに照明を付けて走っているジープニーも多い。自分も、フィリピンの人に同行して1回乗ったことがあったが、さほど窮屈でもなく、ただ、途中で運転手が誰かと喧嘩を始めて、乗客が全員退避する場面があり、それなりにスリリングで面白かった。
田舎では、ジープニーよりもトライシクルと呼ばれる、50から125ccのオートバイの横に一輪の補助座席をつけた輪タクが多い。これにまた７、8人乗るのである！バイクの後ろに2人、補助座席の方に3、4人乗るのである。全く、信じられない！ジープニーでも同じであるが、どうも運転席に近い方が涼しいためか、人気がある。しかしバイクの後ろに2人乗ると、運転手は燃料タンクに尻を乗せている感じである。工事現場サイトの町にも沢山走っていて、自分も何度か乗ったことがあるが、スピードを出し過ぎなければなんとか行ける。ただ、道路事情が悪いせいもあって、決して安全な交通手段とは言えず、日本人の50歳前後の人が、田舎町で夜飲んだ帰りにトライシクルに乗って、事故に遭い、亡くなったのは全く悲しい出来事であった。
路線バス、長距離バスがまたスゴく、日本で使っていたとすぐにわかるようなのがいっぱい走っていた。車は右側通行なので、日本のドアの位置と運転席を器用に改造して、付け替えて走っていた。それでもメイドインジャパンを示すためなのか、行き先表示が、「新宿駅西口」（京王バス）とか、「六甲道」（神戸市営交通）とか、「天神」（福岡西鉄バス）とか、「岡山大学妙善寺」（岡山交通？）とか、知多乗合バス、なんて書いてあったりして、ホント笑えた。本当のバスの行き先は運転席の反対側のフロントガラスに小さく書いてある。バスの塗装も日本のままを使っているものも多かった。こんな日本信仰に近いバスも、今調べたら、残念ながら、もう走っていないらしい（今は液晶や電光表示で、現地の目的地にすぐ変えられる）。中国や韓国、その他の安いバスが普及しているので、ある意味当然ではある。（したがって、当時のバスの写真はありませんが、調べたら今ミャンマーがそういう状態だという。ただし、行先を日本のままにはしていないらしい。GDPはフィリピン 2019年 34位 1997年 41位、ミャンマー 2019年 72位 1997年記録なし）
そんなわけで喘息も増えて問題になった。街を歩く人やジープニーに乗っている人も、10人に1人か2人、口と鼻をハンカチやタオルで押さえていた。
大体道路は車線があってないようなもので、横の車と10センチくらいの感覚で走っていて、相当慣れないと自分では運転できない。会社が雇っていた車のドライバーの月給は、当時の日本円で2万円くらいであった（ちなみに、とっても良く働いてくれていたメイドは、12千円くらい、ただし食住込み）。ドライバーも、予め言っておくと、夜飲み屋にも連れて行ってくれ、飲んでる間も待機してくれた（勿論、会社が残業代を払っていたと思う）ので、ホント有難かった。
渋滞ということで言えば、雨（雨季のスコールや台風等の豪雨）が影響するとてき面で、マニラでは普段20分くらいの通勤路が、3～5時間かかったことがあったし、マニラ～工事現場サイト間では、道路が寸断されて、普段5時間（250㎞だから、道路事情が日本に比べれば相当悪いことが分かる）くらいが8～10時間かかったことがあった。
今では鉄道も、モノレールや軽量鉄道（LRT)その他建設中も含めて多種、走っていて、渋滞解消や都市の発展に大きく寄与していると思うが、貧困による犯罪が減らないと、問題は残ったままなので、市民全体が恩恵を享受できるになるには、まだしばらくかかりそうである。
今回の一首
ふるえれば 夜の裂け目のような月 あなたが特別に したんだぜんぶ
初谷むい
