ライオールのナイフとコイン
ガルグイユ(gargouille:もともとは、じゃがいもや豚のもも肉などを煮込んだその地元、ミディ ピレネー、ラングドック ルシオン、オーヴェルニュにまたがるオーブラックの郷土料理)という野花、香草などを盛り合わせた前菜で一世を風靡し、彼の料理を継承したいという多くの料理人を輩出したMichel Bras。ここを訪れると食事用のフォークは一皿ごとに変えてくれるが、ナイフは最初に出てくるものだけで通す。”この土地には、マイナイフという習慣があり、今日このナイフが食事中のあなたのナイフです”と言われる。
この地域は、山が多く、かつては木こりを職業としていた人が多かった。木こりたちは、マイナイフを持って朝家を出たら、そのナイフで、パンを切りサラミを切ってランチを食べる。時には邪魔な草を切ったかもしれない。とにかく必需品だったのだ。そんな伝統から、この村では昔からナイフ作りが盛ん。それは、ライオールまたはラギオール(パリっ子たちがそう呼ぶようになったとか)という村の名前のついたナイフとなった。
ということで、ミッシェル ブラのある丘のふもとのライオールは、ナイフを売る店が軒を連ねる。あまり知られていなかったこの土地のナイフは、ミッシェル ブラとともに世界に広がり、日本のフレンチでも、肉料理にこのハチの刻印があるナイフを出すお店も多い。
(料理王国創刊号の表紙を飾ったガルグイユ。今は、息子さんが作る)
そんなライオールのプレ ロティ(鶏のロースト)用のナイフに惚れ込んだ私は、パリジェンヌの親友の息子の結婚祝いには、そのナイフ フォークのセットをぜひ!と思い、パリのデパートに買いに出かけたのだが、ふと、フランスにも、ナイフをプレゼントしてはいけない伝統があるのか不安に。店員に尋ねたら、やはりあると言う。でも、相手から1サンティームでもいいから、コインをもらえば、縁が切れることはないという言うではないか。要するに、ナイフを買うという認識らしい。
はたして、このプレゼントは大変喜ばれたのでした!
フランス人にとって、鶏の丸焼きといえば、週末料理。マルシェを訪れれば、店頭でローストしている食欲誘うその匂いに誰もが足を止める。肉をカットするのは男性の役目。昔から、剣と関わりのあるフランス人の男性は、テーブルでもそれを担う。しなやかに美しく、骨と身の間にナイフを入れながら、もも肉がいい?それとも胸肉?と聞いてくれる。結婚祝いのプレゼントは、そんな実用的なものが絶対良い!使うたびに私もことも思い出してくれるだろう。
ところで、ライオールのナイフだが、実は商標登録していないらしく、誰でも製造することができててしまうらしい。しかし、問われるのは、もちろんその品質であることは、間違いない。