異次元世界のマレーシア~クランタンのうなぎ料理~
日本ではうなぎといえば、スタミナのもとで7月に土用の丑の日があります。一方で、マレーシアにも実はうなぎ料理があるのはご存知でしょうか。
クアラルンプールやペナン、ジョホールなどではうなぎ料理は見かけません。これはクランタン州独特の料理で、それもマレー人が作るものなのです。
マレー語でうなぎのことをBelutといいます。英語ではEelといいますが、クランタンでは英語がほとんど通じないこともあり、英語のEelが看板に出ていることはありません。また、メニューにも英語表記はないので、外国人にとってマレー語がわからないとBelutが何であるかも知らずに通り過ぎてしまうのでしょう。
クランタン州でうなぎはスープにします。Sup Belutというメニューがそれなのです。
実はこのスープ専門店がコタバルには結構あります。うなぎスープは、一部タイ料理屋にありますが、どこにでもあるわけではなく、この専門店が主に提供していると言っていいでしょう。日本の「うなぎ屋」に代わるものなのでしょうが、その調理法は至って簡単。ぶつ切りにしてスープに入れるだけです。
コタバルでは少しいくつか周ってこの「うなぎ屋」を探してみたのですが、以前には多くあったものの、パンデミック以降は数を減らしてしまいました。なので、僕はまだ味見をしていません。
ネットなどで調理法をみると、しょうが、にんにく、玉ねぎ、セロリ、塩、こしょうを使います。まず、玉ねぎやにんにく、しょうがを炒め、しんなりとした後にうなぎのぶつ切りを入れます。うなぎの肉(?)の色が変わったあとに白と黒のこしょうをまぶし、今度は水を入れます。その後にセロリなどを入れてさらに煮込みます。調理はこれで終わりですが、食べる前には唐辛子や乾燥にんにくをまぶして食べるのだそうです。
これってどんな味だか不思議なのですが、マレーシアにはこういう料理もあるのです。ただ、ぶつ切りにしたうなぎは少しグロテスクな気もしないでもないですが。
家庭でもこのうなぎスープは食べるようです。その証拠にスーパーには生きたうなぎが水槽に入れられて売られています。これはほかの都市では見られない現象です。
さて、このうなぎはどこから来るのでしょうか。ほとんどが養殖のようです。隣のトレンガヌ州にはいくつかのうなぎ養殖場があります。また、今ではおそらくなくなっていると思われますが、パハン州に世界最大の台湾系のうなぎ養殖場がかつてありました。その大きさは何と全長5キロ、幅3キロにわたる養殖場で年間10トンものうなぎが取れたとか。もしかすると、台湾産といいつつ、マレーシアの養殖うなぎが日本に行っていた可能性もあります。クランタン州と同じ東海岸にあるというのは面白いところです。
いずれにしても、マレーシアでもうなぎの需要があるということなのです。インドネシアだとPecel Leleという小さいなまずを揚げたものがよく売られていますが、マレーシアには逆になまずはほとんど食卓には上りませんが、これはどうしてでしょうか。
マレー料理の1つにチキンやマトンを串焼きにするサテがあります。この文化があるのになぜうなぎは串焼きにしないのか。ぶつ切りにしてスープにするより串焼き、蒲焼きにしたほうが美味しい気もしますが。。。醤油文化もすでにあるので、これを調整すれば、日本のうなぎの蒲焼きもマレーシアでできなくもないのでしょう。日本のうなぎ職人がマレーシアで展開できる余地はあるのかもしれません。
ただ、マレー人の間ではどうも魚類をあまり串焼きにするという発想がないような気もします。クランタンの人は魚類をあまり食べないことは前にも書きましたが、魚をあまり焼いて食べないことから、もしかするとうなぎも焼いて食べることはしなかったのでしょう。鶏肉と同じ方法でスープにぶつ切りにして入れたほうが早いという発想になってしまったんだと思います。
それでは、なぜクランタン州でうなぎなのでしょうか。うなぎを食べるのは、ほかの州ではほとんど見られない食文化です。これはどうもタイ文化がクランタン州には色濃く残っているためかと思われます。
タイの地方の人は、あまり知られていませんが、うなぎを食べる習慣があります。やはりスープにして食べるようで、主にカレーとともに食します。
クランタン州は何百年にも渡ってタイの影響を受けてきました。英国の植民地となったのは1909年以降ですが、それでも人々の間には何百年にもわたって浸透していたタイ文化はそのまま残り、今もタイ語を話す人たちもクランタン州は多い。食文化もそのまま残っているのは不思議ではありません。タイ料理屋もクアラルンプールなどと比べても多く、なかでもトムヤンクンはマレーシアで最も美味しいと言われているところです。
マレー半島のなかでも特殊的な位置にあるクランタン州でこういった食文化も見られることになっているのだと思います。一方で、タイ文化がやはり色濃いクダ州(ペナン州北部の州)ではそれほど盛んではないのはなぜなのか。いずれはクダ州に行って、うなぎを追ってみたいと思います。