6州で州議会選挙があるのですが
マレーシアで6州(スランゴール州、ヌグリ・スンビラン州、ペナン州、クダ州、クランタン州、トレンガヌ州)の州議会が6月末に解散され、8月12日に投開票があります。ちょっとこれについて一言。
解散前の勢力は前者3州が国政与党・希望同盟(PH)と国民戦線(BN)が占めた一方で、後者3州は国政野党の国民連盟(PN)が過半数を獲得していていました。後者は特にイスラーム色が強い政党の牙城で、なかなかリベラルな与党が食い込むのは難しいのですが、今回はどこまで議席を獲得できるかが注目されています。
さて、政治的なことはあまりお話してもついてこれる方がいらっしゃらないので、経済的なことを少し話します。
先日、2022年の国民総生産(GDP)が発表されました。全国の1人あたりのGDPは5万4863リンギ(約170万円)。中でもクアラルンプールの1人あたりのGDPは12万7199リンギ(約400万円)と圧倒。一方で最低はクランタン州の1万6567リンギ(約51万円)。なんとクアラルンプールとクランタン州の差は約8倍もあるのです。1万6567リンギというと、月に換算すると約1380リンギ(約4万2000円)。これって最低賃金の1500リンギ(約4万6000円)よりも下ということになるのですが、どういうことなのでしょうか。
今回、同州も議会選挙がありますが、定数45議席のうち37議席を占めていたのが国民連盟。中でも国民連盟の構成党の一つである、イスラーム色が最も濃い全マレーシア・イスラーム党(PAS)が36議席も占めていました。この政党は1990年代からクランタン州の州政権を担っていましたが、このGDPの数字を見ると経済にはほとんど力を入れていないように思えます。
クランタン州の主要経済は農業/林業とサービス業。GDPでのセクター別の貢献率をみると、サービス業は 69.2%、農業22.8%(2021年データ)となっています。
農業はコメやパーム油、ゴムといった一次産品が作られていますが、なかなかこれでは州全体で収益をあげるのが難しい。また、林業は木材の切り出しで他州に輸出しているのですが、昨今は環境保護もあり、かつ違法な伐採が跡を絶たず社会問題になっています。抜本的な対策が必要なのです。
さて、クランタン州で最も多いサービス業。クアラルンプールのGDPはサービス業90%が貢献していますが、クランタン州もそれだけサービス業の割合が大きいのであれば、そこに注力すればいいのではと思いますが、どうもそうはいかないらしい。サービス業には観光業も含まれますが、クランタン州は観光地がほとんどないのでそれも難しい。通信サービス関連も4Gがどこまで繋がっているのかどうかもあやしいところで、となるとクランタン州のサービス業はどのセクターが多いのかよくわかりませんが、そこを底上げしていけばもっと収入は上がる気もするのです。
この州はイスラーム方式が好きなので、ハラル産業に注力するという手があります。実際、ハラル工業団地を作る構想はあるようなのですが、これまた何年も遅々として進まない。結果が出ていないということは、やっていないことと同じで、さあ、結局経済活性化としてはどうしたいのか。
そのあたりは政党のマニフェストにどう組み込むのか期待されますが、これだけ国全体で経済ダメージが大きかった中で、のうのうと何もしないということはありえません。ただ、映画館の一つ開設するにしても大きな問題(注)になるような州なので、経済政策全体を円滑に進めるのは難しいのかもしれません。
(注)クランタン州にはいまだに映画館はありません。これは映画館が未婚の男女が「いかがわしい行為」に発展するなどの理由で開設を渋っているのです。開設条件は男女を別にすることや上映映画もイスラム的な内容が求められているようです。
いずれにしても、クランタン州には仕事がありません。ここの人たちが本気でお金を稼ぎたいと思ったら、クアラルンプールやペナン州に出稼ぎにいきます。一説によると、25万人以上が他州で働いているということです。極端な話、この25万人が帰ってきてお金を稼ぐことができれば、GDPも上がっていくと思われますが、クランタン州で仕事を作って上げることもどうも州政府はしていない。出稼ぎも嫌がる人たちは公務員になることを切願する傾向が多いのです。
州政権を握るPASにとってイスラーム教を土台にした国を作るというのが最終目的ですが、国は人がいて成り立つもの。その人たちに対して仕事を作ってあげることも州政府の仕事だと思います。それをしていかないと本末転倒ではないでしょうか。
一方で、イスラーム色の強いクダ州(ペナン州北部)も1人あたりのGDPは2万5967リンギと国平均よりも低いです。しかし、ここにはペナン州が隣にあってクリム・ハイテクパークという半導体関連などの工場が多く立ち並びます。このほかにも観光業といった分野でもGDP増加に貢献しています。クランタン州はこれを参考にできないのか。
確かにクダ州は隣にペナン州があるというのは大きい。経済の求心力になっている近くに地理的にあるというのは直接間接的な影響を大きく受けるのです。一方でクランタン州には地理的なデメリットがあるのは否めませんが、そこを知恵を絞って活性化させていくことはできるはずなのです。
州政府の怠慢なのかどうかはここで判断するのは趣旨が異なるので差し控えますが、いずれにしてもクランタン州は貧しい人が多すぎる。貧しくても幸せであればそれはそれでいいのかもしれませんが、この現状が続くと3世代以降も貧しい状態が続くということになります。そうなってしまえば「政治の怠慢」として言いようがありません。将来の人たちに潤った生活をしてもらおうと思ったら、そろそろ経済政策を本格的にどうにかしていかないといけないのでは。
日本人にはほとんど関係のない州議会選挙ではありますが、貧しくなる日本を見ていると何か共通したものが見える気がします。