『ああ、無情なる幻想世界でボクは生きる。』第2話【#創作大賞2024】【#漫画原作部門】
▷第1話はこちら◁
《第2話 エルフ》
「――大自然の中では弱者は死に方すら選べないってこと、身に沁みて分かったかしら?」
「……え? は? ナビ?」
声はナビだ。でも見た目は完全なエルフ。
「もしかして、ピンチなボクを助けるためにスキルが美少女化したんじゃ――」
「そんなわけないでしょ。アナタ頭おかしいの?」
「おおっ! いつものナビだ」
「もうナビじゃないって言ってるじゃない……。アナタのスキルでもないし――っていうか、私の話聞いてる?」
「オークをあんな風に蹴散らせるなんて、とんでもないチートじゃん! これはもう異世界ガチャに勝ったも同然――転生する必要なんてなし!」
「はぁ~っ……」
はしゃぐボクの前でどデカいため息を吐いたナビは、ポーチから小さなビンを取り出すと、中身をいきなりボクの右足にぶっかけた。
――ブシュウゥゥゥウッ!!
「いっづぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
謎の液体が、剥き出しのお肉にダイレクトアタック。
燃えるどころか、もうこのまま足が溶けて無くなるんじゃないかと思うほどの激痛に、ゴロゴロと地面をのたうち回る。
というか――足から蒸気が立ち昇っているのを見るに、本当に燃えている気がする。
ついでに激熱の直後に襲ってくる、激寒と強烈な痺れ。
そこから何度も激熱と激寒、痺れを繰り返し――、
十回目のループで足の痛みがふっと消えた。
食いちぎられた場所を見てみると、皮膚どころか筋肉までもが完全に再生していた。
「あれ……治ってる?」
「当然よ。ババ様特製のポーションを使ってあげたんだから」
「あ、ありがとう。ナ――……」
「ナビじゃない、ルルナリア。いい加減落ち着いて話を聞きなさいよ、クソガキ」
「えっ? ……くそがき?」
「なに?」
表情をほとんど変えないエルフさんの口から、あまりにナチュラルに暴言が飛んできたものだから、聞き間違いかと思った。
けれど――、一か月も付き合っていれば分かる。この声のトーンは明らかにお怒りだ。
「ごめんなさい。ルルナリアさん……」
「……」
とりあえず謝ってみたものの、ルルナリアさんは不機嫌なまま。
ボクを見下ろすだけで、何も言葉を返してもくれない。
「あの……?」
「『――これはただの風魔法の応用で、私はアナタのスキルじゃない』」
直接耳に入って来たのは、ナビの声。
そして、同時に聞こえてきたのはルルナリアさんの声だった。
「今まで勘違いさせていたことは謝るわ。でも、それとこれと話は別……。私が何に怒っているのか分かっていないくせに、謝られても不快なの」
「うっ――!?」
返事を返す暇もなく胸倉を掴まれ、引き寄せられる。
目の前には、どアップになったルルナリアさんの麗しいご尊顔が。
「私がアナタのスキルじゃなくて残念だったわね。で、なにかしら……また『異世界ガチャが外れた』とかなんとか訳の分からないことを言って、転生でもしたい? これからどうするつもりか教えてくれない?」
「それは、その……」
オークに食われるのは嫌だ。でも、転生の誘惑が頭にちらついて離れないのも事実。
とはいえ、ポーションを使ってまで助けてくれた人にそれを言うのは気が引けた。
答えに詰まるボクを見て、ルルナリアさんの顔がついに――歪んだ。
「ふざけるなっ――!!」
近距離で放たれた目一杯の怒声。
目を丸くするボクへ、言葉が止まらないと言わんばかりにルルナリアさんは続ける。
「この世界の人類の歴史は、ほとんどがモンスターとの闘争の歴史。国を担う未来ある子供たちをモンスターから守ってきた歴史でもある。『この国を良くするために』と命を懸けてきた人間を、エルフを、私は何人も見てきたわ。数百年前に比べて子供たちの死亡率が減ったこの『今』は、彼らの尽力と命があって成り立っている。それを知っている私の目を見て、もう一度同じことを言ってみろ!!」
澄み切ったエメラルドの瞳の奥に、深い深い歴史を見た気がした。
知らないなんて言えない、絶対に言ってはいけない――それだけは分かった。
「……言え、ません」
「子供のアナタがモンスターに食われて自殺することが、どれだけ彼らの想いを踏みにじっているのか――私の想いを踏みにじっているのか、わかる!? 前世の知識を持って生まれたくせに、ちょっとうまくいかないから転生したい? ふざけんな!!」
震える彼女の手から、怒りや悔しさだけじゃない何かが伝わってくる。
逸らしてはいけない気がして、じっと目を合わせていると――ルルナリアさんの頬に涙がつうっと伝った。
ああ、なんて……。
「この世界には、死者の魂に干渉できるタイプのスキルがあるわ。だからきっと死後の世界はあっても、転生なんかできやしない。それでもこの世界を否定して死にたいのなら、世界中を見て回った後で『やっぱりこの世界は救いようのないくらいクソだった』って言いながら死ねばいい。それくらいしなきゃ、私はアナタが死ぬのを許さない……」
なんてキレイな涙を流せる人なんだろう……。
ぶつけられた言葉はキツい。だけど真っすぐで、胸に伝わってきた想いはあたたかい。
何一つ思い描いた通りにならないこの世界で、目の前のエルフは思い描いていたよりもずっと高潔で、優しくて、カッコよくて――、
そして信じられないくらい、美しかった。
「だからアナタ、私の弟子になりなさい。拒否権はないわ」
こうして――ボクにエルフの師匠ができた。