飛行機雲と轟音のクライシス

家に着き、車から降りた。
もう息子は小学校から帰ってるようだ。

家の中からアホな笑い声が聞こえる。
どうせ、タブレットで最近夢中になっている動画でも見ているのだろう・・・。

そろそろ、タブレットの使用にもルールを設けないけないかな？

そう考えている時、遠くから「ゴー」っという音がしてきた。

飛行機かな？
この時間だったら鹿児島行きの旅客機だろう。

そう思って自宅の駐車場の前から空を見上げた。
飛行機雲が見えた。

あれかな？

そう思って家に入ろうとした時だ。

明らかに音が大きくなった。

「ゴゴゴゴゴゴゴゴ！」

何事だ！？
この音は旅客機では無い！

私は慌てて外に飛び出し、空を見上げた。

戦闘機か！？

高知には「オレンジルート」と呼ばれる米軍の低空飛行訓練ルートが存在する。
(ちなみに、実家のある大分県上空を飛ぶ低空飛行訓練ルートは「イエロールート」と呼ばれている。)

しかし、高知市の自宅上空付近はそのルートから外れているので、戦闘機が高知市上空を飛ぶことはあり得ない。
自衛隊の戦闘機もイベント等で飛ぶことがあっても、事前予告無しで飛ぶことも無い。

あり得るとすれば、何らかの有事か、戦闘機に何らかのトラブルが発生した時だ。
何にしても異常だ。

そうこうしているうちに音はどんどん大きくなる。

戦闘機はセスナ機や旅客機と比べると非常に速度が速いので、音がする方向を見ると既に通り過ぎていることが多い。
つまり、音がする方向の反対側を見ないと見逃してしまう。

場合によっては関係各所に報告する必要があるかも・・・

そう思いながら、スマホのカメラを連写モードに切り替えた。

そして、突然、時間の流れがゆっくりになった。

風景が白黒に変わる。
耳からの情報量が急増する。

いつものことだ。
私は昔から身の危険を感じると、このような感覚に陥る。

音の中に鳥の鳴き声が混ざっている。
戦闘機の音と思われる音に集中する。
音は周囲の家の塀や壁に反響している。
音の本体を探る。
そして音のする方向を探る。

おかしい！
音源は一つだけだが、複数の音が混じっている！
いや、厳密に言うと４つの音が束になっているようだ！

米軍の戦闘機であれば双発のターボファンエンジンのはずだ。
つまり、２つの音が束になるはず。
どういうことだ？
２機が接近して飛んでいるのか？

音は・・・
真後ろからだ！
つまり、前方を見ていればその姿を捉えることが出来るはずだ。

おかしい！
どんどん音が大きくなる！？
こちらへ向かっている！？

後ろを見るべきか！？

あれ？
聞こえるはずの山への反響音が聞こえない！？
エンジン音では無いのか？

私は音の中に「ゴトゴト」という音が混じっていることに気付いた。

間違いない！
これは航空機のエンジン音ではない！
では何の音だ！？

迷っていると、突然音が止まった。

そして刻は動き出す・・・

唐突に後ろから声がした。

「空に何か見えるかねぇ？」

振り返るとそこには近所のお婆さんが立っていた。
下に目を向けると、そこには古い手押し車が・・・

もしかしてこれ？
４つ束になって聞こえた音は４つの車輪の音？
とりあえず、お婆さんに返答せねば・・・

私「ええ、飛行機が飛んでるのを見てました。」
お婆さん「そうかね。私はてっきり鳥を見てるのかと思ったよ。」

見上げると、確かに鳥が鳴きながら飛んでいた。

お婆さん「ほいたら、もう少し散歩するかね・・・」
私「あ、あ、お、お気を付けて・・・」
お婆さん「ありがとね・・・」

そして、お婆さんは手押し車を押しながら去って行った。
手押し車から轟音を鳴らしながら・・・。

「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ！」

お婆さん、手押し車、メンテナンスしないと・・・
路面がガタガタしてるのも音が大きくなった原因か・・・

私はもう一度空を見上げた。
飛行機雲はまだ残っていた。

手押し車の音は遠ざかって行った。
飛行機のような音を出しながら・・・
「ゴー・・・」

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