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冬のメインディッシュ

この凍える寒さも「こちらへどうぞ」「お邪魔します」と、ポケットにお招きする口実になったり。

色づく白い息も「見てほら雷の呼吸」「何度目よそれ……辟易一閃」と、小さな挿話になったり。

そんな思い出を作りやすい冬の中でも、メインディッシュのような日が遂にやってきた。

クリスマスだ。

メリクリ気分

楽しみにしていた人や、予定を入れてわくわくしている人も、たくさんいるだろう。最初に言っておくが、それに水を差す気は毛頭ない。

いつにも増して幸せを育めるのなら、それほど素晴らしい事はないと思う。どうか、あちこちから聞こえてくる祝福の鈴の音や、飾られたイルミネーションを「自分たちのためにあるんだな」と感じながら、存分に浸ってほしい。

その上で、その一方で。

ウイルス云々の影響で、あるいは楽しむ予定がなくて、あるいは仕事が忙しくて、あるいはそもそも騒がしいのが苦手で、メリクリ気分になれない人もいると思う。

私自身、毎年クリスマスにパーティーをするわけでもなく、丸焼きチキンを巨大なオーブンで焼いて頬張るわけでもなく、よそ行きのツリーを眺めてうっとりするその横顔にうっとりするわけでもない。

そもそも、幼い頃からいろいろあったせいで、寝ている間にプレゼントがあるといった事自体にも縁がなかった。靴下を置いて寝たところで、起きたら昨日のままの靴下があるだけ。

だから、私自身も特にメリクリ気分には「いまいち」なれていない。

サンタに願いを

「いまいち」と強調したのには、憧れ自体はあるからだ。

毎年、寒いねと言いながら綺麗な景色を眺めたり、テーブルの真ん中に一台のケーキを置いて、大きなチキンとクリームスープを作りながら雰囲気のある歌をスマホから流して、邪魔するようにピコピコ鳴る通知音にひとしきり笑った後「できたー食おう」と座って――そういう世界に憧れてはいる。

いるが、もう諦念している。

自分がそういうシチュエーションと縁遠い場所にいる自覚もあるし、多くを望めば望むほどダメージが大きいのも学んできたし。

ただ、サンタだけは話が別だ。

諸説あるのかないのか知らないが、サンタとやらは大きな袋にプレゼントを詰めて配って回るらしい。聖ニコラウスの金貨のように、靴下を置いているとそこに入るとか入らないとか。

私としては「ウーバーで時間指定して頼めればいいのに」と、ムードのない願望があったりもするが――いや、これは流石にトナカイに蹴とばされそうだから聞かなかった事にしてくれ。

ってなんの話だったっけ。

そう、サンタだけは話が別。

もし、大人の自分にも例外なくプレゼントがもらえるとすれば、どうか私以外の「どうしてもどうしても欲しい物がある人」に、その権利が渡りますように。できれば、欲しくても買えなくて、でもどうしても欲しくて、でも我慢して、我慢して、我慢している人に。

同情とか、そういうんじゃない。

自分がそうだから。

そういう肩身の狭さとか、ひもじい思いをした苦しみなら、比較としてじゃなくて誰よりも経験してきたから。

サンタとやらに頼んでも仕方ないよなぁとは思うけど、だったらお前が渡せよとも思うけど、歯がゆいかな「力」がない。ならせめて、権利は放棄するから、キャリーオーバー的にそれを誰かへ。

願うだけなら、自由だよな?

まとめ

クリスマスを笑顔で迎える人も、真顔で迎える人も、実は誕生日でWの記念日なんだという人も、それぞれの今日の終わりには、少しでも少しでも、穏やかな気持ちでいられますように。

本当は「イブニング」のイブだから、クリスマスの期間は――なんて厳密な意味は置いといて、これを読んでいる時くらいは、24日と25日という冬のメインディッシュを一瞬でも味わえますように。

私から他ならぬあなたへ。

メリクリ。

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エトナシ サラ
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