異世界へ召喚された女子高生の話-06-
▼不安な樹海を征く
高橋美咲は、森の中を慎重に進んでいた。周囲には不気味な静寂が広がり、木々の間から時折漏れる光が、彼女の心に微かな安らぎを与えていた。けれども、その安らぎは長くは続かなかった。ふと、彼女は背後から聞こえる小さな足音に気づいた。
振り返ると、そこには小鬼――ゴブリンの集団が彼女を追ってきていた。美咲の心臓は激しく鼓動し、恐怖が彼女を襲った。だが、ここで立ち止まるわけにはいかないと、咄嗟に手近にあった木の枝を掴んだ。枝をゴブリンたちの鼻先に突きつけ、牽制するように振る舞うと、彼女はその隙に全力で走り出した。
しかし、森の中は不慣れな土地であり、進む道は決して平坦ではなかった。木の根や垂れ下がるツタ、蜘蛛の巣に高い草――すべてが彼女の逃走を妨げた。足に絡みつく植物や障害物を乗り越えながら、必死に走るが、ゴブリンたちはしつこく追いかけてくる。
やがて、美咲はついに追いつかれ、取り囲まれてしまった。恐怖で動けなくなりそうになるが、なんとか冷静さを保とうと努めた。しかし、ゴブリンの一匹が彼女の足に飛びつき、次々と他のゴブリンたちも彼女に襲いかかる。腕や背中にしがみつかれ、自由を奪われていく。
「誰か、助けて……!」
美咲の心は絶望に沈みかけたが、その瞬間、ゴブリンの一匹が突然吹き飛ばされた。次々とゴブリンたちが叩きつけられ、美咲の周りから引き離されていく。驚いた美咲が顔を上げると、髭を蓄えた体格の太めの男性と、細身の男、そして禿頭の男が、ゴブリンたちを倒していた。
「助かった……!」
美咲は安堵のあまり、思わず感謝の言葉を口にした。
しかし、彼女が「助けてくれてありがとう」と言った瞬間、次の一撃が待っていた。
太めの男性が拳を振り下ろし、美咲はその衝撃で悶絶し、うずくまってしまった。痛みが彼女の体を貫き、意識が遠のきかけた。
「動くなよ、楽にしてやるからな」
禿頭の男が無造作に美咲を肩に担ぎ上げ、彼女を連れてその場を後にした。
美咲は抵抗する力もなく、彼らに運ばれていった。
男たちは森の中の川のほとりでキャンプの準備を始めた。美咲は太い樹木に縛りつけられ、両手を広げた状態で拘束された。彼女はまだ殴られた衝撃から立ち直れておらず、まともに動くことができなかった。
彼らは慣れた手つきで寝床と焚き火を作り、さらに得体の知れないトカゲのようなモノや、臭い匂いのする肉を焼き始めた。キャンプが進むにつれ、彼らは酒と思われる瓶を取り出し、楽しげに宴を始めた。
「すみません、縄を解いてもらえませんか……?」
美咲は恐る恐る声をかけたが、男たちはまるで彼女の言葉を無視するかのように、笑いながら食事を続けていた。彼らの会話は粗暴で下品であり、美咲はこの状況からどうにか逃れたい一心で、焦りを募らせた。
「いい拾いモンしたよな」
「兄貴、アイツのあの格好は、魔法使いの爺さんの召喚者に違いねえや。ひとまず調べてみましょうや」
「珍しいツラしてやがって……久しぶりに女を味わいてぇな」
美咲の心は恐怖でいっぱいになった。
食事を終えた男たちは彼女の方へ向かってきた。
美咲は必死に頭を働かせ、何とかしてこの状況を切り抜けようと試みる。
「お願いします、私はある魔法使いからの依頼で、こちらに来たのです。できたら、その魔法使いのいる街まで連れて行ってもらえませんか……?」
一か八かで美咲は頼み込んだが、男たちの反応は冷たかった。
彼らは美咲の言葉を真剣に受け取るどころか、彼女を品定めするかのようにニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
「ほほう、確かに魔法使いんとこのモンらしいな。見たことない服着てやがる」
「おい、ゲシャック。この娘さんをちょっと調べてみろよ。魔法使いの礼を手に入るか、どっかで売っ払ったほうが得か、確かめねえとな」
「へい、へっへっへ……大人しくしてな、嬢ちゃん」
ゲシャックと呼ばれた細身の男が、美咲の制服に手をかけ、ボタンを外し始めた。
美咲は必死に抵抗しようとしたが、縄に縛られて身動きが取れなかった。
「やめて、誰か……助けて!」
必死の叫びも届かず、美咲の心は絶望の淵に立たされていた。
彼女はこのままではどうなるかわからない恐怖に泣きそうになったが、それでも、わずかな希望を捨てずに祈り続けた。