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異世界へ召喚された女子高生の話-65-

▼薬なんて不要さ

朝日が昇る頃、山田や玲奈、ゼルギウス、リュークとカイン、さらにレオンもやって来て、皆でジョギングをして周り、その後、公衆浴場で汗を流す。
さっぱりした一行は、ストーンハースト亭で朝食をとることにした。

メニューは軽く、スープやパンが並ぶが、山田つよしは胃の調子が悪いようで、辛そうつらそうにしていた。
「うーん、美味しいんだけど、ちょっと僕には辛いつらいな。」
と言いながら、山田は蜂蜜酒ミードだけを飲んでいた。

「だいぶ苦しいんですか?誰か、胃薬って持ってないの?」
と、美咲みさきは周りに助けを求めた。

リリスは、山田が苦しむのをニヤニヤしながら見て、美咲みさきに耳打ちする。
「お前にはアレがあるだろうに。山田に飲ませてあげなさい。絶対喜ぶよっ♪」
と言い、美咲みさきが恥ずかしがるのを楽しんだ。

「えーっと、山田さん…。ちょっとに…」と美咲みさきが赤面しながら言いかけると、フィリップが割って入った。

「胃が悪いの?僕に任せて。ず、お酒はよくないな。美咲みさき、メニューのハーブティーを、ペパーミントで作って持って来てっ!」
と、フィリップが言う。

美咲みさきは仕方なく彼の指示に従い
「わかった。山田さん、待っててね。」と、答えた。

エリナは、弟のエドガーとそのやりとりを見て、面白くなさそうにしている。
「もう、フィリップ、なんだか変よねっ!」と弟に八つ当たりする。

「フィリップさんは、年配の方に優しいんだよ。姉さんが不安に思う事なんてないだろ?」
とエドガーに言われるが、エリナは美咲みさきのメイクイーンの準備の手伝いより、フィリップに張り付く決心をした。

午前中の美咲みさきはメイクイーンの衣装合わせで、花冠と裁縫さいほう上手のマルタ・ブロッサムに連れられて、村の農業区にある集会所にいた。
玲奈れいなとソナも付いている。

ミア・リトルフィールドやクララ・ウィローの若いアシスタントもいて、和気藹々わきあいあいとした華やかな雰囲気が漂っていた。

(エリナも来たら良かったのに、よっぽどフィリップが好きなんだわ。)
と、美咲みさきは女性仲間と過ごす時間を楽しんでいた。

ふっくらとした、村のおばちゃん的なマルタは
「本当に、あの大男のならず者をやっつけたなんて信じられないくらい、華奢きゃしゃな身体よね〜。」
と、クリームホワイトのワンピースを当てながら呟くつぶやく

「私も、よくやれたなって思ってます。」と美咲みさきは素直に答え、あの時の出来事がもう遠く感じられた。

ミアは、ウエストの調節を試行錯誤しこうさくごしながら
「でもついに明日、騎士団の方々が来られるのよね。団長のサイラスきょうってどんな方かしら。」
と金髪の三つ編みを揺らして、騎士団に興味津々きょうみしんしんだ。

黒のショートボブのクララは
「騎士団と言えば、副隊長のエレナ様が魅力的だわ。明日、上手く花冠、渡せるかしら…」
と、すその長さを見ながら話す。

「私も緊張してきた。失礼のないようにしないとね。」
と、美咲みさきも同調する。

美咲みさきなら大丈夫よ。教諭きょうゆに対して臆すおくする事なく接してるでしょ?」
と言う玲奈れいなは、ソナと明日、一番に新鮮な生花で作る花冠とブーケの練習をしている。

「そこのサンザシは今朝フィリップに貰ったのだから、花冠作る時、忘れないで使ってね。」
美咲みさきはサイズ確認の人型として自由に動けず、声だけかける。

「フィリップも何のつもりかしら。美咲みさきをふったくせにっ!」
玲奈れいなは、とげのあるサンザシを恐る恐る掴みつかみながら話す。

「ふふっ、やっぱり美咲みさき様が、気になって仕方ないんですよ。未練なんですかね。」
と、ソナはあの日の動揺する彼の顔を思い浮かべる。

「フィリップさんって、どんな人?」
とミアが聞いてくる。

「一緒に黒鴉くろがらすの戦団と戦った魔法使いの好青年よ。」
と美咲は、ウエストの処理を進めてるミアを見下みおろし説明する。

「あの廃教会に、一番早く走って行ったカッコいい人よ。」
と、すそのカットをしながらクララが答える。

「えぇ〜っ、お似合いなのにぃ?!抱き合ってませんでしたか?てっきり、交際されてるのかとばかり…」
ミアは話に夢中になり、作業を止めて美咲みさきを見る。

美咲みさきは困って苦笑いする。

「あはは、その時に断られちゃって、幼なじみのエリナが好きなんだって。」
と、美咲みさきは言う。

「ケイリー様は、ふられたのに元気そうですね。とても、前向きでいいわぁ。」
と、マルタはそでの長さを確認している。

「私は、気持ちの整理がついて、とてもスッキリした気分なのよねっ♪」
と、美咲みさきはケロリと微塵みじんの未練もなく答える。

「失恋に塗る薬」なんて必要ない。
もう次の目標が定まったのだから…。

早くその人と、一緒に祭りの準備がしたくてたまらない。

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