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異世界へ召喚された女子高生の話-42-
▼出会いは不安の共振
ソナはキッチンで夕食の準備をしていた。
「私も、美咲様を探すお手伝いができたらな…」
そう独り言を呟きながら、野菜の下準備をしている。
新しい主人リリス・ヴァレンティーヌは、お昼前に最近親しい主要な方々と会議されて、日中はほとんど書斎に籠っていた。
リリスは作業の合間に簡単に食事を済ませるのを好むため、食事も必然的にシンプルなものになる。スープとパンという手軽な料理。
「何のやり甲斐もないわね…」
とソナは少し寂しそうに鍋を混ぜていた。
野菜はパンに絡みやすくするために跡形もなく煮込まれ、見た目も質素だ。
だが、リリスの好みにはこれが合っているのだ。
「美咲様に成長した私を見てもらいたいな〜♪」
ソナが楽しげに鍋を混ぜていると、書斎から軽い通知音が響いた。
リリスが山積みになった書籍の中から起き上がり、磨き上げられた銅鏡を手に取り、何やら指で擦ると、遠くから藤井玲奈の声が聞こえてきた。
「リリスさん、森の中で、至高の三賢人のアルテミスさんに会いましたが、どうやらエドウィンという方が勇者召喚の秘術を使用したと聞きました。私はさらに西へ進み、ロヴァリスの森の彼の自宅へ向かうつもりです。」
アルテミス・グレイウッドの話は興味深かったが、玲奈にとっては高橋美咲を見つけることが何よりの優先事項だった。
純真でまだ男に穢されてないあの子を、清風神社の巫女に迎える夢があるのだ。
「エドウィンねえ…どのエドウィンかな?」とリリスは寝起きのような声で尋ねた。
「もうっ!エドウィン・アルステッドは貴女の弟子ではないのですか?」
玲奈は話が伝わらないリリスにもどかしさを感じ、苛立ちを隠せなかった。
「ああ、あのエドウィン坊やか。夢みがちな少年だったな、可愛い子だったから特別目をかけてやったのよ。」
リリスがのんびりと返す。
「それほど親しいなら、貴女の書架にポータルがあるんじゃないですか?」
玲奈は食い下がる。
「…ふむ、思い出したぞ。おい、山田っ!ゼルギウスでも良いが、どっちかおらんか!玲奈、私もポータルが開通次第、アルステッド家に行く。現地で会おう。」
勝手に話をまとめ、リリスは通信を切った。
玲奈は少し呆れつつも、リリスと合流できるなら問題ないと納得し、風の使いにリュークとカインを乗せて、西へと急いだ。
アルステッド家の庭先で洗濯物を干していたリナ・アルステッドは、突然、森の中から飛び出してきた異形の生物に驚いた。
「きゃあ、何これ!」
玲奈は風の使いを停止させ、リナに話しかける。
「私と同じ黒髪の少女を探してるのだけど、知らないかしら?」
リナは突然の出来事に戸惑いながらも、兄から口止めされていた話を思い出した。
(どうしよう、お兄ちゃんが言ってた悪い魔法使いの追跡者かもしれない…)
玲奈はリナが何かを知っていると感じ、風の使いから飛び降り、彼女に近づいた。
「知ってるのね!全部話しなさい!」と両肩を掴んで詰め寄る。
「ええ?!な、何ですか!」
突然の行動に驚くリナを見て、リュークが助け舟を出した。
「玲奈姉ちゃん、その子ビックリしてるよ。落ち着いて。」
リュークが玲奈の腰を軽く叩いて、冷静になるよう促す。
「…じゃあ、エドウィン・アルステッドという人はご存知ない?」
玲奈が質問を変えると、リナは少し寂しそうに答えた。
「お父さん?私のお父さんだけど、春先を過ぎてから帰ってきてないのよ。」
その言葉に、玲奈は少し愛おしさを感じ、優しい眼差しになった。
「私は藤井玲奈。異世界から召喚されて友達を探してるの。後ろにいる少年がリュークで、風の使いに乗ってるのがカインよ。驚かしてごめんね。あなたの名前は?」
安心したリナは、少し笑顔を見せた。
「私はリナ・アルステッド。お父さんに用事なの?探してるお友達とお父さんが一緒にいるの?」
その時、リナの母エリザベスが心配して駆け寄ってきた。
「何かしら?うちの娘に何か?」
リュークとカインはエリザベスを見て、記憶の中の母親と重なり、思わず胸が高鳴った。
(本物のお母ちゃんだ…)
「あら、貴女、ケイリーさんかと思ったけど別の方ね…あっ、言ったらダメだったかしら?」
エリザベスはリナに目配せしたが、リナは兄の言いつけを守っていたので、ボロを出した母を睨んだ。
「ん、もぉ〜っ!お兄ちゃんに口止めされてたのにっ!」
リナが口を尖らせると、エリザベスは娘の頭を撫でた。
「でも、一目見て悪い人たちに見えなかったから、つい…、ごめんね、リナ。アンタは約束守って偉いね。」
「ケイリーって言いましたね?やっぱり勇者召喚が行われたんですね。私と似た黒髪のケイリーが現れたのですか?」
玲奈は確認を求める。
「おお、つまり美咲姉ちゃんか!」
リュークも興奮して前のめりになる。
「うちの不肖の息子がね…、あなた方も巻き込まれたのね。本当に申し訳ないわ。」
エリザベスが深く頭を下げた。
その時、誰もいないはずのアルステッド家の扉が静かに開き、二人の男が出てきた。
「ええ?誰なの?どうして家の中から…」
リナとエリザベスが驚く中、銀髪の女性が後に続いて現れた。
「やあ、エリー。エドウィンは元気にしてるか?」
その声を聞き、エリザベスはハッと顔を上げた。
「もしかして、そのお姿は、リリス様?」
と、10才くらいの時に会った事のある、夫の先生と再開したのだった。
夫エドウィンの行方がわからないまま、過去の知人が訪れたことで、彼女の胸に一抹の不安がよぎった。
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