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異世界へ召喚された女子高生の話-05-

つかの間の平穏

朝のさわやかな空気の中、高橋美咲みさきは学校に到着した。

私立清風せいふう学園高等学校、都内の閑静かんせいな住宅街にある伝統ある女子校。
進学校としても知られており、学業に厳しいが、生徒たちの自主性を重んじる教育方針を持つ。
セーラー服が特徴で、文武両道を掲げ、部活動も盛ん。校則は厳しいが、生徒の自主性や個性を大切にしている。
その学生は、周辺住民からの羨望の眼差しで見られる。

彼女は肩から図面ケースをおろし、つるぎが入ったそれを急いで自分専用のロッカーに押し込み、隠すようにしまい込んだ。
昨日の出来事が現実離れしていたせいで、そのつるぎが目に入るだけで、あの恐ろしい体験がよみがえりそうになる。

「おはよう、タカミー!」

美咲の後ろから軽快な声がひびく。
振り返ると、茶色に染めたアイドルのような髪型をした佐藤 実里みのりが笑顔で近づいてきた。

彼女は高校に入って最初にできた友達で、誰とでも仲良くなれる社交的な性格だ。

「おはよう、みのりん。」

美咲みさきは自然に笑顔がこぼれ、友達との日常が戻ってきた感覚にほっとした。
こうして佐藤 実里みのりと話していると、昨日の出来事がまるで嘘のように思えてくる。
実里は軽く美咲みさきの腕を叩きながら、今日の授業や放課後の予定について話し始めた。

しかし、その一方で、異世界では新たな動きが始まっていた。

ロウェン・アルディンは、召喚した勇者が小娘だったことに最初は失望していた。
しかし、その小娘がゴブリンとの戦いで彼らを追い払い、リーダーのグリゴールにも深手を負わせたことを知ると、次なる計画をり始めた。

彼の魔法の力で、勇者を再び召喚し、今度はさらに強力な魔物を討伐させるつもりだった。

ロウェンは弟子たちを集め、儀式の準備を命じた。

彼の一番弟子であるダナン・ティーマスは、必要な材料や生け贄の生き物(にわとりかうさぎ)を急いで集め始めた。
ダナンは忠実で有能な弟子で、ロウェンの命令には一切さからうことなく従っている。

「勇者殿も負傷しているようだ。現場の血痕けっこんを確認してきたが、傷の具合からして、次の召喚が成功すればもっと強力な力を引き出せるかもしれない。しかし、もう一人準備しておく必要があるかもしれないな……」

ロウェンは弟子たちにプランBとも言える第二の案を伝えた。
それは、もし勇者が役に立たなければの想定だ。

美咲の身体からだには、ロウェンが密かにほどこした魔法によるマーキングがされており、それによって彼女はいつでも魔法の対象となり、再び召喚される運命にあったのだ。

学校生活が進む中で、美咲みさきは放課後、部活に熱中していた。
彼女はバドミントン部に所属しており、今日も敏捷びんしょうな動きでシャトルを追いかけ続けていた。

ネットの向こう側には友人の守山 花梨もりやま かりん、通称モカリンが立っていた。
モカリンは美咲みさきに負けないほどの実力者で、二人の勝負は白熱した。

しかし、モカリンのたくみな攻撃により、美咲みさきは逆を突かれ、最後には負けてしまった。

疲れ果てた美咲みさきは、シンプルなシャツとスコートのユニフォームを脱いで制服に着替え、帰宅の準備を始めた。

「忘れ物しちゃった……」

美咲みさきは突然、自分のロッカーにつるぎを置き忘れていることを思い出し、慌てて校舎へと走り出した。
モカリンたちには声をかけ、「先に行ってて」と伝えたが、ロッカーに向かう途中で、再び頭がクラクラする感覚におそわれた。

「……また?」

次の瞬間、彼女は暗い森の中を彷徨さまよっている自分に気づいた。

間違いなく、あの異世界に再び召喚されてしまったのだ。
しかし、今度は例の魔法使いのいる街ではなく、森の中だった。周囲の不気味な静けさに恐怖がこみ上げてくる。

「どうしよう……つるぎを持ってこなかった……」

美咲みさきは、山田の忠告を軽く考えていた自分に絶望した。
護身のためにと持ち歩いていたはずのつるぎが、今は手元にない。このままでは、再び危険な状況におちいる可能性が高かった。

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